『G』の脅威
馬車で一夜を過ごした俺達は、翌朝早くに迷宮へ向かった。
入口でギルドカードのチェックを受ける。ここでは、チェックと言っても、名前やランクが解るだけで、討伐状況等の詳細は、王都のギルド本部でしか解らない。
「お前等早いな!張り切り過ぎて無茶するなよ!」
「ありがとうございます。今日からしばらく籠ろうと思うので、用心しますね」
「そうか、昨日の嘘みたいに15階層くらいまで行けるといいな!」
「ははは、頑張ります…」
お昼頃、俺達は15階層のボス部屋にある、隠し部屋で昼食中だ。
「途中、ボロボロで帰還して行くパーティを幾つか見ましたわね?」
「夜通し頑張ってたんでしょうか?」
…コク。
「妾が問うても、何ら応えぬ。まるで屍の様であったのう…」
「多分‥14階層位しか‥来れて‥無いの」
「見えない敵と戦う恐怖と疲労は、かなりくるじゃんよ」
「そこを越えても、あの訓練されたキリギリスか‥確かに、並みのパーティなら諦めるかもな」
(アンナや、ダレウス辺りなら、ここらじゃまだ笑いながら進んでそうだけど…)
「さて、今日中にあと3階層程進んで、ここで野営しよう!」
そう言って、俺達は、下層へと進んだ。
16階層に着くと、辺りの景色が一変した。
迷宮の壁を埋め尽くす蔦の様な植物。洞窟内部は、発光石と言う、迷宮内部でのみ光る石が、壁や天井のあちこちにあり、それが明かりとなっているのだが、それらをも覆い隠さんばかりの植物の為、やや暗く見える。
その中を歩いて行くと、各所でその蔦が、触手の様に襲いかかってくるのだ。
ツバキの案内の必要も無い程の、強烈な甘い匂いを辿って進むと、そこにボス部屋があった。
ここのボスは[ラヴィアンローズ]巨大なバラの様な花に蔦の様な身体‥つまりこの階層そのものを、このボス自身が支配しているのだ。
幻覚作用を持つその香りに、本来ならば幻惑されてしまうのだろうが、このパーティにそんな物は効かない。
触手を、シズカが防ぎながら、エレノアの炎の魔法で、焼き尽くした。
17階層は、これまで同様の迷宮だったが、ここの魔物は精神的に強敵だった。
食事中の方は、読むのを止めるのをおススメするが、17階層に入った途端、赤黒い小さな影と羽音に包まれた!そう、御存知『G』だ!正式には[バグG]という魔物の様だが、1体が10cm程の大きさの、見た目アレだ。
蜂の巣採りに行った時の要領で、ミスティに全員護って貰い、触れる事は無いのだが、一応俺とエレノアで焼き尽くしておいた。
ボスの[マスターG]も、想像通り2m程のアレで、子分のアレを大量に従えているのだが、そこも俺とエレノアで瞬殺させてもらった。
「なんだか初めて、迷宮って怖い所かもって思いましたわ!」
…確かに、女性陣には、かなりのダメージだった様だ。
18階層は、迷宮の壁を泳ぐ[ウォールフィッシュ]がいた。壁の中を自在に泳ぎ回り、飛びかかる厄介な魔物だったが、【魔眼】で見えている俺には、モグラ叩きさながらだった。
「次、シズカの右上!」
「アイリ、真上に一匹!」
「エレノア、面倒だ!後方の壁に電撃!」
そんな風に、ワイワイと皆でモグラ叩き(実際はモグラで無く魚だが…)に興じる姿は、前世日本で見た、メッシュな司会者の某TV番組を、思い出させた。
ボス部屋に着くと、やはり壁面に無数の[ウォールフィッシュ]がおり、その中に混じって大きな背びれが…そうジョー〇さながらの、サメのヒレだ。
近くに弱い魔法を放ち、飛び上がらせてみると、体長5m程で、右手(ムナビレじゃ無いのか?)に銛を持った[ウォールシャーク]が姿を見せた。[ウォールフィッシュ]より素早く、潜った状態から、銛で突いて攻撃して来る事もあるので厄介だ。
だが、俺達はエレノアの電撃一発で、掃討した。
「お兄様、ちょっとよろしくて?」
18階層のボスを倒した所で、シズカが俺の側に来た。
「どうしたシズカ?」
「我が儘を言って申し訳無いのですが、このまま20階層まで行って休みませんこと?」
「?」
見回すと、俺以外の全員が、チラチラこちらを見ている・・皆の総意と言う訳か?
「皆の希望なら、構わないが・・一体どうした?」
「……ですわ」
「何て言ったんだ?聞こえないぞ」
「だから…は…ですわ」
「はあ?」
「だから!また明日、朝から『G』とは、戦いたく無いのですわ!」
「!!…そんなに嫌だったのか。わかった!じゃあ20階層を目指そう!」
19階層に降りる為、準備を始める俺達。ふと、手に持つ鞭をじっと見つめるダスラの姿が、目についた。
「ダスラ、テイムの感じは、どうだい?」
俺は、戦力の確認の為、ダスラには、各魔物にテイムを試してもらっていた。
「うん、やっぱり[範囲]テイムは、15階層が限界だった。ただ[個体]のテイムは、まだまだイケるじゃんよ!まあ、ボスはもちろん無理だけど…」
「そうか、それだけ解れば十分だ。これからも慎重に調べて行こう!」
「オレ達が、こんなに誰かに頼りながら進めるなんて‥やっぱシンリ最高じゃんよ!」
(まあ、喜んでるのはいいが、ダスラの背中にさっきテイムした『G』が一匹、ついて来てるぞ…)
ここでも、[ウォールフィッシュ]のテイムに成功しており、その個体は今、影を泳ぐ様に移動するツバキと、仲良く競争中だ。
俺は、倒される直前の[ウォールシャーク]から【強欲眼】を使って、『壁移動』スキルを奪っている。
ツバキの『影移動』スキルより汎用性が高そうだが、果たして迷宮外で使えるかどうか?
さっき試したが、本当に水の中に入る様に、スーっと手が壁に入った。呼吸等が、どうなるかはまだ未検証だが、外で使えれば、これ以上の隠密性は無い。まあ、気配を察知出来る上級冒険者には、通用しないかもしれないが…。
そんな事を考えながら、俺達は19階層に向けて出発した。
本作を構想、執筆し始めて1か月が経ちました。
ここまで書いて来られたのは、読んで下さる皆様のおかげです!
今後とも、どうぞよろしくお願い致しますm(__)m
これまでアクセスして下さった、全ての方との出会いに感謝を!




