迷宮へ
翌朝、俺達は早起きして迷宮に向かった。
昨日の様な騒ぎを避ける為だ。露店もまだ開いてない町を抜け、迷宮入り口に来ると、俺達の策は徒労だと知らされた。
迷宮入り口付近には、泊まり込みをしたであろう公式親衛隊の面々が見える。
まるで限定商品を買いに並ぶ徹夜組の様だ。
一部の者が俺達に気付くと、皆左右に別れて並び、人垣の通路が出来た。気恥ずかしさを我慢しながら通路を歩くと、ギルドの小屋があり、前には黒っぽい衣装を身に纏ったマッケンの姿が…お前もかマッケン。
ギルドカードの確認を済ませた俺達に、何か言いたげなマッケンが近寄る。
「マッケン、迷宮の話ならダレウスに聞いて来たので必要無いぞ」
「そんな、俺なんかが恐れ多い。本部長からも余計な事を言わない様、指示されております」
「そうか、ならいいが」
「ただシンリ様、お気を付け下さい。まだ暗いうちにガイウス達のパーティが入って行きました。シンリ様達を出し抜こうってつもりの様です」
俺達にはナーサが居るので、早くに遭遇しそうだ。面倒だな。
ともあれ、俺達は、何処の宝◯歌劇団だ?と言いたくなる様な熱烈な見送りを受け、迷宮に入った。
出来るだけ、ガイウス達に追い着きたくないので、のんびりと階層を下って行く。しかし、上層は、例の如くただ歩いて行くだけだ。仕方無いので、5階層の隠し部屋で、一旦休憩を取る。
「お兄様、あの者の能力は何ですの?いきなり虚空から短剣を出した様に、見えたのですが?」
流石シズカだ、ファンにスケッチされながらも、アレが見えていたらしい。
「あれはユニークスキル『精霊の武器庫』って言うらしい。武器限定だが収納取り出しが出来、収納時に一定時間を掛けて手入れや修復までされるのだとか。騎士や戦士職の家系に、ごく稀にこのスキル持ちが産まれる事があるそうだ」
「それって、お兄様の【魔眼】みたいに無限ですの?」
「いいや、通常は2,3個‥多い人でも10前後の武器が収納出来る位らしい。奴はそれが100まで可能らしくてな、付いた二つ名が『百戦器』って訳だ」
「スキルだけは使えそうな方でしたのね。武器は、自動で作られますの?」
「残念ながら、武器は自分で用意して収納する必要があるんだ。シズカの『残念な一張羅』の様に、無から精製する事は出来ないみたいだよ」
(まあ、その分シズカはハイリスク過ぎるけど‥)
休憩が終わり、10階層を目指して出発した。
時間が経ったので、上層にはちらほら冒険者のパーティの姿が見える。何だか、黒っぽい装備の者達が以前より多い様に感じるのは、自意識過剰だろうか?
「お兄様、私達にあやかろうと、今街の武具店では、黒い装備が大人気ですのよ」
シズカが、自慢げに耳打ちする。余計な事を吹き込んだりしてなきゃいいが…。
そうこうする内に、10階層に着いたので、隠し部屋に入りお茶にする。
「意外に、早いペースで攻略してるみたいだな。ここまで遭わないなんて」
「本当ですわね。でもお兄様に張り合って、夜明け前に出たのでしょう?きっと必死に飛ばしているのですわ」
「今日中に20階層までは行っておきたい。ダスラ、行ける所まではテイムを試してくれるか?」
「了解じゃんよ!」
そう言って10階層を出た俺達。結果としてダスラは、15階層のボスのテイムも成功させた。
今俺達を整列して見送っているのは、この階層のボス[軍曹キリギリス]と配下の[兵隊キリギリス]達だ。皆、敬礼するような姿勢で、整然と並んでいる。
ふとダスラに、これならボスをテイムして連れて行けるのでは?と聞いてみた。だが、ボスは基本的にボス部屋からは、出ないらしい。
15階層の隠し部屋で、俺達は昼食にした。
食後、16階層に降りる。この階層はボスである植物系の魔物[ラヴィアンローズ]が全てを支配しており、襲い来るのもボス部屋から階層全体に伸びた蔦なので、ダスラもテイムの試し様が無い。
蔦を切りながら進むと、蔦に捕らわれた2人の冒険者を見つけた。
見捨てて行くのも忍びなかったので、蔦を切って助ける。
ガブリエラに軽めの回復を頼むと、2人は意識を取り戻した。
「あ、あんた達は?」
「助けて貰って第一声がそれですの?ワタクシ達は『黒装六華』ですわ!」
「ああ、すまない。助かったよ…それにしても、もうここまで来たなんて」
俺達を知っているのか、驚きを隠せない2人。
「俺達を、知っているのか?」
「まあ、24階層突破の噂はな。それにガイウスのヤローが、あいつ等が来るから急げ急げってしつこかったから」
「やっぱりアイツのパーティか。それでアイツは?」
「あのヤロー、面倒だからって、俺達を捨てて行きやがったんだ!」
2人は、共にギルドで無理矢理スカウトされた冒険者で、回復職と戦士だった。
「俺は、魔力切れで休ませてくれって、言ったら置いていかれたんだ」
限界まで魔力を使ったんだろう、回復職の男の顔は、真っ青だ。しかし奴のパーティなので面倒があっても困る。ガブリエラには最低限の回復しかさせずにいた。
「畜生が、荷物持ちさえしてれば下層まで連れてってやるとか言いやがって、仲間を守るなんて全くしやしねえんだ!」
「回復だって、勿体無いから自分以外に使うなって言いやがる。ありゃパーティなんてもんじゃ無えよ!」
まあ、言い分も解るが、そもそも迷宮に来るのに荷物持ちだけとか、回復だけとかで来てる時点で、こいつ等にも問題があるんだが、正直もう愚痴に付き合うのもうんざりなので、上階から連れてきた[兵隊キリギリス]2体を護衛に付け、少しの食料と水を渡して、上に向かわせた。
「しかし…」
もう少しで、奴らに追い付くと思うと気が重い。
だが、そんな俺とは違い、女性陣が皆一様に恐れているのは、ガイウスでは無い。
そう、次の階層はアレが待っているのだ。
本作品も、とうとう70話で御座います。
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