遭遇
ボスを倒し、17階層に降りると、四方からカサカサと音がする。大量のアレが居るようだ。
ここで、ダスラがテイムを試みる。何だか表情が必死だな‥。その気合が通じたのか、LV上昇の恩恵か、テイムに成功するダスラ。ただ、黒い矢印がボス部屋まで続いてるのは、どうなんだろう。女性陣は、それを見ない様に必死だ。
ボス部屋に着くと、先約が居る様で扉が開かない。
十中八九ガイウス達だが、このエリアで待たされる事になった女性陣の殺気が半端無い。
(本当に、無意識に敵を作る天才だなガイウスは…)
彼の百の武器は、対魔物用じゃなく敵対する人からの護身用なのでは?等と考えていたら、やっと扉が開いた。
待ち切れなかったのだろう。扉が開くと同時に、エレノアが豪炎弾を室内に放ち、全て焼き尽くした。
急ぐように18階層に降りた俺達の耳に、はっきりとすぐ奥で戦闘の音が聞こえている。
「まずいな。やはり追い付いた…」
「気にせずまいりましょうお兄様!」
そう言って、安易に歩き出したシズカに、奥から矢が飛んで来た!
盾で、軽々と受けるシズカっだったが、失礼な歓迎に怒りを露にする。
「落ち着けシズカ。ここの[ウォールフィッシュ]が、壁面からいきなり飛び掛かって来るのは、知ってるだろ?警戒してて当然だ」
「…お兄様が、そう仰るのでしたら」
やや落ち込んだ様子のシズカの頭を、優しく撫でる。
「ダスラ、テイムの効果は?」
「[範囲]テイム成功じゃんよ!ひょっとして、オレってかなり強くなってるじゃんね?」
ダスラは、テイムした魔物の戦闘で経験値を得る。その為、前回の迷宮攻略時にも、かなりの速さでLVアップしていたのだが、LVが見えないので本人は、分らないのだ。
嬉しそうなダスラを、これまたガシガシと撫でてあげた。
「よくやった。では、魔物達に大人しくしておく様に指示を頼む。出来れば姿を見せない様に」
「了解じゃんよ!」
そう言ってダスラに指示させると、魔物が姿を消したのだろう。前方からの戦闘の音が止んだ。
「いるんだろガイウス?」
静まり返った、迷宮に俺の声が、響く。
「ち、もう追い付きやがったのか!?お前等も、同じ様に暗い内に迷宮に入るとはな」
苛立ちを、隠せないガイウスの声。出発の時間差が無かったから、追い付かれた位に考えてるらしい。
「今、魔物を消したのは、こちらの仲間の能力だ。どうだろう、先に通らせてもらえないか?」
そう言いながら、俺達は迷宮を進み、ガイウス達のパーティを視界に捉えた。
先日よりやや防御面積の広い、軽鎧を纏うのはガイウスだろう。その後ろに魔法職らしい者が2人と、マジックバッグを持った戦士風の者が2人、その一人が弓を持っている。シズカを撃ったのは彼かも知れない。皆、疲れ切って居る様で、座り込んでしまっている。
「ふざけるな!何故貴様如きに、この俺が道を譲らなきゃならないんだ!」
「だが、このままついて行っても仕方無いだろう?」
「雑魚は、雑魚らしく、俺様の後ろをノコノコついてくればいいじゃないか!」
どうあっても、ガイウスに道を譲る気は、無さそうだ。
「お兄様を‥雑魚と。あの者、少々調子に乗り過ぎなのでは無くて?」
「何だか、イライラします!雷落としていいですかシンリ様?」
「主様侮辱‥死罪確定」
「我が君を雑魚呼ばわりとは、神とてそうは言えまいて。ほほほ」
「ダンナ様は‥雑魚違う‥なの」
「主君、御下命下されば即座に処断致しますが?」
皆の殺気が、上昇していく。じりじりとガイウスに向けて踏み出そうとする彼女達を、俺が手で制した。
「俺がやろう。シズカ、流れ弾から皆を護ってくれ」
そう言って俺は、ガイウスに向けて歩き出す。
…{ふふふ、やるのねシンリ}
(ああミスティ。丁度いい実験台だ)
そう言葉を交わすと、俺の中に魔力が清流の如く流れ込んで来る。
今、この状況を見える者が居たら、その目には俺の背中からミスティが同化していく様に映るだろう。
俺の体内で、俺の魔力とミスティの魔力が混ざり合い、俺とミスティの存在の壁さえ無くなって、溶け込んで行く様な感覚。
それが進むと、あらゆる感覚も共有され、ミスティが『見て』いる光景も俺自身が見ている様に見える。『冥府の森』の洞窟、昼寝しているクロ達。王都の屋敷、洗濯物を干すセイラ‥。
同化が終わると、俺の体表を薄っすらと水の膜が覆い、キラキラと輝いている。
これがエレノアのくれたヒントを元に試行錯誤の末、完成した『聖霊装身』だ。
本来の精霊使いと契約精霊の方法とは、全く違う物だが、ミスティがそれだけ高位である事と、それに劣らないだけの俺の魔力。何より俺とミスティの絆が、ここまでの結び付きを可能にしている。
「お兄様、なんて美しいんでしょう」
「はあーやっぱり綺麗です!」
「主様‥ハアハア」
「益々、我が君の御子が欲しゅうなるのう。ほほほ」
「ダンナ様‥キラキラ‥なの」
「たあー何だコレ?凄過ぎじゃんよ!」
「主君、神族と見紛うばかりの輝きですな!」
「それが貴様のユニークスキルって訳か、目眩ましとは芸が無い」
見る事も、測る事も出来ぬのだろう、目の前の俺がどれ程の存在なのか、その力の一端も解らず吠えるガイウス。
「もう一度だけ言う。素直に道を譲る気は無いか?」
「しつこいぞ雑魚の分際で!」
「仕方無いな。大切な妹に矢を射られた件もある。そのプライドごと叩き潰してやろう」
そう言って、俺は[村雨丸]を抜き放った。




