迷宮への挑戦 1
『魔剣』回収後、俺達はボスである[ウォールシャーク]を倒し19階層の平原にいた。
「失敗…したじゃんよ」
ここでもダスラは、[範囲]テイムを試したのだが、現状では18階層が限界の様だ。
しかし、単体でのテイムは前回も20階層まで成功してるので、今回どの程度行けるか楽しみではある。
草原を抜け、ボスの[デスハウンド]を倒して、20階層に降りた。
20階層の[ロックゴーレム]は毒耐性があり、意外に使えるのでダスラに個別で3体程テイムしてもらう。ボスの[メタルゴーレム]を配下に出来れば、武器攻撃耐性も高いので用途は広がるが、ダスラの能力的な限界もある。まあここでは、倒しておこう。
ボスを倒した俺達は、予定通り20階層の隠し部屋に泊まる事にした。
「それにしても、無事に地上に着くかなあ?」
成り行きとは言え、『魔剣』を預かる事になったので何となく気になり言葉が出た。
「お兄様は、甘いです!あんな失礼な男はどこで野垂れ死んでも、全然構いませんわ!」
「そうですよシンリ様!雷で感電させて捨ててくれば良かったんです!」
…コクコクコク!
「その御優しい所も、我が君の良いところじゃがのう。ほほほ」
「ダンナ様‥優しい‥なの」
「シンリが冷酷だったら、オレ達とっくに死んでるかもじゃんよ」
「主君の命あらば、これより追撃し処断してまいりますぞ!」
ガイウスがどうなろうと、そこまで心配してる訳では無いんだが…そう言えばアイリは、進化してから好戦的になった気がする。性格もクロに似てるかも。
「ちなみに、明日以降の攻略だが。明日は25階層まで進んで、そこで野営。以降は、状況にもよるが、1日2層から3層程度を目途に進んで行こうと思う」
皆の気持ちを切り替える為に、明日以降の工程を打ち合わせる事にした。
「ダレウスの言っていた『26階層からは迷宮が別物になる』ってやつですわね」
「そうだ。事前に皆にも話したが、ダレウスの話では、26階層以降になるとまず迷宮自体の広さが広くなる。さらに迷宮としての難易度も上がり、危険な罠等にも警戒の必要が出て来るらしい」
「それに加えての、複数の魔物の出現‥じゃったかのう」
「そう。エレノアの言う様に、数種の魔物が迷宮内を徘徊しているので、それぞれ違う攻撃にも対処が求められるんだ」
皆の表情が、やや厳しいものになる。
「まあ、俺達なら問題無いだろうが、油断は禁物だ!気を引き締めて行こう!」
「明日からが『黒装六華』の伝説の始まりですわ!」
シズカの檄に、拳を突き上げ応える仲間達。何だかノリが恥ずかしい気もするが…。
その晩、女性陣は夜遅くまで興奮状態で、きゃっきゃっと騒いでいた。
翌日、正直俺の出番は殆ど無く、難なく25階層にたどり着いた。
自信が付いて来たのか好戦的なアイリを筆頭に、負けじと燃えるツバキとガブリエラ。
これだけでも反則級なのに、シズカは妙なノリでダスラのテイムした[ロックゴーレム]と並んで前面に立ち守備隊を結成。その守備隊は、直接攻撃系の多いこの5階層間でもシズカの盾の能力に底上げされた防御力で、鉄壁を誇っている。
そんな彼女等の後方で俺は、何故かナーサに手を繋がれ、エレノアに腕を組まれて呑気に付いて行くだけだった。
25階層のボス[将軍オーク]を倒した俺達は、少し早いが隠し部屋に入り休む事にした。
「明日からは罠有りか…。俺とツバキで先行して調査し、対応するしか無いだろうな」
「お兄様、どんな罠がありますの?」
「ダレウスによれば、落とし穴や吊天井、様々な武器系トラップが有るらしい」
「何だか、意外と普通ですのね」
つまらなさそうに言うシズカだが、俺はまだ全てを語ってはいない。
「ああ、だが最も警戒すべきは、『転移陣トラップ』と『モンスターハウス』だ」
「後者は、よく聞くアレですわね。閉じ込められた室内に、魔物が大量に湧くという。『転移陣トラップ』は、読んで字の如しですの?」
「ああ、突然地面に転移魔法陣が現れ、どこかに転移されるらしい。それも、運が良くて同階層のどこか。最悪は、10階層程まで戻される事もあるそうだ」
「じゅ、17階層にだけは、死んでも飛ばされたく無いですわね」
俺とシズカの会話を聞いていた、他の者達もシズカ同様やや青い顔をしている。
「…ダンナ様」
突然背後から俺に声を掛けて来たのは、ナーサだった。
「どうしたんだいナーサ?」
「私も‥役に‥立ちたい‥なの」
そう言って俯くナーサ。ダスラとしては働いてくれてるので、問題無いのだが、元々の人格であるナーサにとっては、自身が何も出来て無い事に焦りを感じてるのだろう。
ナーサの能力は未知数だが、いつまでも試さない訳にもいかないだろうな。
「わかったよナーサ。それなら一つ頼まれてくれないか?トラップを検知または解除出来る様な能力を持ったコを召還して欲しいんだ」
大火力の魔獣とかを呼び出されても困るし、今の話の流れで本当にそんなのが居たら助かると思って、言ってはみたが…そんな都合のいい魔物や精霊なんているんだろうか?
「わかった‥がんばる‥なの」
イメージしているのか、少し離れた所で目を瞑って動かないナーサ。
しばらくすると、いつもの様に足元に魔法陣が現れた…のだが、やけに小さい…。
その小さな魔法陣から、ヒョコッと出て来たのは小さな黒いシルクハット。続いて、顔の無い丸い頭、そしてタキシード。シルクハットの先まで入れて身長50cm位、見た目はタキシードを着た手足の有る玉子だ。右手にはステッキを持ち、時々クルクルと回している。
「『違いが判る男爵』…なの」
そう言うナーサの言葉に合わせて、玉子の紳士は、シルクハットを取って丁寧にお辞儀した。




