アイリの暴走
「お兄様!アイリを傷付けないで下さい!」
壊れた扉から、シズカや他の皆が駆けつける。取り押さえるのに失敗し[転移眼]で追いかけて来たのだろう。皆、あちこちに傷を負っている様だ。
シズカ達の侵入でまた[ポイズンキャタピラー]が産まれたが、やはりアイリの槍で貫かれ瞬殺された。
「主君、済まない。予想以上の能力の上昇に、アイリ殿の精神が耐え切れ無かった様だ」
「ワタクシも、2人程逝かされてしまいましたわ」
「妾の結界も、壊されてしもうた。すまぬ」
「ナーサは‥シズカさんが‥護ってくれた‥なの」
「しかし、あの身体は何なんだ?」
「解りません。ですがお兄様、まるでクロの様では無くて?」
「黒雷狼のクロか…さっきの『雷撃』といい、確かに」
そう話している俺の元に、黒いアイリが迫る!俺は[村雨丸]で受け止めるのだが…。
受け止めた衝撃で[村雨丸]から飛び散った滴が、黒いアイリの頬を掠め、血飛沫が舞う。
「ちいっ‥制御しきれてないコイツでは、アイリを傷付けてしまう!」
俺は[村雨丸]を納刀し、黒いアイリと距離を取る。
(限界以上の力を無理に引き出してるんだ、早く止めないとアイリが危険だな)
「皆、一ヶ所に集まってくれ!ミスティ、全員を最大防御!」
…{シンリまさかアレを?}
(ああ、時間が無いからな、暴走しない様に祈っていてくれ!)
一ヶ所に集まった仲間達を、目に見える水の防壁が取り囲む!
「アイリ、今落ち着かせてやるからな!」
【憤怒眼】発動!
【魔眼】発動と共に、俺の身体が一回り大きくなり、纏う魔力は、膨大に膨れ上がって、迷宮の壁が悲鳴を上げる!
魔力に一瞬気圧された黒いアイリだが、すぐに体勢を整えると、槍を連続で突き込んで来る。その一撃一撃は、強力な雷を纏っていた。
しかし、今の俺には、そんなもの掠りもしない。
その実力差を、本能で感じ取った黒いアイリは、自身の周囲に、回転する槍の結界を築き、風と雷の嵐を発生させた!
槍から発生する風で、迷宮の壁面に、いくつもの亀裂が入る。その余波は、容赦なくミスティの防壁をも削っている。
その荒れ狂う嵐に、俺は無造作に近づくと、前に出した右手であっさりと、高速で回転する槍を掴んでみせた。
吹き荒れる嵐が、突如消える…。
掴んだ槍に、黒いアイリが電撃を込めようとするより早く、俺はその槍を奪って投げ捨てた。
そして、狼狽する黒いアイリを、強化された力で抱きしめ…
「もう大丈夫だ…」
そう言って、強引に口づけをした。
静寂…そして黒いアイリが、脱力する。
「もう大丈夫だ、ガブリエラ、全員に回復を頼む」
そう言って、アイリ共々その場に座り込んだ。
…{シンリ、貴方は、大丈夫なの?}
(短時間だったから、問題無い。それより、皆をありがとう)
…{うふふ、素直で気持ち悪い。うふふ}
「主君、御身とアイリ殿にも回復を」
「ああ、頼む」
ガブリエラの回復を受ける、削った魔力の回復には、程遠いが肉体的には全回復した。
「流石、大した回復力だ。ありがとう」
「いえ、主君の為ならば、これ位どうと言う事はありません」
「本当に凄い回復力ですわ。ところでお兄様、この後如何致しましょう?」
「そうだな‥出来れば25階層まで行って確認し、25階層の隠し部屋で野営。明日地上に戻るとしたいんだが?」
「そうですわね。それ位なら問題無さそうですわ」
…コク。
「妾にも異論無いぞえ」
「ナーサも‥大丈夫‥なの」
「でもでも、アイリはどうするじゃんよ?」
「ああ、アイリは俺が背負って行こう。まだ加減に慣れてないので、俺は戦闘に参加しない方が良さそうだからな」
「主君に代りこのガブリエラが、皆様の剣となりましょうぞ!」
話が纏り、俺達は下層に降りて行った。
25階層には、久々の豚頭の巨体‥オークがいた。これも7階層では[オーク]、ボス部屋に[軍曹オーク]がいたのだが、ここには[兵士オーク]と[軍曹オーク]がおり、多彩な武器と連携で攻撃して来る。まあ、既に大半は、ボス部屋への道標となっているが…。
ボス部屋には、これまた懐かしい巨体の[将軍オーク]がいた。その指示の下、見事な攻撃を繰り出す[兵士オーク]と[軍曹オーク]だったが、その大半はエレノアの魔法で、そして残党と[将軍オーク]も、ツバキとガブリエラによって倒された。
上級食材である[将軍オーク]を、【魔眼】に保管したのは、言うまでもない。
こうして、25階層の隠し部屋に到達した俺達は、夕食を食べ、皆で一緒に眠った。
「う…ん」
皆が眠りについて暫くすると、隣に寝かせていたアイリが目を覚ました。
「気が付いたかアイリ」
「シンリ様‥私いったい?」
「大丈夫だ。急激な能力の上昇で、肉体自体までが変化し、その負荷により暴走しかけたんだろう」
「肉体が…?」
そう言いながら、自分の身体を見回すアイリ。実は、彼女は種族自体が『雷狼人種』と言う、狼人種の上位種族へと変化しており、額には、宝石を埋め込んだような、小さな角が生えている。しかも、全身の毛も、クロの様な銀色混じりの黒毛に変わっているのだ。この暗闇じゃ、色まで見えないだろうが。
「何だか、毛の色が少し違う様な…それに身体が少し大きくなってる気がします」
「アイリが、俺達と頑張ってきた成果が、今やっと実を結んだんだよ。それに約束も果たせて良かった」
「あ!!そうです‥私‥【呪い】が無くなって…」
「良かったねアイリ…本当に良かった…」
そう言って俺は、感極まって泣き出したアイリを抱き寄せて、いつまでもその頭を撫で続けた。




