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結束

徒歩で帰る羽目になった俺は、1人内区を歩いていた。


(なあミスティ、実の母親を見捨て、今何も感じていない俺は、やはり化け物になってしまったんだろうか?)

…{まあ、肉親なんて感覚が、私には解らないけどね。分裂したスライムが、共食いで本体を食べても気にならない、みたいな?}

(何だよ!それじゃ化け物って言ってる様なもんじゃないか?)

…{あら、それはブリトニーに失礼よ!ふふふ。でもシンリ、私達や屋敷で待つ仲間達が、傷付いたり、死に直面したら、貴方は無関心で居られるかしら?}


(それは、無理だな)

…{だったら、そう言う事じゃない?}

(そうか…そうだな。しかし、『破滅の卵』に『黒の使徒』それに、七つ目の魔眼か…)

前途を思えば、気が重くなる感じもするが、もうすぐ我が家だ。気持ちを切り替えるべきだろう。


「おかえりなさいませ、お兄様!」

「ただいまシズカ。何か異常は、無かったか?」

出かける前の俺の指示で、屋敷の皆は、全員完全武装で待機させていた。


「途中、一度だけ骸骨霊体(ファントム)が、襲撃者の接近を知らせて来たのですが、再度報告に来た者によれば、賊が途中で全滅した、と…仲間割れでもしたのでしょうか?」

「ああ、その件なら……」

俺は、全員を集め、事の顛末を説明した。


「あの、おバカなボクっ娘が、実は『男の娘』だったなんて!そんなキャラと見抜けなかったとは、不覚ですわ!」

「いや、別にそんな設定じゃないぞ!」


「そのミスティ様の氷、かき氷にしたら何人分出来るんでしょう?」

「アイリ、食いしん坊キャラじゃ無かった筈だが。ってか、かき氷知ってるのか?」

「シズカ様が、教えて下さいました」

…コクコク!

(ツバキ、お前もか!?)


「妾は、御姑殿にご挨拶せんで良かったのじゃろうかのう?」

「さっきの説明の、ドコにそんな呑気な会話出来る部分があったエレノア!」


「ナーサ……」

「いや、いいからな!無理に絞り出さなくていい場面だから心配するなナーサ」


(あんだけ重い話を聞かせたってのに、全くこいつ等と来たら…)

「ありがとう。お前等、みんな大好きだよ…」


俺が、小声でそう言うと、皆一様に頬を染め、気恥ずかしそうな仕草を見せる。

直接手に掛けて無いとは言え、実母を実弟を失い、ヨハンの暗躍、不吉な集団の存在等、様々な事の重なった俺の心を汲んで、勤めて明るく接してくれるのだろう。自分達にも、今後害が及ぶかも知れないのに、誰一人暗い顔をせず、俺の事を第一に考えてくれるのだ。


「よく、聞こえませんでしたわお兄様?」

悪戯っぽい顔をしながら、シズカがわざと聞いて来る。


「さあ、何の事だか分からないな」

「まあ、お兄様ったら、照れ屋さんですのね!」


「そんな事より、皆ずっと装備状態で汗をかいただろ?風呂に入って、食事にしよう!」

「あら、それは、も・ち・ろ・ん!お兄様もご一緒して下さるって事ですわよねえ?」

なんだ全員のこの期待に満ちた目は?しかし、流れ的に無下にも出来んな。

「…ああ、わかった。だが布装備で頼むぞ」


とまあ、そんな訳で、今俺達は全員で入浴中だ。


「さて、俺達の今後についてなんだが、俺は迷宮攻略を続けてみようかと思っている」

俺の言葉を受けて、全員首を縦に振る。

「全員、お兄様と同じ意見の様ですわ」


「ありがとう。それと『黒の使徒』の動向も、今後は情報を集めて行きたい」

「これまでの状況は、後手後手ですものね」

「ああ、それに『時音(ときおと)のおばば』と言うのを覚えているか?」

「あのボクっ娘が、予言を授かったとか言うアレですわね」

「この人物について調べる事で、『黒の使徒』に近づくのでは無いかと思っているんだ」

「確かに‥あの予言の内容自体は、魔物化したガブリエラの元への誘導、つまり罠だった訳ですし、ガブリエラの儀式自体にも関係しているのかも知れませんわね」


「愛剣も無く、人化による能力の低下、何らかの結界等の要因があったとは言え、ガブリエラ程の者を、貶める事が出来る奴等を、相手にする事になる。かなりの危険を伴う事になるだろうが、皆ついて来てくれるか?」


「愚問ですわね、お兄様」

「私は一生、シンリ様について行きます!」

「主様、生涯一緒!」

「そんな危険があるなら、はよ子作りをしてもらわねばのう。ほほほ」

「ナーサも‥ダンナ様に‥ついて行く‥なの」

「もちろんオレもじゃんよ」

「某は主君の剣、お側にあるは当然の事。しかも我を嵌めし外道の捜査とあらば、他人事では御座いません」


「では、迷宮への出発は、3日後。それまで各自準備をしておいてくれ」

「ワタクシ達『黒装六華ブラッディシックスブラック』の名を、迷宮に刻むのですわ!」

シズカがそう檄を飛ばすと、皆勢いよく立ち上がって気合を入れた。

だが、勢いよく立ち上がった為に、数人布がずれて、見えてはいけない物が色々見えてしまっている。

俺は、慌てて風呂から退散した。


食後、俺のベッドで全員で眠った。

(ミスティ)

…{なあにシンリ}

(お前も含めて、俺はなんて仲間に恵まれてるんだろうな)

…{どうしたの?気持ち悪いんだけど。ふふふ}

(昼間の話なんだが、俺は化け物になってしまうかも知れない)

…{どういう事?}

(今の俺は、みんなの存在のお陰で、化け物では無いのかも知れないが、仮にミスティが言う様に、俺の仲間に何か起これば、その敵、いや、そんな世界自体に対して、俺は破壊衝動を抑える自信が無い)

…{確かに、今のシンリが本気で暴れ回れば、まさに天災規模の破壊が起こるでしょうね}

(……)

…{大丈夫よ、彼女達は強いわ。それに私がいるんだから、護ってみせるわよ!}

(そうだな。俺も皆を、そしてミスティを護るよ!)

…{その意気よ。ふふふ}


すぐ側に感じる、彼女たちの寝息と温もり、俺は改めて、それら全てを護ろうと、心に誓うのだった。

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