軍勢Re
長い一日を終え宿に帰って来た俺達は、夕食を済ませると、何故か全員で俺用の一人部屋にいた。
「…狭い」
「あら、この幸せな状況でそんな事おっしゃるだなんて、さすがAランクになったお兄様ですわ」
「妾は、てっきり…妾と二人で子作りに励む為、別に部屋を準備されたものとばかり思うての」
「シンリ様、一緒に寝てくれないんですか?」
「主様一緒!」
今夜の彼女達は、やけに強情な感じだ。ダレウスから師匠の名を聞いて以降、やや元気の無い俺を気遣ってくれているのだろう。
「わかった、俺が悪かったよ。二人部屋に行って皆で一緒に寝よう!」
そう言って全員で二人部屋に移動し、また二つベッドをくっ付けて横になった。
「例の彼女、どう思う?」
「まあ、ワタクシ達について来られるだけの力があれば、構わないのではなくて?」
「五つのパーティ全滅したって…」
「全滅不可。主様守護絶対!」
「妾もこの顔ぶれが全滅するなぞ、国軍を持ち出されたとて想像出来ぬのう」
「魔物の城に引き籠った冒険者ねぇ…」
翌日、件の砦跡。
「敵が来たってみんなが騒いでるじゃんよ!」
「そんなの‥見え‥ないの」
「ほらほら、黒い馬車が見えてるじゃんか!」
「本当に‥敵‥なの?」
「こんなトコ来るのって、オレ達目当てか、みんなを退治しに来たに決まってんじゃんか!」
「そう‥なの?」
「なんか怪しい奴らが、降りて来たじゃんか?雰囲気からして敵確定じゃん!みんなで、ビックリさせて追い返そうじゃんよ!!」
続く相づちは、大量の何かの蠢く音によってかき消された。
「ダレウスの言ってた、冒険者が引き籠って以降、魔物の城になったって言う砦跡は、たぶんこれだろうな」
俺達は翌日の昼過ぎに、例の冒険者が居るという砦跡に到着した。あの後ダレウス達に無理やり聞き出したその冒険者の問題点とは、相次ぐ勧誘に疲れた彼女が王都外の廃墟に住み着き、彼女が居ついて以降、そこに魔物が大量に発生してしまい、並みの冒険者では近寄る事も出来ないようになった、という事だった。
「さて、どうしたもんかな?」
「お兄様、何か来ますわ?」
思案に耽っていると、シズカが少し慌てた様子で砦跡を指差している。見るとそこから、砦を覆い尽くさんばかりの夥しい数の魔物が、出てくるのが見えた。
「これは、確かに普通の冒険者だと、逃げ出したくもなるな」
「ワタクシの想像以上でしたわ!」
「こんなに魔物見るの『冥府の森』以来ですね。クロ達元気かなあ?」
「主様、殲滅許可?」
「ほほほ、砦ごと消し飛ばせばよかろうて。のう我が君?」
これだけの魔物を目にしても誰一人怯む事さえない。本当に心強い仲間達だ。
「いや、俺の推測が正しければ、それは逆効果になるだろう。俺達はきちんと説得して仲間になってもらいに来てるんだ」
かといってこのまま突っ込めば、魔物達を沢山殺してしまうだろう。あの大軍を怯ませる何か…大軍、か。
「俺に考えがある。皆、馬車ごともう少し下がっててくれ」
「お兄様、何を?」
「取りあえず交渉が出来るように、相手と対等になってみようと思う」
俺の真意が分からず、首を傾げながらも全員俺から距離を取る。
「さて…」
【傲慢眼】発動!
再び砦内部。
「奴ら、みんなを見せても逃げ出さないじゃんか?」
「なんで‥なの」
「でもほら、一人残して下がって行くじゃんよ!」
「逃げた‥なの?」
「あわわ…こ、こ、これってヤバイじゃんかぁぁー!」
「…なのぉっ!」
「あ、あんな軍勢いったい何処から連れて来たんじゃんよ?」
「私と同じ?‥でも‥多過ぎ‥なのぉ」
「おほほほ。愉快愉快!妾が選びし我が君は、伝説に聞きし【魔王】の様じゃのう!ほほほ」
「主様最強!大好きっ!」
今回初めて【傲慢眼】の発動を見た二人は、目を輝かせて歓喜に身を打ち震わせる。
エレノアを以てしてもそうさせる程の光景が、今、眼前に広がっていく。
【魔眼】発動後、僅かな静寂の後に、音も無く出現する俺の配下達。
鎧姿に剣を持った[骸骨の騎士]200体。
盾と剣のみ装備した[骸骨戦士]300体。
骨の狼を駆り、長槍を備えた[骸骨騎狼隊]100体。
見上げるような巨体で、手には棍棒を持った[骸骨巨人]20体。
ローブを纏い、杖を持った[骸骨魔法使い]100体。
上空には、幽体で飛び回る[骸骨霊体]200体余。
次々と現れるアンテッド系の千体近い軍勢に、砦は魔物ごと完全に包囲された。
「あらお兄様、今回は『不帰の森』の軍勢だけですの?」
「クロ達見たかったです」
「出来ればこっちも誰も死んでほしくなかったし、見た目のインパクトはかなりあるだろ?」
「なんと!我が君には、この者達の他にもまだ配下がおりますのかえ?」
「当然よ!お兄様は『冥府の森』の主!その4つの地域の魔物は、全てお兄様の配下なのですわ!」
「主様!素敵!主様!」
ちょっと興奮し過ぎて、ツバキがヤバイ状態だ。
これは【傲慢眼】の能力の一つで、倒したり屈服させたりして配下に設定した対象を、いつでも召喚、使役する事が出来る。強制するようで個人的にはあまり好きではないのだが、『冥府の森』を出る前、各地の魔物達から是非配下に設定してほしいと頼まれ殆どの者を配下にしている。彼等曰く、たまに呼んで森の外を見せて欲しいんだとか。まったく観光気分か。
ちなみに、ダレウスと闘った時にも使っている。つま先の合図は魔眼発動を悟らせない為のただのフェイクだ。




