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北風の魔槍Re

「全くなんでこういつも……」


 早朝に目覚めた俺の右手にシズカ左手にエレノアそして上にツバキ、更には足にアイリがそれぞれ掴まり寝息を立てている。

 もちろん、それが一つのベッドで足りる筈もなく、二つのベッドをくっ付けているのだが。


「だから、それでも狭いって言ってるのに。まあ、慣れたからいいんだが」

(どうにも、強く言えないし)

 ……だって全員、寝顔がこんなに幸せそうだ。


 この世界に生まれて、育ててくれた乳母と師匠、それに森の住人達。

 そして今ここにいるのは俺の大切な……そう、家族以上の存在。

 そんな事を何となく考えていると、ツバキの寝言が聞こえる。


「主様、お慕い申しておりましゅるムニャムニャ……」


「俺もみんなが大好きだ。いつまでもこの俺の側に居ておくれ……」


 誰に聞かせる訳でもなくそんな事を言いながら、俺は全員が起きるまで、皆の抱き枕となってるのだった。



 朝食を済ませた俺達はザレクの工房に向かった。近付くと工房の外を掃き掃除してるプレタの姿が見える。


「おはようプレタ」

「あ、おはようシンリさん」


「アイリの槍の様子を見に来たんだが?」

「んふふふ。私が言うのもなんですが、すっごいですよ!」


 そう言いながら自慢気に笑うプレタ。表情を見る限り会心の出来のようだ。


「お、来たな!ささ、入った入った!」


 話し声を聞きつけたのか、ザレクも出てきて俺達を中へと案内する。


「さあ、こいつを見てくれ!」


 ザレクが布に包まれた槍を持ってきて俺の前に差し出す。受け取った俺が布を取るとそこには、圧倒的な存在感を放つ美しい一本の槍があった。

 ザレク曰く、穂先は千鳥十文字。中心の刃の両側に、飛び立つ鳥が広げた羽の様な刃が左右に付いている。穂先は中茎まで魔鉱石を用いて作られており、強くまた魔力を通し易い。固定は挿し込み式で、太刀打ちには金属の輪と大鬼(オーガ)の骨で補強が成されていた。

 更に柄は、刃の向きが解るよう楕円形に加工され、石突きには深緑に輝く風属性の魔石が取り付けられている。


「これは凄い。さあアイリ」


 そう言ってアイリにその槍を渡す。


「…………」


 その見事としか言いようのない仕上がりに、言葉を失うアイリ。


「嬢ちゃん、そいつ持って裏に来な!」


 ザレクに言われるまま裏の空き地に行くと、地面に立てた木の棒に藁を巻き付け、それに革鎧を着せた的が二本立っていた。


「まずはそう、その辺から突いてみな!」


 彼が指定した位置は的までの距離役五m。そこでアイリが地面と水平に槍を構える。


「伸っ!」


 次の瞬間、難なく的を刺し貫く槍。突き抜けた穂先は、的の二mほど先まで達していた。


「なんて鋭さ!」


 アイリが、槍を元の長さに戻しながら感嘆の声をあげる。


「よっしゃ。次は回転から袈裟に斬ってみてくんな!」


 今度は、次の的まで三mほどの距離を置いたアイリ。そして彼女がゆっくりと槍を回し始めると……。


「こ、これは風?あの槍から風が発生してますわ!」


 槍の軌跡を追うように、風がアイリの周囲を包み…。


「疾っ!」


 アイリが掛け声と共に的の鼻先を掠めると、的はあっさりと袈裟に切れ、その場に落ちた。


「今、穂先は的に触れていませんでしたのに?」


「流石嬢ちゃんだ。もうソイツの使い方を理解したみてえだな!」

「はい。わかる、解るんです!凄いですこのコ!」


「ソイツの銘は[北風の魔槍(ボレアス)]だ!魔槍なんざ俺の主義に反するんだが。あんな魔力の籠った柄を見せられちゃあ、挑戦したくもなるってもんだ。生涯最高の傑作!大事にしてやってくんな。がっはっは」

「[北風の魔槍(ボレアス)]……はい、ありがとうございます。大事にします!」


 そう言ってアイリは大事そうに帰ってきた相棒を抱きしめていた。


「おおシンリ様、丁度よかった」


 突然名を呼ばれ、振り向いた先には地区長のリッペがいた。


「これはリッペさん、どうされました?」

「いえ、プレタにシンリ様への使いを頼もうかと思っておりまして」


「それは丁度良い所でしたね。で、ご用と言うのは馬車の件ですか?」

「はい。馬車本体はほぼ完成しておるのですが、肝心の馬をどうされるのかと思いまして。もちろん、お持ちでなければこちらで準備しても構わないのですが。その場合でも、早い馬、強い馬、一頭立て、二頭立てと色々ありますので。またそれにより馬車の形態も変わりますから一度ご意見を伺いたく」

「なるほど馬ですか(馬車買えば馬も付いてくるくらいにしか、考えてなかったなあ)」


「我が君よ、馬を御所望かえ?」

「うん。今後俺達の足となる馬車を頼んでるんだが、その馬が欲しいんだ」


「なるほどのう。では妾が我が君が駆るに相応しい馬を進呈しようかの」

「え?」


「来りゃれ[スレイプニル]!」


 エレノアがそう言うと、その声に応える様に一頭の馬が出現した。その体躯は通常の馬より一回り大きく、足が…八本ある。


「こ、これは伝説の馬ではないですか?」


 知っているのか、リッペが真っ先にそれに反応した。


「ほう、なかなか物知りな人間よのう。如何にも神獣[スレイプニル]じゃ。こやつに勝る馬なぞおるまいて。我が君よ、[スレイプニル]であれば、如何な悪路とて問題にならん。しかも空も飛べ「わかった。ありがとうエレノア」……ふむ」


「ではリッペさん。この[スレイプニル]を預けますので、コイツに合わせてお願いします」

「畏まりました。これ程の馬が引くのです。職人達も作り甲斐が増すという物でしょう!」


[スレイプニル]は俺が命じると、とても素直にリッペについて行った。


「エレノア。今みたいにホイホイと神獣や聖獣を出したりしちゃいけない。今後は俺に許可を取ってからにしてくれ、いいね?」

「ふむ、我が君の仰せとあらばそうしようかの」


 少し落ち込んだ様子のエレノア。俺の為に良かれと思って出してくれたんだしな。


「でも、とてもいい馬だった。ありがとうエレノア」

「妾自身も我が力も、全ては我が君シンリ様の物なれば、いつでもお役立て下さりませの。ほほほ」


 そう言って誇らしげに胸を張り、コロコロと笑うエレノアはとても綺麗だった。


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