対決
5m程の距離で対峙する俺とガイウス。
ガイウスが、右手を振りかぶると、まるで手品の様にその手に数本のダガーが現れ、投擲された。
俺は、刀をワザと下段に下げ、その全てを身体で受けて見せた。
鈍い音を響かせて、全て弾かれるダガー。それを見たガイウスの手には、大きな弓が有り、番えた矢が俺を狙っている。躊躇う事無く、至近で放たれる矢。
しかし、それすらも俺に小傷一つ付ける事は無い。
2射3射と、ガイウスが弦を引く度に矢がどこからか現れ、次々放たれるのだが、その全ては弾かれ俺の足元にただ転がるのみだ。
「そ、それは[金剛]に似たスキルだと言うのか?」
流石に、焦りの色を濃くするガイウスは、ダレウスの[金剛]に類似した能力だと、勘違いした様だ。
(ミスティの防御は[金剛]程、脆くは無いが‥)
弓を手放したガイウスは、2m程の長槍を勢いよく突き込んで来る。
槍が、俺の間合いに入ると、刀を軽く4度振る。それにより、長槍は穂先から20cm位の幅毎に切断される。これも、常人には、俺が刀を一閃した様にしか、見えないだろう。
突如穂先からバラバラになった長槍を捨て、ガイウスが構えたのは、1,2m程の分厚い鉄板の様な幅広の刀身に、長い柄を付けただけの武骨な剣、いわゆる斬馬剣と言われる物だ。
斬馬剣を、力任せに振り下ろすガイウスだったが、その刀身は俺の身体に触れる事無く、俺の刀により10等分されガランガランと転がった。
ちなみに、『聖霊装身』の俺は、[村雨丸]を完璧に使いこなせているのは、言うまでも無い。そもそも、俺が振るう刀を、外部からミスティが調整する事に、無理があった訳で、今の俺達はそれらを二人で同時に行えている為、抑える事も、より強化する事も、更には飛沫の飛びさえ調節出来るのだ。
本来[村雨丸]を使いこなす目的で試した『聖霊装身』だったが、その真価は、並外れた防御力にあると言っていい。
普段、パーティ全体を包む様に、薄く広範囲に張るミスティの防御を、シンリ一人に集中させて展開するのだから、その効果は尋常では無い。シンリ自身の魔力を加えたそれは、ガブリエラの『千剣円舞曲』をも凌いでみせた程だ。
もちろん、代償として仲間の防御が無くなるが、各自のLvアップと、シズカの[M女の両手盾]の防御フィールドで対処出来るだろう。
「何故だ?何故こんな剣を切っても、貴様のその細剣は、折れないんだ?」
成程、斬馬剣は俺が刀1本しか装備してないのを見ての武器破壊目的だったのか。
「意外に、考えて戦うんだな。腐ってもSランクって事なのかな」
俺は、ワザと茶化す様に、言った。
「ちくしょうがっ!」
次に奴が取り出したのは、片手斧が2本。これまた刃がやたら分厚いので、こちらの武器狙いだろう。
確かに、100もの武器を持つガイウスならば、相手の持ち武器を全て先に破壊してしまえば、それだけのアドバンテージを得る事が出来る。
だが、[村雨丸]の場合は、実際の刀身には、何も触れる事が無いので全くの無意味だ。
片手斧も、続いた両手持ちの大戦斧も、あっさりと断ち切られ崩れ落ちた。
「くそ!!」
ガイウスが、ムキになる理由は他にもあった。俺は、立ち合いが始まってから、元の場所を一歩も動いて無いのだ!その事実が、余計にガイウスを苛立たせていた。
棍棒、ハンマー、鉄棍、片手戦斧、両手大剣、鎖付き鉄球…。
武器破壊目的を前提とした武器を選んで、次々と叩きつけてくるガイウスだったが、ただ悪戯に、武器の残骸が増えるだけだ。
「百も武器があって、俺に傷一つ付けられないのか?」
俺が、何気無くそう言うと、ガイウスの顔色が明らかに変わった!
「貴様ー!ダレウスと同じ台詞をー!!」
その言葉に、これまで以上の怒りを露にしたガイウスは、何かを決心した様に、宙を見つめると一瞬目を閉じ、体の前に両手を突き出した。
「来い!『魔剣』よ!」
ガイウスの問いに応え、禍々しい鞘に収まった一振りの大剣が、その手に握られていた!
「覚悟するがいい!これはダレウスにも使った事の無い、新たな『力』だ!」
「あれは‥『魔剣ダーインスレイヴ』!」
その剣を見て、驚きの声を上げたのはガブリエラだ。
「知っているのか?」
「はい、愛剣を探す旅の道中で見かけました」
「魔剣?…凄い剣なのか?」
「いいえ、剣自体は良く切れる剣、程度の物です。しかし、その正体は…」
「何をぐだぐだと…この『魔剣』の力を思い知るがいい!」
俺とガブリエラが、そんな話をしていると、ガイウスは鞘から『魔剣』を抜いた!
刀身には、血管の様な模様が有り、それはまるで脈打ってる様に見える。
「なんて事を!抜いてしまうなんて…」
「どういう事だ、ガブリエラ?」
「あの『魔剣ダーインスレイヴ』は、血を求める魔剣。最低でも人体一人分の血液を吸うまで、鞘には戻りません!」
「もし、血を吸わせ無かったらどうなる?」
「その時は、剣が魔獣と化して、自ら血を求め、誰彼構わず襲います!」
「前に見た時は、どうやって対処したんだ?」
「はい。その時は、持ち主と数人が血を吸われ、鞘に戻った所を私が持ち去り、祠を作って封印しました」
(…祠に封印。何かひっかかるが…)
「まったく、どこまで面倒臭い奴なんだ、ガイウス!」
『魔剣』を手にガイウスが俺に斬りかかる。その動きは、さっきまでと別人の様に速くなっている!
…{魔剣の魔力が使用者に流れ込んでいるみたいね}
「くっ、みたいだな!」
迫る『魔剣』を、切断しようとしたのだが、寸前で回避された。
「なら、これはどうだ!」
そう言って俺は、刀を一閃する。刀身から大量の飛沫がガイウス目掛けて飛び散った。
この飛沫自体にも切断能力がある為、剣で受ければ多少のダメージがあるはずだ。
ガイウスは強化された動きで飛沫を躱す、しかし全て躱しきれるものでは無い。
ところが、剣で受けるかと思われた飛沫を、あろう事かガイウスは剣を庇ってその身で受けた!
「な!?」
数か所に飛沫を受け、裂かれる軽鎧、飛ぶ血飛沫…。だが、ガイウスは声を上げる様子も無い。
「主君、あれは『魔剣』。高い身体能力を付与する対価に、持ち主の意識を奪います。あの者の肉体への負荷は相当のはず」
「完全に、剣に操られているって訳か。しかも血であれば敵味方関係ないと」
見るとガイウスの傷口の血が霧状になって『魔剣』に吸い込まれていく。
「何にせよ、あまりのんびりもしてられ無いな…」
…面倒でも、ガイウスを殺してしまう訳にはいかない。
俺は、傷口の出血がすっかり消えたガイウスに向かい、刀を構えた。




