昇級試験?Re
食後、俺達は早速王都の冒険者ギルドに向かっている。
ホーリーヒル王国、王都『ザヴングル』。
言わずと知れた王国最大の都市であり、国民の半数近くが暮らす街。
三重の城壁に囲われた城塞都市で、内側から[王区][内区][街(外)区]と呼ばれている。一部の貴族は内側より[神区][人区][奈落]又は[害区]等と蔑みを込めて呼ぶ事もあるらしい。
[王区]は、中心に王の居城たる[ザヴングル城]がそびえ、その周囲に上級貴族の屋敷や各行政機関等がある。
[内区]は、ギルドなどの民間機関や中級以下の貴族の屋敷と貴族相手の商店など。
[街区]は、文字通り市民が暮らす街。俺達がいるのも勿論ここだ。
[内区]と[街区]の行き来はいくつかの門によっていつでも可能だが、[王区]は、一か所の城門からのみ入場可能で、入場には厳しいチェックがある。
「という訳で、今くぐったのが内区への門って事ですわね!」
「建物が全部おっきいです!」
それから更に進んだ内区の西の外れに、冒険者ギルドの王国本部はあった。
建物の大きさは、セイナン市支店の倍位。中の作りは似ているが、受付窓口が十か所ほどあり、その横に階段とその前に大きな掲示板。更に、大型の魔物等の搬入が出来る大きな戸のある倉庫的なスペースと、何もかもがスケールアップした感じだ。
階段下に案内窓口があったので、そこでエレナから預かった羊皮紙を渡して、しばし待つ。
「やっぱり、迷宮関連の依頼が多いですわね」
シズカ達と暇つぶしに掲示板を見ていると、案内窓口の受付嬢が戻ってくる。
「お待たせしましたシンリ様。ギルドマスターがお呼びです。こちらへどうぞ」
受付嬢の後に続いて階段を上る。4階の奥に進んで行くと、やはり重厚な扉のある部屋があった。
「失礼します。シンリ様方をお連れしました」
受付嬢が扉を開けると、そこには大きな執務机に椅子。前には石のテーブルと革張りのソファ。と、ここまでは作りこそ個人のセンスの差があるが、だいたいエレナの部屋と大差無い。
しかしソファの後ろには、大きな魔獣の頭付毛皮の絨毯(と言うより毛皮そのものだな)壁には、剥製にした魔物の頭や、角それに棚の中には様々な武器。
…まるで、センスの無い極道映画の組長室みたいだ。
組長、いやギルマスの座る椅子が回りこちらを向く。
「はじめまして。冒険者ギルド、ホーリーヒル王国本部本部長のダレウスだ!」
うん、本職だこいつ。ガタイがよくてスキンヘッドにヒゲ、左目の上には大きな傷。
「はじめまして。シンリです。そして仲間のシズカ、アイリ、ツバキ、エレノアです」
「ほう、お前さんが『精霊姫』の男ねえ…」
「そんな事実はありません」
「あっはっは。まあ、モテるのには違ぇねえみてえだがな!」
そう言いながら俺の仲間達を見回すダレウス。
「で、迷宮に探し物だって?」
「まあ、それに迷宮自体にも興味がありまして」
「そうだよなあ。そうじゃなきゃ冒険者じゃねえよなあ!」
何というか、暑苦しい人だ。
「よっしゃ、おーい!」
ダレウスが外に向かって声を掛けると、すぐに扉が開く。
「はい」
「おお、シルビア、大至急アリウスとグリセルダ、後ユーゴも呼んでくれ!」
「畏まりました」
シルビアと呼ばれた秘書風の女性はそれだけ聞くと退室した。
「何が始まるんでしょう?」
「ああ、簡単なこった。『精霊姫』の手紙によればシンリ、お前達楽にAクラス以上の実力らしいじゃねえか?」
「またエレナは余計な事を…」
「そこでだ。今、王都でも勢いのあるA級冒険者を数人呼びに行かせたから、そいつらを倒すか、いい勝負さえすれば、俺の権限で昇級させてやろう。どうだ、ワクワクするだろう!」
何て体育会系な発想だろうか。シズカ、テンプレ来たって言うの止めなさい。
その後出されたお茶をみんなで飲み、迷宮の話を聞きながら待つ事一時間くらい。
「お待たせしました。」
そう言って戻ったシルビアは、俺達を地下にある模擬闘技場に案内してくれた。
やはりここもテニスコート一面くらいの広さ。違うのは、闘技場の両端に二mくらいの柱がありその上に白い炎が燃えている事。
「この空間は支店のみたいな劣化版じゃねえぞ。複合結界により、場内では肉体的ダメージはまず受けねえ!」
「では、どうやって勝敗を決しますの?」
シズカの問いに、待ってましたとばかりにダレウスが白炎を指差し説明する。
「それが、双方の後ろで燃えるあの白炎だ!あれが消えるって事は一回死んだって事。つまり負けだ!だからお互いに、本気の武器で思いっきり殺っていいからな。もちろん魔法もだ!あっはっは」
そうは言っても俺達の力にその結界とやらが耐えられる保証は無い。俺は仲間を集めると、ダレウス達に聞こえぬよう、各自に注意を促した。
「エレノア、解ってると思うが結界が耐えられる程度しか使ってはダメだ。シズカもやり過ぎに気を付けろ。あとツバキは出来れば影移動無しで頼む。アイリは加減出来るな?」
「「「「はい!」」」」
相手の1番手はグリセルダという女性。剣を二本既に構えており、その見た目通りの双剣使いだ。
「誰でもいいから早くおいで。手加減してあげるから」
この手の台詞を吐きながら剣を舐めるグリセルダ。本当にいるんだなこんな人。
「ではアイリ、どうかな?」
「はい。行かせていただきます!」
闘技場中央で対峙する二人の後方で、白炎の勢いが強くなる。
「はじめ!」
ダレウスの号令が聞こえた直後に、グリセルダの背後の白炎が消えた。
「なっ…」
驚愕に顔を歪めるグリセルダの胸には、アイリの伸びた槍が突き刺さっている。
「し、勝者アイリ!」
勝ち名乗りを受け槍を縮めたアイリ。その穂先が抜けたグリセルダの胸を見ると、出血どころか全く傷跡が無い。意外としっかりした結界みたいだ。
「あんなの卑怯よ。あれは武器の性能差だわ!」
納得いかない様子のグリセルダ。だがダレウスはそれに取り合う様子も無い。
「くっ、次のヤツ来なさいよ!次こそ『双翼』のグリセルダ様の本気を魅せてあげる!」
何ともプライドだけは高い女だ。納得がいかないらしく連戦をお望みらしい。
「ツバキいけるな?」
…コク!
怒りの形相をしたグリセルダと対峙するツバキ。再び両者用の白炎の勢いが増していく。
「では、はじめ!」
「でりゃあああぁぁぁー!」
合図が終わらない内にグリセルダが動き、一気に間合いを詰める。確かに速い、流石はAランクと言うべきか。
だが、ツバキはもっと速い。
グリセルダの双剣が交差すると、切られた筈のツバキの身体が陽炎のように消える。
次の瞬間4体のツバキが現れグリセルダを四方から斬りつけると、彼女の白炎はまたしても消えた。
実は最近、時間を見つけてはツバキに稽古をつけている。影に頼らない形での戦闘に慣れてもらう為だったのだが、ツバキの上達には目を見張るものがあり、こと高速戦闘に於いてはLV差を考慮しても、かなりのレベルに達していた。本人曰く、主様の影の効能らしいが…。
「勝者ツバキだ」
ダレウスに勝ち名乗りを受けると、俺の元に飛んできて抱き着くツバキ。とても嬉しそうだったので、いつも以上に撫でてあげた。
「クククク。無様だなグリセルダ。どけ、前座は下がるがいい!後はこのユーゴ様がまとめて殺してやろう!」




