二つ名Re
模擬闘技場での試験の後、俺達は再び組長室(本部長室)に戻っていた。
「いやあ、待たせたな!」
そう言って、ダレウスとシルビアが入って来る。
「さて試験の結果だが、シンリをAランク。嬢ちゃん達は全員Bランクって事で落ち着いた」
「ワタクシ達、圧勝でしたのに?」
結果を聞いたシズカが、不満そうに聞き返す。
「確かにそうだ。だから俺も全員Aランクでって言ったんだが…」
そう言いかけてシルビアを見るダレウス。どうやらシルビアに止められたようだ。
「皆さんが恐らくSランク近い実力をお持ちなのは理解出来ました。ですがここは、貴族や様々な者の思惑が渦巻く王都。悪目立ちしても皆さんにいい事はないと思いまして、今回はここを落とし所とさせていただきました」
「なるほど。ワタクシ達の事を考えての計らいだったのですわね」
「シルビアさん出来る人だ!」
…コクコク!
「ほほほ」
言いくるめたシルビアも凄いが、シズカ達も単純過ぎないか。まあ、ダレウスが勝手に口約束して行った非公式な試験だし、昇級しただけ、儲けと思わないとな。
「ご理解いただき恐縮です。ですが皆さんなら、すぐに昇級されそうですね」
そう言いながら、俺達のギルドカードを配るシルビア。
「さて、これでシンリはAランクになった訳だが、知っての通りA級冒険者には二つ名が付けられる」
「そう言えば、そんなのありましたね」
「本来なら、昇級試験を観戦後に役員達が話し合い決めるのだが、今回はそれが無い。だから、暫定的にオレとギルド職員で話し合い、決めさせてもらった。そのシンリの二つ名は…」
誰もが息を殺して次の言葉を待つ。
「『黒衣』だ!」
「なんだか、まんまですわ」
「暗器使いが、『暗鬼』ってのと、変わりませんね」
…コク。
「何とも言えん名じゃが、黒き衣は妾とお揃いじゃからのう。ほほほ」
「そんなの、ワタクシもですわ!」
「私は……」
「主様、お揃い!」
「まあ、オレは『天剣の弟子』ってのを推したんだがなあ?」
「それこそ、トラブルの種にしかならないと、私達が全力で阻止させていただきました!」
結局、二つ名もシルビアの意見で決まったようだ。本部長秘書恐るべし。
「ところで、『黒衣』のシンリよ」
「ワザと言ってます?」
「あっはっは。慣れろよ!ところで、迷宮に挑むにはパーティが必要なんだが、お前等まだ五人だよな?目処は立ってんのか?」
「まだですが、奴隷商を訪ねようかと思ってます」
「奴隷か。ま、それが常套手段だが、目ぼしい奴は顔見知りに流れるからな。お前等のパーティに入れるような、使える奴隷は難しいぞ」
確かに、奴隷の需要が高い王都でいきなり訪ねても、売れ残りを見せられて終わるに違いない。エレノアの時のような奇跡は、もう無いだろう。
「そこでだ、お前等にいい情報がある!」
「本部長まさか、彼女を?」
「ああ。シルビア、お前だっていつまでもあのままでいいとは、思っちゃいないだろ?」
「それは、そうなんですが」
二人の様子からするとかなりの曰く付き物件のようだが。
「オレが推薦するのは、現在Dランクの冒険者。だが、恐らく最強クラスのD級冒険者だ!」
「最強のDランク?」
どうにも的を得ないダレウスの説明に、シルビアが補足をしてくれる。
「彼女は、その特異なユニークスキルによる強さと利便性から、数々のパーティに呼ばれて所属したのですが。いずれのパーティも彼女を残して迷宮で全滅。五つ目の所属パーティが全滅して以降、引き籠ってしまいまして、誰とも会おうとしないんです」
「しかし変ですね?所属パーティが全滅した後に、何故すぐ他のパーティから打診が?怪しいとか危険だとか、普通なら敬遠されるんじゃ無いですか?」
「確かに、全滅したパーティメンバーの知人からは『死神』なんて呼ばれています。しかし、全滅前後の行動や言動で、全滅の理由が彼等自身の過信にあると、はっきりしているんです」
「過信、ですか?」
「基本的な事ですが、迷宮は階層を下る毎に難易度が増します。ですがそれに比例して、より貴重な素材やアイテム等が入手出来る可能性が高まります」
「だから皆、より深い層まで潜ろうとする、と」
「はい。ですがそれは、パーティの実力と安全マージンを十分考慮した物でないといけません。全滅したパーティは、いずれも彼女の加入後、到達階層を急激に伸ばしています。しかし幾度も、彼女が無理をするべきではないと進言し、メンバーと口論になっている様子を、多くの者が目撃しているのです」
「つまりは、それほどの勘違いをさせる強さ、又は能力が彼女にあると?」
「ま、そう言うこった!迷宮に潜った経験も豊富だし実力もある。お前等にとっても願ったり叶ったりって奴だ!あっはっは」
「確かに出来過ぎた話です。だが、お二人の反応を見るに問題はそれだけでは無いのでは?」
王都から東に少し離れた荒野に、随分昔に廃墟と化した砦跡がある。
そこに人の話し声が響いている。
「お腹‥空いたの」
「ちっ、またかよ!さっき干し肉喰ったじゃんか!」
「パン‥がいい‥なの」
「んなもん、ココにある訳ねえじゃんよ!」
「だって‥なの」
「だから、王都に残ってりゃよかったじゃんか!」
「それだと‥ダスラが‥なの」
「だ~か~ら!オレじゃねえつってんじゃんか!」
「ここに居れば‥ダスラも‥このコ達も‥誰も傷つけない‥なの」
「ちっ、結局そればっかじゃん、この意地っ張り!」
…廃墟に響く話し声。その周囲には、何かが無数に蠢く気配があった。




