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新居Re

 俺達が、不動産店を訪ねてから三日が過ぎていた。


 シズカ達は何やら忙しく奔走中のようで、このところあまり顔も合わせていない。

 俺は、全員の中で基本LVの低いツバキとナーサを少しでも強化しておこうと、ギルドで手頃な討伐依頼を受けては、三人又は二人(時々地理に詳しいナーサは、シズカ達に借りだされてる)でこなしていた。


 共に過ごしている内にだんだんナーサの事も解ってきている。

 彼女がナーサでいる時はダスラも同時にいて発言もしてくるが、ダスラが表に出ている時のナーサはその時の記憶がすっぽりと抜けているらしい。これはそれぞれの精神の強さが影響しているようなのだが、元々の人格がナーサである事を考えると微妙な状況と言える。ダスラ単体でない時は、ナーサと呼んでほしいとは本人達の希望だ。

 あと、ダスラでテイムした魔物もある程度ナーサの指示を聞く。ナーサでテイムは不可。ナーサが召喚した魔物はダスラが必ずテイム出来る。ダスラはもちろん召喚は出来ない。

 ちなみに、テイムした魔物及び召喚した魔物が戦った時その経験値はナーサ(ダスラ)に入る。その為ダレウスに出会った時、既に周囲の大人達より高いLVであり、テイムした魔物を連れていた事もあって、村で厄介者扱いを受けていたようだ。


 そんな事を考えながらツバキとナーサを連れて宿に帰ると、シズカ達が宿に置いていた荷物を運び出しているところだった。


「お兄様、やっと多少暮らせる状態になりましたので、今夜からは新居にまいりましょう!」


 新居の準備が出来たと言うが、未だに俺はどんな所かも知らないのだが…。ともかく宿に挨拶を済ませ、シズカ達と新居に向かった。


 場所は正門と東門の中間辺り、内区の壁を背にした街区ではやや大きな屋敷の立つ区画だ。

 その一角にある二階建ての屋敷。うん、家というより屋敷だなこれは。

 頑丈そうな鉄の格子の門を開け中に入ると、小さな庭があり建屋の裏には城壁との間にもっと広い庭が有るようだ。ちらりと見える建物は納屋や小屋の類か。

 扉を開けてまず見えるのは、左右のカーブした階段。一階にはキッチン、リビング、部屋が三つに物置など。二階には大きな部屋が一つと、普通サイズの同型の部屋が五つ。


「…シズカ、これって大き過ぎじゃないのか?」

「いいえ!お兄様の初めての邸宅としては、これでも小さすぎる程ですわ!」


「そうなのか?ちなみに俺の部屋はどこになるんだ?」

「お兄様には一階に執務室を、そして二階に寝室がございますわ」


「そうか、ん?」


 案内された俺の寝室とやらは二階の一番大きな部屋で、そこにこれまた大きな、特注したであろうベッドが置いてあった。


「お兄様何か?」

「いや、わかってる。もういい…」


 二階の他の部屋は各自の個室で、もちろんそれぞれにもベッドはあった。(俺の執務室とやらにはベッドなどもちろん無いが)


「お兄様、さらにとっておきの物がございますわ!」


 シズカがそう言って、にやにや笑いながら俺の手を引いて行ったその先には、この世界では初めて見る風呂。それも浴槽の大きな大浴場があった。しかも、そこには…。


「おお、我が君も早速湯浴みかえ?ささ、妾と共に入ってたも!」


 全裸の褐色のエルフが入っていた。


「ちょっと!なんでエレノアが入っていますの?初めては、お兄様にって言っておいたではないですの!」

「いや、魔法で湯を沸かしておったら、汗をかいたのでのう。ほほほ」


「そんな事言って!ほら、早く出なさい!」

「いやシズカ、今出すな!こら、立ち上がるなエレノア!色々見えて…もういい俺が出る!」


 しっかりと目に焼き付いてしまったその豊満な褐色の裸体に、いたたまれなくなった俺は、慌ててリビングへと退避した。


「ふう…」


 リビングのソファで一息ついていると、キッチンからきたアイリがお茶を淹れてくれる。


「どうぞシンリ様」

「ありがとうアイリ。あれ、このお茶は?」


「はいセイナン市でミリアさんが淹れてくれたお茶です。習って淹れてみたんですが?」

「うん。美味しいよアイリ」


「ありがとうございます!」

「ところでアイリ。その服装は?」


 そう、さっきからの違和感はアイリの服装。これは明らかにメイド服だ。


「シズカ様が屋敷内での正装だと言うので。屋敷内では皆この服装ですよ」

「シズカめ…」

「あの、おかしいでしょうか?」


「いや、よく似合っているよ」

「よかった!」


 勢揃いした全員のメイド服姿を後程見たが、元々が皆美人揃いなのでもちろん似合っていて素敵だった。


 その後俺は一人で、屋敷の庭を見て回る。納屋にはスーさんがいて、近くに屋根付の馬車庫があった。

 念の為【魔眼】で数体の骸骨の騎士(ボーンナイト)を召喚し庭の各所に護衛として配置する。屋敷の周囲の情報収集と見張りに骸骨霊体(ファントム)も数体、不可視の状態で放った。


 とまあ、俺達の新居での生活がなんとか始まったのだが…。


「お兄様、大問題発生ですわ!」

「何事だ?」


「はい。実は、誰もたいした調理スキルを持っていません!」


『冥府の森』では、ほぼ俺が調理をしていたし、アイリも手伝いやちょっとした物なら作れるのだが、日々の調理を担当するには力不足だ。料理の出来ないメイド軍団が、俺の前で途方に暮れている。


「そうだな。どのみち留守を任せる人も必要だろう。ここは、あの人に相談してみるか」


 ギルドに向かい何かと頼れるシルビアに相談してみると、機密保持の為にもここは奴隷を買うのがいいだろうと勧められ、奴隷商の場所を教えてもらい羊皮紙に書いた紹介状も受け取った。


 屋敷に帰ると、風呂をと勧められたので一人で入る。

 最初の風呂は俺一人でゆっくり堪能してほしいとのシズカの気遣いだ。まあ一番風呂ではなくなったが。

 しかしやっぱり風呂はいいものだ。広い浴槽とその湯加減に俺は心身共にゆっくりと癒された。


 そしてこの夜は、これもまたシズカの計らいで、あの大きなベッドでゆったりと一人で眠らせてもらった。


 心身ともに癒されたおかげだろうか、その夜、俺は夢を見た。

 そこに浮かぶのは幼い俺に添い寝してくれる女性の姿、かつて俺の乳母だった女性。

 確か彼女はセイラといったか。俺を撫でる手の温もり、優しい笑顔、その香りまでも感じられるようだ。


「おやすみなさいオニキス様」


 彼女のその言葉を聞き心地よい安心感に包まれた俺は、さらに深い眠りに落ちていった。


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