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新居の危機Re

 その日の夕食は皆で早速ラティの料理を食べた。やはり【魔眼】で見たスキルは正しかったようで、どの料理も絶品だ。


 ラティは元々貴族お抱え料理人で、厨房では副料理長を任されていたらしい。なんでも、当主とその家族全員が『血影』に暗殺された為に家が潰れ、借金のカタに使用人まで奴隷として売られたのだと。なんて縁なんだ……。

 隷属の首輪を外すと言ったのだが、同じように売られた仕事仲間の手前、暫くはこのままにしていてほしいと断わられた。

 ちなみにセイラとオニキスも、客人扱いは性に合わないらしく。家政婦としてテキパキと動いてくれている。


 さて、本拠地も出来、パーティも結成した。いよいよ迷宮に挑戦だな。


 そこで俺達は今リビングで、ナーサから情報を聞きながらミーティング中だ。

 迷宮(ダンジョン)遊戦帝(バトルジャンキー)の住処』は、かなり昔からある古参の迷宮で、その特徴としてはとにかく魔物が攻撃的である事。さらに一階層毎にボス戦がある為、中々攻略が進め難いらしい。

 現在の最高到達階層は、三十二階層。未だ、最下層は発見すらされていない。

 しかもここ数年、二十四階層にかなり強力なボスが現れており、それを如何なパーティでも突破出来ずにいた。


「なるほど、ではその二十四階層のボス攻略が最初の目標か」

「ワタシ達が‥いるから十階層辺りまでは‥問題無いの」

「だが正直、シンリ達ならオレ達に頼る必要無いじゃんよ」


 そんな話をしながら全員の士気が高まってきたところに、俺の配下の骸骨霊体(ファントム)が、招かれざる客の到来を告げる。


 暫くすると屋敷の前に馬車が2台到着する。 相手が分っている俺は、皆をリビングに待たせてひとりで門までそいつらを出迎えた。


「おはようシャルロッテ」

「おはようございますシンリ様」


 そう、先頭の馬車に乗っていたのは、シャルロッテ、ヨハン、アンガスの3名。


「ギルドで聞いたよ!シンリ様、もうAランクなんだって?しかも、いつの間にかパーティも結成してるし。最後の1人は、きっとボクだと思ってたのにな……」

「まあ、運が良くてな。それで?」


 俺は、首だけを動かして誰も降りて来る気配の無い、後続の馬車を指した。トラブルの種になりそうな人物なのは、骸骨霊体(ファントム)の報告で知っているので、このまま帰ってくれると助かるのだが。


「へへーん、迷宮初心者のシンリ様達の為に、特別講師に来ていただきましたー!」

「必要無い、帰ってもらえ!」


「そんな、ひどいよー!せっかく頼んで来てもらったのにー!ボクもシンリ様の役に立ちたいんだよー!」

「気持ちだけ有難く頂こう。だが断る!」


 馬車内から、だから言ったでしょう的な目線を送るヨハンよ、何故もっと前に止めなかった。


「まったく……いつになったら扉を開ける下女が来るんだ?これだから、害区のクズ共は……」


 このまま帰らせてトラブルを避けたかった俺の抵抗は、その失礼極まりない言葉で砕かれた。


「申し訳ないポッチーナ殿。彼等は冒険者故、貴族の作法は解らないのですよ」


 そう言いながら、シャルロッテ自ら後続の馬車の扉を開け、中の人物の手を引いて降ろしてしまった。


「シャルの頼みだから来てやったが、本来なら害区など只の通り道。馬車から降りる事等有り得ないものを……」


 降りてきたのは金髪のおかっぱ頭に悪趣味な上着を着込み、奇妙な短パンに白タイツを履いた、如何にも出会いたくない貴族風の男だ。


「シンリ様、こちらは迷宮攻略のベテランで、B級冒険者でもあるポッチーナ・カッパーノ殿だよ!」

「……はじめまして、シンリと申します……」


「ふんっ、この下男のような男がシャルが懇意にしてるA級冒険者だと言うのか?悪い冗談だ!」

「ポッチーナ!こう見えてシンリ様は、めちゃくちゃ強いんだよ!」


 俺の外見を見て不快感を顕わにするおかっぱ頭。それよりシャルロッテ、こう見えてって何だ……。


「冒険者にも品格って物が必要だ!それをこんな乞食のような上着……」


「あらあ、お客様ですのね!」


 師匠の形見のコートをおかっぱが貶そうとした瞬間、突然シズカが言葉を遮った。


「今更出迎えとは使えん下女だな!ところで、この私をいつまでこんな所に立たせておくつもりかね?」


 だから、馬車の中で土下座する位なら何故連れて来たヨハンにアンガス。


(シズカ、わかってると思うが殺しちゃだめだ!それに家の前で失禁されても嫌なので威圧も出来ない)

(さっきお兄様も剣を抜きかけていたくせに!しかし、出来れば屋敷にもあげたくないんですが、どうしましょう?)


「お二人で、何をこそこそ話してるんだい?シンリ様もシズカお姉様も、ポッチーナ殿の話聞きたいでしょ?」


((このボクっ娘、本当にダメな奴だな)ですわ)



「旦那様、この荷物はどちらに運べばよろしいのでしょう?」


 この困難な状況下に突如介入してきたのは、何やら大きな木箱を持ったセイラだった。俺とシズカが不審げに見つめると、セイラは俺達だけに見えるように軽くウインクした。


「いけませんわセイラさん、お兄様は来客中でしてよ!」


 その意図を素早くくみ取り、白々しく乗っかるシズカ。


「あらあら申し訳ありません旦那様!ですが屋敷内は未だ片付けが全く済んでおりませんので、とてもお客様をお迎え出来る状況ではありませんが……」

「そうだったなあ。まさか貴族の方を木箱の上に座らせる訳にもいくまい。これは困ったな」


 そう言いながら、俺は目配せでヨハンに「来い!」と合図する。


「お嬢様、そう言えばシンリ様達は現在引越しの真っ最中!これではシンリ様にもポッチーナ様にもご迷惑がかかりましょう!ここは、日を改められた方がよろしいかと」


 やれば出来るじゃないか、贅沢を言えば来る前にそう言って止めて欲しかったぞヨハンよ。


「ふんっ!ただでさえ汚い兎小屋なのに、片付いてもいないなんて……。いくらシャルのお願いでも、そんな所に入るのは御免だ!失礼する!」

「そんフグッ……」


 そう言って馬車に乗り込むおかっぱを、引き留めようとするシャルロッテの口を、影から(・・・)伸びた手が塞ぐ。


「主様の屋敷を穢したのだ。生きて返すだけでも有難いと思え!」

「んーーー!」


 気持ちは分かるがツバキ、その辺にしといてあげような。

 そうこうしている内におかっぱの乗った馬車は、無事去って行った。余程ツバキが怖かったのか、解放されても放心状態のシャルロッテ。


「主様の御屋敷、兎小屋違う!」

「そうだな、ありがとうツバキ」

 …コクコク!


 側に来て、俺にそう言うツバキを優しく撫でる。


「しかし、流石セイラさん、見事な機転でしたわね!」

「本当に助かったよ、セイラありがとう」

「御母上様、素敵!」


「いえいえ、年の功ですよ!うふふふ」


 あのおかっぱを屋敷に入れていたら、奴がどんな不幸な最期を迎えたか分からない。

 俺達の新居最初の危機は、こうして何とか去っていったのだった。

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