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ガブリエラ

 かつて、ガブリエラは天上の大陸に於いて、その最強の護衛戦力の一翼ヴァルキリーとして、日々研鑽を積んできたらしい。

だが、ある日の訓練中に、誤って自分の大切な愛剣を、地上に落としてしまったのだ。

その失態により天上の大陸を追放された彼女は、帰還を請う為にも、何とかして自身の愛剣を探すべく旅を続けた。


何十年もの旅路の末……数年前、この迷宮に『天から降った剣』があるという噂を聞きつけた彼女は姿を偽り、あるパーティと共に迷宮へと潜った。

彼等と、次々と迷宮攻略を進め(殆どは彼女の活躍だが)、辿り着いた24階層のボス部屋の扉の中に、大勢の黒いローブの者達と謎の儀式を見た所で、彼女の記憶は途絶える。


「その黒衣の者達により、魔物と融合されてしまったんだろうな……」

「それにしてもお兄様、黒衣の者と言えば…」

「うん。無関係とは思えないな……」

俺とシズカは俺の懐妊の儀式に関わった、黒衣の男達を思い出していた。


「シンリ様……私が昔見たのも黒衣の者達でした」

そうアイリが続ける。確かに、彼女に呪いをかけたのも黒衣の者達と聞いていた。一体奴らは、何を……。


そんな話をしているとガブリエラが、ふと何かを感じ取ってピクンと起き上がり、ガタガタと震えだした。

「し、シンリと言ったか……そ、その……いや、その剣を……少し見せては貰えないだろうか?」

彼女の顔は紅潮し、雰囲気が尋常じゃない。しかも、ふと師匠の形見の剣を見ると、うっすらと光を放っている。こんな事は初めてだ。

「これは、俺の師匠の形見なんだ……」

そう言いながら、俺は剣を彼女に渡した。


「あ、あは……この波動……これは間違いない!!」

そう言って彼女が剣を抜き放つと、刀身から眩い光が溢れ出した。

「な、何だこの光は……」

(こんなの師匠が使っていた時でも、見たことが無い)


「それはそうさ。この剣こそ我が愛剣[クラウ ソラス]!探し求めた我が半身だ!!」

ガブリエラと[クラウ ソラス]は、互いを光で包み込み、その再会に歓喜しているかの様に見える。

いや、少なくとも彼女は、永い旅路の苦難からか、魔物に貶められた苦痛からか、溢れる涙を止められずにいた。

よく見ると、傷つきボロボロだった彼女がいつの間にか、翼は純白に輝き、鎧は新品の様になり、彼女自身の金色の髪も神々しく輝きを放っている。

その美しい姿に俺は、師匠アストレイアの面影を見ていた……。


「残念だが、これでは反論のしようも無い。ガブリエラ、その剣は所有者であるキミに返そう」

「しかし……。いや確かに有難い話だ。だがこの剣も教えてくれる。シンリもアストレイアという者も、本当に素晴らしい剣士であったと……」

「まあ、俺の師匠は世界最強の剣士だったらしいからな」

そう笑って言いながらも、大切な師匠の、その代名詞たる剣との別れに心が痛む……。


「私は、貴公へのこの恩義にどう報いれば良いのだろうな……」

俺の心痛な想いを感じたのか、ガブリエラも俯いた。


無言の間……。そして徐に、ガブリエラは俺の前に進み出て片膝をつき頭を垂れた。

「我が命たる剣を、取り戻させて頂いた恩には、それ相応の恩にて報いねばならぬ!」

「……ガブリエラ」

「シンリ殿。今日この時より、このガブリエラ……御身を我が主君と定め、御身の生ある限りその剣となる事をここに誓う!」

瞬間、その忠誠が半ば強制的に俺の【傲慢眼(ルシファー)】に刻まれる。

「しかし、天上へ帰らなくていいのか?」

「人の生など、一時の物。帰還はそれからでも構いません」

「まあ、俺としては心強いが……本当にいいんだな?」

「はっ、我が持てる全てで、主君を守護する剣となりましょうぞ!」

「わかった。召喚、『ガブリエラ』!」

俺が【傲慢眼(ルシファー)】でガブリエラを召喚すると、彼女は一瞬消えた後、再び俺の前に現れた。


「これで、迷宮にもガブリエラは、召喚獣……いや召喚天使か?と認識されるはずだ」

話しながら、ついいつもの癖で師匠の愛剣があった場所を撫でようとして空振った。


その仕草を申し訳無さそうに見ていたガブリエラが、ふと何か思いついた様に……。

「主君。思い入れのある剣とは、比べるべくも無いでしょうが、我が旅の最中に出会った『クラウ ソラス』にも匹敵する剣が御座います!何卒、この剣をお納め願いたく……」

そう言うとガブリエラは何もない虚空に手を入れ(・・・・)、そこから一振りの『刀』を取り出した。

再び俺の前で片膝をついた彼女が、両手で恭しくその『刀』を俺に差し出す。


その『刀』を受け取ると、身体に強い衝撃が走った。しかもそれは、共にいるミスティにまで響いた様だ。

{これは妖刀の類ね‥でも、うふふ}


『刀』は、柄も鞘も濡れているかのような漆黒。鍔には、二匹の龍の絡み合った様な装飾が施されている。

鞘から抜き放つと、美しい刃紋が妖しく輝き、その刀身は濡れているかのよう……いや、よく見ると本当に刀身に、薄っすらと水を纏っているではないか?


{なんて巡り合せかしら。こんな刀を、シンリと私が持つなんて}

(知っているのか?)

{いいえ、知ってる訳じゃないわ。でも解るの。私がシンリの剣撃に力を付与した事があったでしょう?}

(ああ、あのとんでもない切れ味の一撃な)

{この刀は、常にあの状態にあると思えばいいわ}

(はあ?常にあの切れ味だと?)

{正確には、普通はアレ程度の切れ味。でも私の元に来た事で、この刀自身も大きく力を増してるから……}

(待て、普通がアレ位だと言うのか?じゃあ本気で切ったりすれば……)

{ふふふ、あまり考えたくもないわね。あはははは}

(……そりゃ笑い事じゃ無いだろう)

{大丈夫よ。シンリなら使いこなせる。それに少しは、手伝うから。うふふふ}


「如何なさいましたか主君?お気に召しませんでしょうか?」

ミスティと話し込んでいた俺を不安げに見つめるガブリエラ。

「いや、素晴らしい剣。いや『刀』か……だったので見惚れていただけだ。ありがとう!」

「お気に召したなら光栄です。その銘は『村雨丸』水神様と共におわす我が主君なれば、必ずや比類なき力を発揮されましょう!」

相性の良すぎるのも考え物だ。鞘に仕舞おうと軽く一振りしたら、迷宮の壁に一文字の亀裂が生じた……。

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