日常Re
翌日、王都へ帰る商隊の護衛任務で、シャルロッテ達が出発した。
王都に着いたら、そのまま王都にて俺達が着くのを待っててもらう手筈だ。
俺達の馬車の完成は明日。準備も入れて三日後にセイナン市を発つ。
「セイナン市に来て二週間か。なんか居心地のいい場所だったな」
そんな感慨に浸って、今後の予定を考えながら歩いていると…。
「お兄様ー!」
シズカが見た事もない盾を両手に付けて、嬉しそうに駆けて来た。
「何だい、それは?」
「あら、気づきましたの?ふふふ」
「いや気付くだろ。そんだけ目立ってたら」
その不思議な形をした盾は一枚が縦八十cm幅三十cmくらいで、それぞれ両腕にしっかりと装着されており、小柄なシズカには随分大きく見える。
「見て下さい!ホラホラ!」
そう言ってシズカが身体の前で二枚を合わせると、ピタリと噛み合い一枚の巨大な人型の盾になった。
ガシャ!
…今あの盾から、やけに禍禍しい棘が無数に飛び出たような気がしたが。
ガシャガシャ!
「やっぱり。って事はシズカのスキルで作った武器か?」
「ふふふ。流石お兄様ですわ、一目で見抜いてしまわれるなんて!」
「そりゃこんだけ禍禍しい武器ならね。で、今回のリスクは?」
「これですわ!」
そう言って盾の裏のガントレット状になった装着部を外すと、シズカの腕は穴だらけだった。
盾の名前は[M女の両手盾]。装着者の魔力量に応じて、かなり高い防御力と各種耐性を得る。効果範囲は自分で任意の範囲に広げられる。が、装着すると腕が棘で貫かれ使い物にならなくなる。また、攻撃用に無数の棘が飛び出す仕組みになっているが、飛び出す度に自身にも追加ダメージを負う。
「この程度のリスクにしては、この防御力は使えますわ!効果範囲を調整して、ワタクシ達のパーティは全て護ってみせますわよ!」
…既に『不死』であるシズカの手に傷痕は無いが。
「ありがとう。でもシズカいくら治ると言っても、俺は大切な妹が傷ついてるのを見るのには、慣れる事が出来ないな」
「そのお言葉だけで、シズカはお兄様の為に何だって出来ますわ!」
俺達は見つめ合い。魔力補給と言う名目の…濃厚な口づけをした。
もう少し盾の感触を確かめたいと言うシズカと別れて街を歩く。
「主様…」
すると俺の影から、ツバキが恥ずかしそうに姿を見せた。
「どうしたんだい、ツバキ?」
いつもの様に黒装束。身の丈より長いその長刀が目立つ。
ツバキが背中に付けた長刀は、妖刀[枝垂柳]。切って命を奪うほどその切れ味を増す刀で、これまでの暗殺稼業でその切れ味は極限まで高められている。腰に付けた小太刀は、神刀[絶華]。所有者が本当に護りたい者の為に使う時のみ抜刀出来、比類無き威力を発揮する。らしいが、未だ抜けた事はない。
この妖刀[枝垂柳]には、持ち主に強力な殺人願望を抱かせるリスクがあるのだが、なんの奇跡か神刀[絶華]には、それを押さえつける強い力がある為、ツバキは普通に最強の武器として使えているのだ。
「主様?」
物言いたげに俺をじっと見つめるツバキ。
「ツバキその服、それに髪も。うん凄くいい、似合ってるよ」
そう、ツバキは色こそ同じ黒だが衣装が恐らくシズカお手製(もちろん、ユニークスキル未使用)の服を着ており、例えるならアニメキャラの女忍者のコスプレみたいだ。髪は下ろして、首の後ろ辺りで黒いリボンを使い束ねてある。
「主様、ツバキを生涯お側に置いていただけますか?」
珍しく饒舌なツバキ。仲間が増えて不安なのかもしれない。
「大丈夫。俺は絶対ツバキを一人になんかさせないよ」
「ツバキはいつまでも、主様を心からお慕い申しております!」
「ありがとう。俺もツバキが大好きだよ」
俺達は短い口づけをして、しばらく互いを抱きしめあった。
その後、すっかり甘えモードに入ったツバキを肩車して街を歩く。
「ツバキちゃんこの果物持ってお行き!」
「ツバキちゃんこの揚げ物美味しいよ!」
「ツバキちゃん、もういっそウチの子になんなよ!」
ツバキの食事風景の破壊力は半端ではない。商店の方々も、すっかりツバキの癒しの虜になってるみたいだ。
「あははは。ツバキは人気者だな」
…もしゃもしゃ。
俺達は皆、普通の家庭や家族をまともに知らない。でもこんなに優しく温かく接してくれる人達もいる。
「おや、シンリさん」
「ああ、ゼフさんお久しぶりです。いつお戻りに?」
ゼフは行商人でシイバ村で出会い、共にセイナン市に来た。宿の麦の香亭もこのゼフの推薦だった。
「今朝方ですよ。いやあ、シンリさんも色々ご活躍だった様ですね」
「…まあ。そう言えば王都はどうでした?」
「謎の暗殺者騒ぎで、金持ち連中が躍起になって護衛を集めてまして。持って行った武具が即日完売でした」
「…あはは」
「でも、王都を出る時にその者が捕まったって話を聞きましたから、私はタイミングが良かったみたいです」
旅の準備の為、明日にでも買い物に伺う旨を伝えゼフと別れた。
そのままツバキと共に宿に帰り、皆と夕食を食べる。
「ここのパンと料理がしばらく食べられなくなるなんて辛いですわ」
…コクコク!
「妾も、これ程のパンを作る職人なぞ、そうは知らぬのう。里に招き教えを乞いたいくらいじゃ」
「あっはっは!気に入ってくれて何よりさね。またいつでも食べにおいで!」
「大丈夫。王都…師匠がいる」
アンナが豪快に笑っていると、久しぶりにピエトロが話に加わってきた。
「師匠。ああそうだったね。アンタ達、王都行ったら[金の小麦亭]ってトコ訪ねなよ。ウチの旦那がパン作りを習ったトコさね」
それからアンナやピエトロの王都での話をたくさん聞きながら、テスラがテーブルで眠るまで皆で騒いだ。




