特訓
先に動いたのは、ガイウスだった。
ガイウスは、俺に向かい真っ直ぐ突っ込んで来る。その手には、いつの間にか大剣が握られていた!
振りかぶられた大剣が、俺へと振り下ろされる…が、俺は動かずにその場に留まる。
ガキイィィン!!
大きな音を立てて、ガイウスの大剣は、[金剛]を纏ったダレウスの腕で止められていた!
「この、馬鹿野郎が!」
「邪魔するなダレウス!」
剣を止めた状態のダレウスに、怒鳴られるガイウスだったが、大剣を押し込む力を緩めようとはしない。
「聞き分けのねえガキだぜ、まったく!よっと」
ダレウスが、そう言いながら大剣の腹を横から叩くと、パキンと音を立てて、大剣は簡単に割れてしまった!
「な!?」
驚くガイウスの背後に素早く回ったダレウスは、ガイウスをそのまま押し倒し抑え込んだ!
「『黒衣』の、馬鹿が迷惑かけて済まねえ!俺が言って聞かせるから、今日んトコは、引き上げちゃくれねえか?」
ダレウスが、申し訳無さそうに俺に言う。これ以上関わりたくも無かったので、俺達は、ギルドを後にした。
シンリ達が去ったギルド1階のホール。
「もう放せダレウス!何故邪魔をする?」
公衆の面前で組み伏せられた羞恥心と怒りで、ダレウスに詰め寄るガイウス。
「アイツだけは誘うなって言っただろうが!?」
「だから何故だ?使える奴なら、オレの駒に丁度良いじゃないか!」
「ったく、お前は力量差も測れねえのか?お前の百の武器でも、俺に傷一つ付けられやしなかった。違うか?」
「それは、ダレウスはSSだからな。それが何だってんだ?」
「アイツは…『黒衣』のシンリはあっさりと俺に傷を付けやがったぜ!」
「!!!」
「やっと、解ったか?そうさ、お前の方が格下だって言って忠告してやってんだよ!お前程度では、絶対勝てん!」
「そんな、やってみないと…」
「俺に勝てない奴がか?それに下手な挑発を続ける気なら、今度はギルドもお前の敵になるぜ。王都を壊滅させる訳にはいかないからな!」
「バカな?それ程…」
「それ程ヤバい奴なんだよ!」
それが冗談で無い事は、ダレウスの見た事の無い様な、真剣な目が物語っている。
その目を見たガイウスは、それ以上何も言えなくなった。
一旦屋敷に帰った俺は、[村雨丸]を手に、以前ナーサが立て籠もった廃墟に向かった。
一刻も早く、この刀に慣れなければ迷宮自体を崩壊させかね無いからだ。
一人で行くと言ったのだが、ツバキとガブリエラは、頑として聞かなかったので、同行を許した。慣れない剣で、怪我をさせたく無かったのだが…。
召喚した骸骨の騎士に、丸太で作った的を、敵に見立てて各所に立てさせる。
廃墟に一人入って、最初の的を一閃すると…背後の壁に深い亀裂が入った!
「ミスティ、もう少し出力を絞れないか?」
…{これでも、かなり抑えてるんだけどねえ}
この刀[村雨丸]は、常に刀身に薄っすらと水を纏っており、その水は超高速で流れ続けているのだ。しかも、魔力で生成された非常に細かな粒子が、その流れに含まれており、放たれた滴でさえ、強力な切断能力を持つ。その為、対象物を切断しようとすれば、同時に剣撃によって飛んだ飛沫が、その周囲の物まで切り裂いてしまう。
これを調整する為にも、俺は魔力供給をギリギリまで抑え、ミスティからも水分の供給を抑えて、纏う水流を出来る限り薄くし、余分な飛沫が飛び散らない様にする必要があった。
しかも問題は、それだけでは無い。師匠の剣も細身で切れ味に特化した物ではあったが、両刃であった為、俺の剣技自体もそれを想定している。しかし刀である[村雨丸]は、もちろん片刃。それ故、例えば切り返しの際、刀身も返す必要があり、動作が増える。それらの動作も身体に覚え込ませて修正せねばならないのだ。
今もまた、壁面が切れた。これでは、対人での打ち込みをする訳にもいかないので、ツバキとガブリエラは、離れた所で、打ち合ってもらってる。だが、光の剣が迫る、とツバキが影に引っ込む、影から刀が伸びる、そこへ光の剣が迫り、またツバキが影へ…。あれではモグラ叩きだ。アイリの進化に触発され、自身の修業に貪欲なツバキに、稽古をつけてあげたいんだが。
すっかり暗くなるまで試したが、その日は、悪戯に廃墟を破壊しただけで終わった。
翌日も、朝早くから廃墟に来ていた。出発は明日、僅かな時間とて無駄には出来ない。
今日は、ツバキ、ガブリエラに加え、アイリとエレノアもついて来てる。
俺は、昨日同様に廃墟での訓練をし、ツバキ、アイリ二人掛かりでガブリエラと打ち合っている。
エレノアは、少し離れた所から、俺の訓練の様子を見学する様だ。
ガブリエラには、10本程に抑えた光剣を操作して、両者と打ち合って貰っていた。これを、アイリの槍の雷嵐が迎え撃ち、また分身の如き速さのツバキが叩き落とす。いい感じに拮抗している様だ。
慣れてきたら、徐々に本数を増やす様に頼んであるので、いい特訓になりそうだな。
そんな事を考えている俺はと言えば、昨日よりはマシになったものの、未だ壁面に亀裂を刻んでいた。
「我が君よ、ちといいかのう?」
水を飲み、一息ついていると、エレノアが近づいて来た。
「ああ、大丈夫だエレノア。どうした?」
「ふむ、我が君に仕えしミスティ様は、途轍も無く高位の精霊様じゃ。しかし、いやそれ故に我が君は、『水』の操作の全てを委ねてるのでは、無いかの?」
「確かに、ミスティに任せているが?」
「本来の精霊使いはのう、術者が精霊の力を借りて、もしくは引き出して、魔法を行使するものじゃ」
「そうなのか?」
「それはそうじゃ、そもそもミスティ様程の精霊で無ければ、顕現どころか、力の具現化さえ、術者を媒介にせねば難しいのじゃ。それを任せきりにしたままでは、上手くいく道理が無い様に思えるのじゃ。実際に刀を持つのは、我が君自身じゃからのう」
「確かに、言われてみればそうだ。俺は、ミスティのあまりに強大な力に甘えてたのかも知れない」
ふと見るとツバキ達に迫る光剣は、既に50本を軽く超えている。
「アイツ等に、負けていられないな!」
気合を入れ直した俺は、エレノアの助言に従い、ミスティとの特訓を続ける。
なんとか手応えを掴んで帰宅した時には、もう深夜になっていた。




