迷宮への挑戦 2
翌朝、朝食を済ませた俺達は、いよいよ26階層へと出発した。
25階層の隠し部屋には、シズカがマーキングしてるので、今日の攻略後も転移で戻って来るつもりだ。
26階層に全員が降り、迷宮に挑もうと踏み出そうとした時、昨夜ナーサが召還した『違いが判る男爵』が、ステッキをクルクル回しながら集団の先頭に飛び出した。
そして徐に、地面に1m程の円を描き、円を指差した後、両手を交差させてこっちに見せる。
突然の事に、全員唖然としていると魔力の繋がりによって意思疎通が出来るナーサが説明してくれた。
「ここ‥魔法陣が‥あるから‥避けてって言ってる‥なの」
確かに、僅かな魔力の気配は感じるが、俺では、あんなに範囲は絞れそうに無い。シズカが面白がって守備隊の[ロックゴーレム]を進ませてみると、地面に白い魔法陣が現れ、あっと言う間に[ロックゴーレム]の姿が消えた。
「この玉子さん、中々やりますわね!」
「ああ、たいした能力だ。よくやったぞナーサ!」
そう言って、ナーサの頭を撫でてやると、嬉しそうに微笑んでいた。
本隊の先導を『違いが判る男爵』に任せ、ツバキと俺は、先行した。
さっきの転移魔法陣で試したのだが、『壁移動』『影移動』共に、魔法陣に引っ掛からなかった。流石に、ここまでレアな能力は、想定してないんだろう。
しかもメリットは、もう一つあった。魔物は、侵入者の接近によって産み出される様で、感知に掛からない俺達は、今誰も居ない迷宮を進めている。
弓矢や、落石トラップ等の物理的なトラップを解除、破壊しつつ奥に進むと、これまでのボス部屋の様な無地の岩の扉では無く、禍々しい生物の様な装飾が施された、重厚な扉が見えてきた。恐らくこれがボス部屋で間違い無いだろう。
「よし、ツバキ。ボス部屋は見つかったし、皆の所へ戻ろう」
…コクコク!
ボス部屋の位置を確認した俺とツバキは、本隊と合流すべく、道を戻った。
本隊に戻ると、魔物と戦闘の真っ最中だった。
シズカ達に襲い掛かる魔物は[メイジスライム][デミゴブリンアーチャー][サイクロプス]の3種類。
[メイジスライム]は炎と風系統の魔法を使う。近接する個体同士でそれぞれ『炎』と『風』の魔法を使われると『炎嵐』の魔法が発生。威力は個々の魔法の比では無い。
[デミゴブリンアーチャー]は、やや距離を取っての射撃。[サイクロプス]は、巨体と手に持った大きな棍棒での直接攻撃が主体となる。
こちらに背を向けてシズカ達を狙う数体の[デミゴブリンアーチャー]をツバキと斬り捨てると、本隊では最後の[サイクロプス]をガブリエラが貫いた所だった。足元には、エレノアが凍らせた[メイジスライム]が転がっている。
「お兄様!」
俺の姿に気づいたシズカが、盾を開いてこちらを見る。守備隊の[ロックゴーレム]が1体倒されている様だ。
「ただいまシズカ、ボス部屋は見付けて来た。こっちは大丈夫かい?」
「ええ、ですが先行し過ぎた『違いが判る男爵』を庇って、『Mrサンシャイン』が倒されてしまいましたわ。これで守備隊の残りは『阿修羅男爵』ただ一人…」
([ロックゴーレム]に名前を付けていたのか…。ってかその前世で見た牛丼好きなヒーローのキャラ名に微妙に被ったネーミング止めなさい!)
本隊と合流してからも幾度と無く、魔物の襲撃を受け、それを退けた。
進行ルート上の殆どのトラップは、解除、破壊してあったのだが、丁度ボス部屋の扉が視界に入る所で『違いが判る男爵』が、再び転移魔法陣を見つけたのには、驚かされた。迷宮入口とボス部屋前、どちらも配置が絶妙だ。
またナーサの頭を撫でてあげると、はにかんだ様に笑って喜んでいた。
「ここのボスの情報は説明した通りだ。まあ大丈夫だと思うが用心は怠らないでくれ。いくぞ!」
一通り、ボスについてのおさらいをして、俺達はボス部屋に入った。
ボス部屋は、やや薄暗い…。そして奥から人影の様な物がふわふわと姿を見せると、暗いと思われた天井の黒い影が一斉に飛び交った!
26階層のボスは[霊体魔導士]と無数の[イビルアイ]だ。
[霊体魔導士]は、闇系統の魔法攻撃だが、これは『冥府の森』で見飽きる程戦ったので脅威にならない。どちらかと言えば厄介なのは[イビルアイ]だろう。これは黒い眼玉だけの身体に蝙蝠の様な翼が生えた魔物なのだが、その眼を見ると一時的に『混乱』状態に陥る。
ただ闇属性に強いガブリエラの【千剣円舞曲】で、あっと言う間に全て倒してしまったが…。
敵を殲滅した後、褒めて下さいオーラ全開で俺の前に膝を付くガブリエラ。
「流石はガブリエラだ。ありがとう」
そう言ってガブリエラの頭を撫でる…ん?こんなキャラだったか?俺がナーサや他の仲間にそうしているのを見て感化されたんだろうか…だが、耳を赤くしながら本当に気持ち良さそうだ。
つい、そんな事を考えながら長く撫で続けていた為、他の仲間に刺さるような視線を送られ、我に返る。
「よし、では少し早いが奥で昼食を摂って、それから27階層に向かおう」
ボス部屋には、次の侵入者が入って来るまで、新たなボスは産まれ無い。俺達は下層への通路が出現した付近で、食事を摂った。
早めに食事にしたのは理由があった。…すまない皆、話しそびれたが次の階層には『アレ』がいるんだよ…。




