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妹急襲!

 目を覚ましたアイリと共に試しに結界の外に出た。途端にみるみる顔色が悪くなり辛そうにその場に座り込むアイリ。しばらく影響を受けない結界内にいたので余計辛く感じるのだろうが『呪い』の効果はかなり深刻だ。これではとても修業どころではない。


「アイリには、どちらにしても闇属性耐性のスキルが必要だな……」

「スキル……ですか?」


「まあ、その辺りの話もこれから色々教えてあげるよ。僕も師匠に習ったんだけど……」

「はあ……」


 確かに普通に生きてる人達が自らの『ステータス』を見る機会はほとんど無い。スキルに関しては『鑑定屋』という職業の者が各地を旅しており、スキルのみが映し出される特殊な魔道具を用いて有料で調べてくれるらしい。それでもある程度レアなスキルしか表示されないらしいが……。


「ともかく、今から『不帰の森』に行って適当なリッチー辺りからスキルを貰って来るとしよう」

「…………えっ?」


「ああ、アイリはもちろん留守番だ。あそこは普通の人間が行けば身体が腐ってしまうからね」

「そんな事よりリッチーって言いました?リッチー、リッチーですよね?あの不死の恐ろしい魔物のリッチーですよね?」


「まあ、そうだけど……」


 僕の返事を聞くや否やアイリは僕の足にしがみ付き大声で泣きわめき始めた。


「行かないでください!リッチーになんか会ったら殺されちゃいます!もう私を一人にしないでぇぇーっ!」


 確かに、世間一般の常識ならリッチー一体出現すると村が幾つか滅んでしまっても不思議ではない。それほどの魔物にわざわざ会いに行くなどと聞かされれば死にに行くと誤解されても仕方のない事だ。


「アイリ、前にも言ったけど僕はこの森の……ッ!」


 アイリを落ち着かせようと説明をしかけたその時、クロが縄張り全域に向けて敵意むき出しの威圧を放った。ボスクラスの本気の威圧を受ければ並みの魔物では身動き一つ取れなくなる。結界内で多少緩和されるとはいえ今のアイリには強烈過ぎたようで、彼女はすぐに気を失ってぐったりとしてしまった。そんな彼女をベッドに寝かせ、僕自身も意識を集中してそれほどまでにクロが警戒する相手を探ってみる。

 すると、それらしい気配はすぐに捉える事が出来た。何故ならそれは僕までとはいかないまでもクロと同等、いや今のところ敵意を感じないからそいつが本気を出せばクロ以上かも知れない強大な魔力の波動……。


「クロ、ここを頼む!」


 そう言って僕は剣を手に取り外へと駆け出した。阿吽の呼吸でクロが威圧を解き、僕がクロ程度に抑えた気を発したので相手には威嚇していたクロが移動したように感じられただろう。

 洞窟から離れるように走り出すとすぐに狙い通り相手の進路が変わったのを感知した。真っ先に威嚇したクロを標的と定めたのか、いや、そもそも外部からわざわざこの森に入って来た相手の目的は……。


 そんな事を考えながら走り続ける僕がやや開けた場所に出た時だった……。


「やっと見つけましたわ、お兄様!」


 確かに相手の位置は正確に把握していた、接触までにはまだ少し距離があったはずだ。しかしその声の主はもう僕のすぐ後ろにいる。


「……チイッ!」


 この相手は危険だ、そう瞬時に判断した僕は無詠唱で黒炎弾を放つ。その威力はクロ程度なら致命傷を与えて動けなくなるほどのもの。かくして炎弾は直撃し相手は黒い炎に覆われその身を業火に焼き尽くされる……だが。


「あはぁぁーん、これがご褒美なんですのねお兄様!素敵っ!」


 炎の中で身悶えたその相手から白い光の玉が五つほど天に昇っていくと、パッと黒炎は消え去り纏う衣服にさえ焦げ跡一つ無い状態で相手は平然とそこに立っていた。


 美しく地に着くほど長い銀髪を左右で束ねた、いわゆるツインテール。十歳程度にしか見えないのに妖艶ささえ感じさせる整った顔に妖しく輝くのは右は赤、左は金色のオッドアイ。何より目を引くのはゴシック調のアレンジが効いたメイド服だ。縁にレースをあしらった白い前掛けもポイントが高い。はっきり言って前世の僕の好みでいけば完全にどストライクだ!いや、そんな場合じゃなかったな……。


「……何者だ?」


 相変わらず彼女からは敵意を全く感じない。それどころか何処か懐かしい感じさえするのだ。だがこれほどキャラの立った者に出逢っていれば覚えてないはずはないんだが……。


「ワタクシはお兄様の妹ですわ!」


 さも当然のように言い切って慎ましい胸を張る彼女だが、この世界での僕には弟しかいない。まさかジュリアがまた産んだのか……。


「うふふ。お兄様の魔眼なら全て見えてらっしゃるのではなくて?」

「な、何故その事を……」


 僕が魔眼を持っている事を知るのは師匠やミスティにあの人、それに一部の魔物達のみだ。仮に彼女があの村出身だとしてもそれを知っているはずはない。それに、彼女に言われるまでもなく黒炎が打ち消されてからすぐに僕は【嫉妬眼(レヴィアタン)】を発動させている。だが彼女のステータスは真っ白でそこには何の情報も見えないのだ。


「あら、いけないワタクシったら……。では、こうすればお見えになるでしょうお兄様!」


 そう言うと彼女はメイド服のふんわりと膨らんだスカートの裾を両手で摘み、それを一気に頭の上まで持ち上げた。


「な、何を……いや、これは……」


 黒いストッキングに包まれた細く美しい足。太ももの辺りにあしらわれたレースの飾りで絶妙な絶対領域を残して終わったそれから上にはガードルのラインが入った白い肌が覗き、背徳感をそそる黒い下着が……。

 いや待て、僕が驚いたのはそこではない。スカートが捲り上げられたのと同時に映し出されたのは夥しい数のステータス。ジョブが盗賊となっているそれらはほとんどが男性で、とても彼女自身のステータスとは考えにくい。


「ハアハア……見られてる、見られてるわぁっ!でも、見ていただきたいのはもっと奥、もっと奥までいらしてぇーっ!」


 息を乱して身悶える彼女に促されるまま、僕はさらに強く【嫉妬眼(レヴィアタン)】に魔力を注ぐ。


「なっ……!」


 多くのステータスの最も深い場所にあったのは、なんと十歳の頃の僕のステータス。種族が『不死種』となっている他、多少の違いはあるものの僕自身のそれを見間違うはずもない。これでは埒が明かないと本当の彼女のステータスを見る為に、さらに魔力を強めた時だった。


「こんな事って……」


 ステータスはその者の格や魂の在り方を映し出すもの。その魂の奥底に僕への絶対忠誠と永遠にその傍らに在る事がわざわざ文章で刻まれているなんて、こんな特殊なステータスは見た事がない。


「僕は今はシンリというんだが……」


 十歳当時のままのステータスには僕を示す名前が全てオニキスと書かれている。僕がそうポツリと呟くと彼女は顔を真っ赤に染め、恥じらいを含んだ微笑みを見せながら僕に告げた。


「お兄様、今はシンリ様と名乗ってらっしゃるのね。それではワタクシは……そう、『シズカ』と……シズカと呼んで下さいませ!」


 それを聞いて、驚愕で僕は言葉を失った……。

 何故なら彼女が名乗ったその名前は、僕の向こうの世界での本当(・・)の妹『高樹 静』の名前だったからだ。

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