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王都への旅立ちRe

 朝食を済ませた俺達は、リッペ達の待つ馬車の工房へと向かう。


「おはようございます。シンリ様」

「おはようございます。リッペさん」


 俺が来るのを待っていてくれたのか、工房の前でリッペが出迎えてくれた。


「では、早速見ていただきましょう!」


 そう言って、リッペが工房の大きな扉を開けると俺達の馬車がついにその全貌を見せる。


「こ、これはまさか[魔導住宅(ビックリハウス)]!」


 そう、俺の眼前には[スレイプニル]に引かれた『車輪付きの黒いスライム』としか言いようがない形をした馬車があった。


「はい!我が職人区の技術の粋を集めて作り上げました。これは移動式[魔導住宅(ビックリハウス)]とでも言いましょうか!」


 よく見ると前面には、二人掛けの御者台があり後部にはドアが付いている。色は全体的に黒で、所々に魔法陣の様な文様が赤で書かれていた。


「これらの魔法式には、魔物避けや振動制御等、快適な旅を送る為の様々な術式を組み込んでおります!ささ、中もご覧ください!」


 楽しそうに説明するリッペに急かされ、後部のドアを開けて中に入る。そのあまりにも広い空間。

 そこには、大きな円形のテーブルとそれを囲む様に置かれた10人は座れようかという革張りの巨大なソファ。両側には窓もあり、壁際にはいくつもの備え付けの棚。

 更に二階への階段まであり二階には、これまた巨大なベッドが一つだけあった。


「す、凄過ぎですわね…」

「リッペさん、こんな馬車を作る事ってよくあるんですか?」

「御冗談を!こんな変わった馬車、王侯貴族でも持ってませんよ!」


「我々も楽しく、やりたい様にさせてもらいました!」


 その声に振り返って後ろを見ると職人らしき人達が十五人ほど立っており、その中には[フェアリー鞄工房]のモルゴとサレバンの姿もあった。


「リッペさんが我らの工房を見て、どうしても自分の家を建てて欲しいとお願いしてきた時も驚きましたが、まさか今度は馬車を作ってほしいなんて。しかし、聞けば同志シンリ殿の為、と言うじゃありませんか!それならば、と我々もご協力させていただいた次第です」


 リッペの家もやはり彼等が手掛けた物か。だとしたらこのスライム型は彼等の拘りって事かもな。


「しかし、これほどとなると相当高くついたんじゃないですか?」

「シンリ様、その話には触れないでいただきたい。我ら一同の心からの御礼の気持ちと、この新たなる試みに参加出来た喜びだけでも、おつりがくるぐらいです」


「しかし、そうは言われても…」

「先日、シンリ様も格好良く寄付して下さったではないですか。今回は是非我々に格好をつけさせてくださいよ!」


 そう言って、ウインクするリッペ。

 職人達も皆サムズアップして最高にいい笑顔だ。全くアンタら格好良すぎだろ。


「わかりました。皆さんありがとうございます!」


 その後、職人区の空き地でせめてもの御礼に急遽バーベキューをする事になり、シズカ達に酒や野菜、材料なんかを買いに行かせた。俺はまだまだ残っているミノとオークの肉を出して、それを振る舞い。更に先日回収した大鬼(オーガ)を渡し、土産として好きに持ち帰ってもらう事にする。

 話を聞きつけたザレク達も加わり、プレタは俺達と一緒に裏方として働いてくれた。


 結局、その街ぐるみの大宴会は深夜まで続き、誰もが心ゆくまで楽しんだ。



 翌朝、ゼフの商店で必要な物を買い揃えると、俺達はエレナに挨拶しにギルドに立ち寄った。


「シンリ殿が行ってしまうと、寂しくなるな…」

「…エレナ。また会いに来るよ」


「そうだな、冒険者が一所に居つかないのは当然だしな。頑張ってくれ!」

「はい。お世話になりました」


「まあ、私の身体が恋しくなったら「大丈夫です!」はうっ!」


「…エレナよ、その為に妾がおるでな、我が君の夜伽は任せるがよいぞ!」

「だからエレノア、それも違うから」


「そうだシンリ殿、王都のギルド本部に行ったらこれを見せるがいい。多少は便宜を図ってくれよう」


 そう言って巻いた羊皮紙を俺に手渡すエレナ。その後、ミリアやカタリナにも挨拶をしてギルドを出た。


 宿に戻り、残った荷物を積み込んでいるとピエトロとアンナが餞別に、焼きたての大量のパンとお弁当をくれた。せっかくの焼きたてだったので、それらはこっそり【魔眼】に収納しておく。


「また寄っておくれ!王都でも頑張るんだよ!」

「……頑張れ」


 いつの間にか、すっかり仲良しになったテスラとツバキはしばらく抱き合って共に泣いていた。その後、お互い再会を誓って泣き止んでいたのだが、馬車が走り出した時、我慢出来ずにアンナにしがみ付いて泣き出したテスラの姿が、目に焼き付いた。


 門の所には、職人区の皆、リッペ、ザレク、プレタ、商人のゼフ、タリア達が並んで見送ってくれている。

 皆が手を振り歓声を上げる中を、俺達の馬車は王都に向けて旅立った。


 流石、技術の粋を集めたとリッペ達が言うだけあって、馬車は揺れを殆ど感じさせず本当に快適だ。簡単なキッチンも備わっており、お茶を淹れたり簡単な調理も出来る。

 俺達はミスティにシャワーが頼めるので、その為のスペースも作ってもらっていた。

 ベッドが一つしか無い事に俺が不満な顔をしていたのだが、女性陣にはリッペ達はよくわかっている、と好評だ。


 今、御者台には俺とツバキが座っている。だがこの馬車を引くのは知性ある神獣な訳で、特に手綱を操る必要も無い。この場にいるのは他人に見られた時の為のカムフラージュ、まあお飾りだ。


 ちなみに俺の隣は時間交代制らしく、時間毎に交代している。うん、誰か俺とも代わってくれ。

 少し前に順番がまわってきて俺の膝の上には、ツバキが腰かけていた。俺の両手を自分の前で組ませ、その手に自分の手を添えて、少し赤くなりながらもずっと笑顔で楽しそうだ。


 旅っていいな、なんて事を考える場面なんだろうが…。


「ちょっと、速すぎないか?」


 シイバ村からゼフの馬車に乗ってきたので馬車移動の経験はあったのだが、それの倍いやそれ以上か。

 まるで、昔見た競馬中継の競走馬以上の速さで、[スレイプニル]のスーさん(命名はアイリ)は、王都目指して駆け抜けていった。


「これは、まずくないかなスーさん?」


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