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親衛隊?

前日の特訓が深夜に及び、俺が目覚めたのは、昼前になってからだった。

着替えて下に降りると、準備万端の仲間達と、ラティ達が頑張って作った大量のお弁当が用意されていた。

「おはよう皆、遅れて済まない」


「構いませんわお兄様。それより特訓上手くいったみたいで何よりですわ」

「シンリ様はどんどん強くなっちゃいます」

…コクコク!

「妾も、まさかあれ程とは。これは益々我が君の御子が欲しゅうなるのう」

「ナーサも‥見たかった‥なの」

「オレも買い出しより、そっちが良かったじゃんよ」

「確かに、主君は人族の範疇に収まる強さではありませんね。主君の剣を名乗る身として、私も、より精進せねば」


寝坊して、起きて早々褒めまくられるとは、何ともむず痒い。俺は逃げる様に、顔を洗いに風呂場に向かった。

「どうぞシンリ様」

顔を洗った俺に、布を差し出してくれたのは、セイラだった。

「ありがとう」

そう言って、顔を拭く俺を突然柔らかい感触が包み込む。見ると俺はセイラに抱きしめられていた。

「シンリ様、いいえシンリ。私もオニキスもラティさんも、共に戦う事は、出来ません。だけど、貴方を思う気持ちは皆同じ。心は常に共にあるという事を覚えておいてね」

すると、腰の辺りにも別の感触が。身長的にもオニキスだろう。

「シンリお兄ちゃん、オニキスもいつも一緒だよ」

「ありがとう母さん、オニキス。うん、皆いつも、いつまでも一緒だ」

皆の間に血の繋がりは無いが、ここには確かに血よりも濃い結び付きがある。それこそが、俺自身の大切な支えなのだと、俺は改めて感じていた。


「さて、そろそろ出発するか!」

「ふふふ、全員、お兄様待ちでしたわ」


こうして俺達は、2度目の迷宮攻略に向けて出発した。ちなみに屋敷の警護の魔物は、前回の倍に増員しておいたので大丈夫だろう。


迷宮近くになり、冒険者達のキャンプが増えて来ると、何やら俺達の馬車を指差して、人々が何か言ってる様だ。

だが、以前より随分好意的に見える。恐らく24階層突破の評判が広まったのだろう。


前回、馬車を停めた辺りに来ると、あの視線の意味が少し解った。

その一角の随分広めのスペースが、張られた縄で区切られており、そこには、『24階層突破の偉業を成し遂げた『黒装六華ブラッディシックスブラック』様専用』と書かれた大きな木の板が立っていた!


「おいおい、何だコレは?」

「何ですのお兄様?あら、これは」

心配して降りて来たシズカと共に、それを見ていると、ゾロゾロと黒っぽい装備に身を包んだ一団が現れた。


「なんだお前等、この立て札が見え‥って、シンリの兄貴じゃないですか!」

俺を勝手に兄貴と呼び、先頭にいる頭の悪そうな巨体の男には、見覚えがあった。確かガゾムとか言ったか。

他の面子は、ガゾムのパーティ?いや、それにしては、人数が多過ぎる。見た所30人以上いそうだ。


「やだ『荊姫』のシズカ様よ!キャー踏み付けて罵って下さい!」

「『黒花』ツバキちゃん可愛い!」

「ヤダ!『黒狼』アイリさん、モフらせてー!!」

外の騒ぎに、馬車から降りて来る仲間達にも、次々と投げかけられる声。好意的なのは嬉しいのだが…。


「いったいお前等は何なんだ?」

「俺達、『黒装六華ブラッディシックスブラック』公式親衛隊です!」

目の前のガゾムに尋ねると、自信満々にそう言われた。いや、俺達知らないのに公式って何だ?


「俺は、兄貴達にやられて目が覚めました!しかも兄貴達は、あっさりと難関だった24階層を突破したって言うじゃないですか!俺、兄貴の強さに、心底感服しちまったんですよ!」

「公式ってのは何だ、公式って?」

「あれから、兄貴達『黒装六華ブラッディシックスブラック』の同好会や、ファンクラブがこの辺に乱立したんですが、団体同士が乱闘騒ぎになる事も少なく無くって…。このままじゃ兄貴達に御迷惑を掛けるってんで、皆で話し合い、各組織が合併して出来たのがこの親衛隊でさあ!」

「つまりファン達が公認したから公式って事か。何だかなぁー」

「まあまあ、お兄様いいんじゃなくて。悪評と言う訳じゃないですし」

シズカは、このノリが気に入った様だ。


「ささ、兄貴!馬車はこちらへ。ここは、俺達にとっても『聖地』なんです!」

そう言いながら、縄を解き、馬車を誘導してくれるガゾム。

馬車を停車させ、黒衣仕様の骸骨の騎士(ボーンナイト)を、10体出すと、ガゾムを始めとした一部のマッチョが俄かに活気付く!

「おおおおおお!黒の兄貴達ぃぃ!!」

(彼らのお目当ては、こいつ等か。確かに何度も倒されたみたいだったが‥ん?そっち系の?いやこれ以上は考えちゃいけない気がする)


見るとシズカ達女性陣の前では、撮影会ならぬスケッチ会が開かれている。

カメラもスマホも無い世界だから仕方無いが、画力の無い奴はどうすんだコレ?聞いてみると、好きな人の魅力を表現出来る様にひたすら努力するらしい。ご苦労な話だ。

と、考え込んでる俺も、今まさにスケッチされてる所だが‥数人、男性が混じって無いか?いや、気にしない事にしよう。


今日は、ここで泊まって、翌朝から迷宮入りの予定だったので、急ぎの用がある訳では無い。シズカにも、地域交流の一環等と言われてしまい、仕方なくファン?に応えていると、人垣の隅で何やら騒ぎが起こった。


「邪魔だ!このゴミ共が、俺達が通れないだろうが!」

「何ぃぃ!避ければ通れるだろう!神聖な会合を邪魔すんじゃねえ!」

ガゾムをゴミ呼ばわりする、金髪碧眼の男は、『百戦器』のガイウスだ。奴の性格だと、ガゾムが唯では済みそうも無い。俺は、仕方なく両者の側に近づいた。

「確かガイウスさん、だったかな?迷惑を掛けた様ですまない」

「お、お前は…」

俺の目の前で、ダレウスに押さえ込まれた事を思い出しているのか、渋い表情になるガイウス。

「ガゾム達も、もう少し避けてやってくれ。ここは天下の往来だ、邪魔するのは良くない」

そう言って、俺がガゾムの方を向き、ガイウスに背を向けた時だった。


黒いの(きさま)は許そう、だがゴミは身の程を知れ!」

そう言いながら、どこからか短剣を取り出し、ガゾム目掛けて切りかかるガイウス!


キイィィーン!

その短剣はガゾムに届く事無く、突如現れた浮遊する光剣により弾かれた!

振り返りもしてない俺の周囲には、6本の光剣が浮かんでいる。もちろんこれは、[透明化]しているガブリエラの仕業だ。だが、周囲の人々には、俺の背後に並ぶ光剣が、まるで後光の如く見えている様で、何やらしゃがんで俺を拝んでる人まで居る。おいおい…。

「ガイウス、この場は俺に免じて退いてくれ。それにS級だからとて、殺人は罪になるはずだが?」

尚も、振り返らずに俺がそう言うと、暫く唖然として自分の手を見ていたガイウスも、渋々自分達の馬車に戻って行った。

「ここは貴様の顔を立ててやる、だが迷宮では遠慮しないからな!」

そう捨て台詞を吐き、奴らの馬車は、去って行った。


それを見て、ガブリエラに剣を納めさせたのだが、その直後から俺は、目を輝かせるガゾム達マッチョ軍団に、町中を追い回される事になった。勘弁してくれ。



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