24階層のボス 2
『クソ‥クソ虫どもがああああああ!!』
俺達に、再び鎌の腕を切られた[ザムザ]は、怒りを顕に天を仰ぐ…。
『我は汝、汝は我……』
「詠唱!?まずい、エレノア、ミスティ、全体に魔法障壁!!」
俺が言うより早く、エレノアとミスティにより、俺達の頭上に、幾重かの魔法陣が形成される。
『……裁きの光を以て汝らの罪を滅せよ!』
詠唱が終わると、上空に存在する全ての光球から、光の筋が降り注いだ!
表層の魔法陣が砕かれる。見ると、陣の範囲外には、まるでレーザー光線で焼かれた様な穴が無数に出来、岩が溶けて燻っている。
…{これは、裁きの光。光属性の極大魔法ね…}
「光属性?魔物なのに‥それが奴の核なのかミスティ?」
…{存在がぼやけているけど‥多分ね}
光の雨が止むと、すでに[ザムザ]の鎌は、再生していた。
「お兄様、再生速度が上がってますわ!」
「さっきので[ジャック オー ランタン]やられたじゃんよ!」
(殺すのは簡単だ。迷宮ごとでいいなら吹き飛ばす事も出来るだろう。だが‥とにかく‥奴を分解でもしなきゃ話にならないな…)
「分解‥か…」
思いついた事に、自然と口に笑みが浮かぶ。
それに気付いたシズカが、ギョッとした目で俺を見る。
「お兄様‥まさか…」
「シンリ様、もしかして…」
「ああ、その通りだ。仕方ないだろう?いくぞ!」
そう言いながら俺は【傲慢眼】を発動させ、配下を召喚した!
召喚されたのは、バスケットボール大で、虹色に光る半透明の、ゼリー状の魔物。所謂スライムだ。
「「ひいぃーーー!!」」
シズカとアイリは、我先にと距離を取って離れて行く。
「久しぶりだブリトニー。いきなりで済まないが、アレを分解して欲しい!ちなみに光属性の核になっている者は、無傷で解放したいんだ。頼めるか?」
俺がそう話しかけるとスライムは、俺の頬にしばらく擦り寄ってから、名残惜しそうに離れると、[ザムザ]に向かってピョンピョン跳ねながら近寄って行く。
「主様、スライム?」
「我が君よ、何じゃあの尋常でない魔力のスライムは…」
「ってか、あんなちっちゃいスライムで、どうするじゃんよ?」
「あれは、『冥府の森』にある[失意の沼地]の主、ブリトニーだ。まあ、見てれば解るよ」
俺達の視線の先では、[ザムザ]の目の前にブリトニーが辿り着いた所だった。
『何だ、この下等なゴミは‥?』
そう[ザムザ]が、口にした瞬間、ピトっとブリトニーが足に張り付いた。それは、元の見た目からは想像もつかない程伸び、あっと言う間に足1本を、そして他の足、さらに尾、胴体へと、どんどん広がって行く!
『グッバカな!?しかも‥オレを‥喰ってやがるのか?』
…そう、最初に張り付いた足は、もう既に溶け始め輪郭がぼやけてる。
『我は汝、汝ハ…ガハッ!!』
慌てて詠唱を始めた[ザムザ]だったが、その顔もブリトニーにすっかり覆われてしまった。
ゼリー状の物質に包まれた[ザムザ]の巨体がもがき暴れるが、だんだん身体全体が輪郭を失っていき、やがて動かなくなった…。巨大なドーム状になったブリトニーに、ゆっくりと分解されていく[ザムザ]と名乗った魔物。
しばらく経つと、ブリトニーの身体の奥が光り始め‥その光を押し出すようにプルンと揺れたかと思うと、光に包まれた一人の、白銀の鎧姿の女性が、転がり出た。
「ありがとう。流石ブリトニーだ!」
そう声を掛けると、全体をやや桃色に変え、プルンプルンと震えるブリトニー、だが次の瞬間!
バヒュッ!と自分の身体の一部を、エレノア、ツバキ、ナーサに飛ばしぶつけて来た。
まるで、バケツの水を頭から被った様な3人‥その液体が、ゆっくり滴り落ちると…
「何じゃ!?妾の着物が!!」
「主様!緊急事態!」
「服が‥溶ける‥なの!」
3人の衣服だけが、すっかり溶けてしまった!
それで満足したのか、ブリトニーはスーッと消えて帰って行った。
「やはり、恐ろしいスライムですわ」
「ブリトニーさんは、シンリ様大好きだからね。妬きもち焼いて、女性を攻撃して来るんだよー」
岩場の陰から、姿を見せるシズカとアイリ。
「何故妾が‥この裏切り者めえ」
…コクコク!!
「知ってたなら教えるじゃんよ!」
隠れていた2人に恨み言を言いながら、ミスティに流してもらい、アイリのマジックバッグから出した着替えを着る3人。
その間俺は、例の鎧姿の女性を見ていた。断じて3人の裸は、見ていない!
「お兄様、これって…?」
「うん。どう見ても‥翼だな…」
そう、目の前の鎧姿の女性の背中には、間違いなく『翼』が生えていた!
ガブリエラ(1021) LV221 天上種天使属
ヴァルキリー・・・・
「天使‥一体何故‥そんな者が…」
【魔眼】で見た、彼女の情報は、にわかに信じ難い物だった。
「取りあえず、20階層に戻って彼女が気が付くのを待とう。それに24階層が、普通に戻ったのかも、確認しなきゃならないからな」
「そうですわね、またおかしな魔物が出ても困りますし…」
「うん。すまないがシズカ、また頼めるか?」
「ええ、もちろん!」
そう言ってシズカは、[転移眼]を発動させ、皆を20階層の隠し部屋に転送した。
昼食を食べながら、待つ事30分ばかり…。
「う‥ん、ここは?」
「気が付いたかガブリエラ。ここは、まだ迷宮の中だ」
「迷宮‥某は、スライムに食べられ‥グッ…」
「記憶が、あるのか?」
「ぼんやりだが‥化け物の姿の私がいて‥何もかも憎くて‥常に飢えていて…」
「今の姿を見て見ろ。もう大丈夫だ!」
恐る恐る自分の手を見るガブリエラ。
「おお…おお‥私の‥手だ‥剣が握れる…私の手だ!!」
涙ぐみながら、自身の手を開いたり閉じたり繰り返す。
「ところで、どうしてキミ程の存在が、あんな事に?」
問いかけた俺に、ガブリエラがゆっくりと語り始めた話は、俺自身にも無関係では無かった。




