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出発Re

 翌朝、セイラに見送られて俺達は出発した。オニキスとラティは、流石に起きられず就寝中だ。


 東門を抜け、一路迷宮へと普通なら二日ほどの道程を、難なく昼前にはその付近に到着した。

 近付くにつれ、徐々に増える冒険者達のベースキャンプと思しきテントの群れ、それ以外にも木製の建物が幾つも建っており、ちょっとした町のようになっている。


「なんだあれは?」

「あんな奴ら、はじめて見るぞ。新人か?」

「高そうな馬車に乗って、どっかのアホな貴族の御遊びか?」


 俺達の馬車に掛けられる、好意的でない声。少し開けた一角を見つけたのでそこに馬車を停める事にした。


「なな、なんだありゃあ?」

「でけえ、ってかどっから現れやがった?」


 馬車の後部、ドアの周りに出現した、身長2m程の黒いフード付きコートの者達、その数十名。

 それらが左右に五人ずつ並び、ドアから出てくる者を出迎えるよう整列する。

 ドアが開く。すると黒衣の大男達が一斉に剣を抜き、斜め上方に突き立て剣のアーチを作った。


 馬車から降りてきたのは外の者達よりやや背の低い、黒のフード付きコートの男と、全員が黒を基調とした衣装や装備に身を包んだ美しい美女や少女達五名。


 俺達がアーチをくぐり終えると、黒衣の大男達は馬車の周囲を取り囲むように位置し、不動となった。

(恰好付け過ぎだと思うのだが、この登場はシズカの仕込んだ演出だ…)


「ありゃ、どっかの貴族かもなあ」

「しかしガキと女で来るなんて、迷宮舐めてんのか?」


 未だ、敵意むき出しの声に晒される俺達の前に、一台の大きな馬車が停車した。


「おいおいおい、誰だこのガゾム様の場所にこんな小汚ねえモン停めやがった奴は?」


 馬車から如何にも、ガラも頭も悪そうな巨体の男が、大剣を片手に喚きながら降りてきた。


「よりによってガゾムに絡まれるなんて、アイツら終わったな」

「ああ、素行が悪くてC級止まりだが、奴はA級近い実力があるからな。新人の貴族のボンボンじゃ勝てっこねえ」


「あら、馬車をどこに停めるかなんて、ワタクシ達の勝手では無くて?」

「そうじゃのう、そんな決まりがあるとは聞いて居らぬが。ナーサよ、そうなのかえ?」

「そんな決まり‥ないの」


 そう答えたナーサの名前と外見に、周囲が一斉にざわついた。

「…ナーサ、あれが?」

「あの魔物女王(ビーストクイーン)かよ?眠ってたはずじゃ?」

「本物か?初めて見た…可愛い!」


「ほう、そいつがあの死神女王(やくびょうがみ)か?がははは。何て事無い、ただのガキじゃないか?」


 ガゾムが、嫌味たっぷりに、ナーサを見下す。


「いいだろう、おいお前等!コイツを差し出して馬車をどければ、命だけは助けてやる!がっはっはっは」

「お兄様、このお馬鹿さんそろそろ痛めつけてもよろしくて?」

「ふう、そうだな。ナーサを罵倒した罪は許せんが、せっかくの初日を穢したくも無い。よし、お前等」


 俺が呼ぶと、黒衣の大男達が俺の元に集まる。


「何、無視してやがんだこの雑魚が!」


 背を向けてる俺に、殴りかかるガゾム。だが……。


「もう囀るな、この虫けらが!」


 そう言って放った俺の威圧で、馬車の中の仲間共々一瞬で気絶してしまった。


「目障りだ。こいつ等馬車ごと何処かへ捨てて来い」


 俺の命令に従いガゾムをそして気絶した二頭の馬を、更には仲間が乗ったままの馬車までもを、黒衣の大男達がそれぞれ持ち上げ何処かに運んで行った。


「なんて奴らだ。ガゾムがまるで子ども扱い…」

「しかも魔物女王(ビーストクイーン)を連れてるなんて…」


 そんな驚きの声を聞きながら、シズカは群衆の前に出るとスカートの端をつまみ、仰々しくお辞儀する。


「うっふっふ。皆様、ご挨拶が遅れました。我々はA級冒険者『黒衣』のシンリに率いられしパーティ『黒装六華ブラッディシックスブラック』と申します。以後お見知りおきを。うふふふ」


 そう言いながら、誇らしげにそして挑戦的に周囲を威圧し見回すシズカ。


「気持ちは解るがやり過ぎだシズカ。で、ここに馬車を停めるのに他に意見のある方はいるか?」


 俺が見回すと悪態をついてた輩は、皆一様に目線を逸らした。


「問題無い様だな。ではお前達に留守を任せる」


 言い放つ俺の背後には、いつの間にか黒衣の大男達が帰って来ており、馬車の周囲にそれぞれ位置した。

 実は彼等は俺の配下の骸骨の騎士(ボーンナイト)なのだが、顔をフルヘルムで隠し、昨日作ったシズカ達お手製の黒衣で俺達とお揃いにしてあるのだ。


「よし、じゃあ行くか!」


 俺達は、迷宮入口がある場所目指して大通りを歩いて行く。

 迷宮入口が近づくに連れ、通りは賑やかさを増す。露店が並び、活気に溢れる様はお祭りさながらだ。


「お兄様、たいした賑わいですわね」

「どれも、美味しそうな匂いです」

 …コクコク。

「大層な人じゃ、今日は何か特別な日なのかのう?」

「いつも‥ここは、こんな‥なの」

「迷宮は、ちょっとした観光名所にもなってるじゃんよ」


 徐々に、視界に入って来る迷宮入口。それは、地上に顔を出した蛇が口を大きく開けたような、そんな形状をしている。

 よく見ると、木で作った小さな小屋が入口脇にあり、その前に冒険者達の列が出来ていた。


「あそこでギルドカードの確認がある。俺達も並ぼう」


 列に並び待つ事二十分ばかり。否応無く目立つ俺達は、好奇の目に晒されつつ順番を待ち、カードの確認を受けた。


「お前達は今日が迷宮初日なんだな。無理せず、危ないと思ったらすぐ引き返して来るんだぞ」

「有難うございます。十分気をつけます」


 気遣ってくれるギルド職員に挨拶をして、いよいよ迷宮に入る。

 彼の話によれば迷宮での死亡者の内、三割程が迷宮初日から一週間以内らしい。


 俺達は、より気合いを入れ直して迷宮への一歩を踏み出した。



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