SSランクRe
「さあどうした?この『暗鬼』のユーゴ様が恐ろしいか?何なら纏めてかかって来てもいいんだぜ?」
闘技場の真ん中で俺達を挑発するユーゴ。元々大して背は高くないのだがゆったりとした袖の長い衣装を着込みんでおり、その袖が重いのか、やや前傾の猫背になっている為更に小柄に見える。
「あの、いかにも色々隠してます的な服装に二つ名。既に完全ネタバレしてるが、シズカ頼めるかい?」
「ふう、仕方ありませんわ。実験台になってもらいましょう!」
中央でユーゴとシズカが対峙すると、二人の後方で柱の白炎の勢いが増す。
「はじめ!」
結果的にユーゴは、その名と見た目通りの暗器使いだった。
長い袖の中からは、刃物、針、矢等、様々な武器が飛び出し、腹からは鎌、背中から斧、つま先からも小剣とその種類も多彩。彼自身の動きもかなり速く、見失った瞬間には何らかの武器で攻撃を受けるのだろう。
…普通ならな。
しかし相手はシズカだ。全ての動きに楽々反応し、全て盾で簡単に弾いてしまう。
堪らずユーゴは、両手に長い鍵爪を出し正面から盾に突進する。盾に身体を預け、鍵爪で盾の後ろのシズカに左右から挟み込むような一撃を加えようというのだろうが。
…それは悪手だ。
盾に体当たりした瞬間、シズカの盾から飛び出した無数の棘によってユーゴは串刺しになり、彼の白炎が消えた。
「かあーえげつねえ盾だな。勝者シズカ!」
審判をしながら一番この場を楽しんでいるダレウスがシズカの勝利を告げる。
「せっかく攻めさせたのに小傷一つ付きませんでしたわ。まあ、毒耐性のテストにはなりましたが」
「やはりどの武器も毒付きか。ここ以外での対戦なら厄介そうだな?」
「まあ、ワタクシ達以外が相手ならば…ですけどね」
まあ確かにあの程度では、毒に警戒する以前の問題か。
「さて、おい次!アリウスさっさと出て来ねえか!」
「わかってるよ…父さん」
「馬鹿野郎が!ギルドじゃそう呼ぶな!ちゃんとケジメくらい付けやがれ!」
次の相手アリウスは、三人の中では一番マシな雰囲気を纏っている。しかし呼び出された事が不満なのか、どうにも覇気が感じられない。
「彼はダレウスさんの息子なのか?」
「ああ、見ての通り躾はなっちゃいねえが、実力はなかなかのもんだ。だが天才肌つうか、何でもこなせるから意欲ってモンが無くていかん。まあ、ここらでキツイ灸をすえてくれると有難ぇ!」
「だってさ。エレノア、簡単に終わらせてもいいみたいだ」
「承知した。結界が何処まで耐えるかじゃのう?」
…いや、そこまで強力なの要らないからね。
中央に歩み出たアリウスとエレノアが対峙し、白炎が強まる。
「はじめ!」
その声が響いた瞬間、アリウス側の陣地が、エレノアの無詠唱魔法により全て爆炎に覆われた。
魔法の解除により爆炎が収まると、剣を構えたまま呆気に取られるアリウスの、後ろの白炎は既に消えていた。
「勝者は解るよな?」
「お、俺は、まだ…」
「わかってんだろ!敗因はお前の傲りだ。確かに戦力差はあった。勝つのは難しかったろう。だがこんなにあっさり負けたのは、お前がナメてたからだ。『閃光』なんて二つ名付いて、調子に乗ってたんじゃないのか?」
「く、くそっ!」
ダレウスに叱責されたのが居た堪れないのか、そう言ってアリウスは出て行った。
「がっはっは、あのバカ息子が悔しがるなんてなあ。シンリ達に感謝せなならん。アイツはまだまだ伸びるぜ!」
ご機嫌で何よりだが、彼が出て行っては俺の相手がいなくなるんだが。
「ところで俺の相手は?誰と闘えばいい?」
「心配すんな!このオレ自ら相手をしてやる!」
「ギルマス自らですか?」
「そりゃ、配下の力があれだけなんだ。シンリ、お前は化け物なんだろ?」
その一言を聞いたシズカ達の殺気が高まる。
「ああ、すまん。言い方が悪かったな。オレと同じ化け物なんだろって言えば、納得か?」
「なっ?」
「改めて挨拶しとくぜ!オレは元SSランク『金剛』のダレウスだ!」
「SS!」
この男が噂に名高いSSランク。この世界で規格外と認められた存在か。早速手合わせ出来るとは運がいい。
闘技場の中心でダレウスと俺がやや距離を置いて対峙する。両者の後ろで白炎が激しく燃える。
「シズカ皆を頼むぞ!」
俺は一応不測の事態に備えてシズカに、皆の防御を任せる。
「そこのAランク。お前ら出てろ邪魔だ!」
ダレウスは邪魔だとばかりにユーゴ達を追い出した。
「じゃあ、死合おうか?」
そのダレウスの言葉と共に、俺が放った無詠唱の黒い炎がダレウスを包む。
「ははは、流石はSSだ」
威力はかなり抑えはしたが、まさかの無傷。ダレウスの背後の白炎は、僅かに揺れただけだ。
「驚いたか?こいつがオレのユニークスキル[金剛]だ!オレがまともに受けた傷は、今までコレ一つだけだ!」
そう言って何故か上半身裸になった彼は左目の上のキズを指す。見れば、ダレウスの身体を薄っすらと金色の光が包んでいる。
「ふふふ、お兄様楽しそう!」
「いい顔じゃのう我が君よ。ゾクゾクするのう!」
そんな声が聞こえる。確かにその時の俺は、とても楽しそうに笑っていたらしい。
「じゃ、こんなのはどうかな?」
そう言いながら俺が、つま先で地面を二度叩く。
すると足元の地面から、剣と鎧を身に付けた骸骨の騎士が五体出現した。その骸骨の騎士達は、ダレウスを敵と定めると、攻撃を開始する。
この骸骨の騎士は、身体的限界|(だって骨だし)はあるものの、Aランク近い実力に鍛えてある。
「ほう、なかなか珍しい手品だ。だが脆い!」
ダレウスは迫り来る剣を素手で受け止め、蹴りや拳で骸骨の騎士達を粉砕する。
「確かにアンタも化け物みたいだな。」
大した時間もかからずに、最後の骸骨の騎士が砕かれる。
骸骨の騎士の無限召喚で体力切れ狙いってのもあるが、それじゃあ面白くないよな。
俺は、剣を抜くとダレウスに斬りかかる。
「やっと抜いたか。だが甘い!」
二撃、三撃と躱すダレウス。
(思った通りこいつは強い。だが確かに速いが太刀筋が正直過ぎだ。ここも、下段からの切り返しが見え見え。いや待て…いや、これはまさか?だが確かに…ヤバい!こいつはぁぁぁーー!)
刹那、俺の下段からの逆袈裟と同時の袈裟切りが、空を切る。
「これに、反応するかよ?」
「くっ、はあはあ。まあ経験だ。その技は見た事があったからな。だが今回も、完全には避けきれなかったみたいだな」
そう悔し気に言いながら肩で息をするダレウス。結界内だというのに彼の左目の上辺りからは、僅かに血が流れていた。それは、ダレウス唯一の傷とほぼ同じところ。
彼の後方の白炎は、かなり小さくなっているが、まだ微かに灯っている。
「続きはどうする?」
「いや、ここで止めておこう。『天剣』の弟子に、今の訛っちまったオレじゃ勝てる気がしねぇ」
ヨロヨロと座り込み、その場に胡座をかくダレウス。
「シンリ、『天剣』は…アストレイアさんは元気かよ?」
「師匠は…彼女は死んだよ」
「…そうか」
目の前で目を閉じ、天を仰ぐダレウスが、今何を思っているかはわからない。
だが、ここに確かな…師匠、アストレイアの足跡を見た気がした。




