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エレノア ファンデンヴァルドRe

 

「お兄様。流石にその選択は、ナナメ上過ぎるのでは無くて?」


 俺が、買った奴隷の鎖を手に歩いていると、こっそり近付いて来たシズカがそう言った。


「シズカは、俺が本当にこの男奴隷(・・・・・)を買ったと思ってるのかい?」

「いやしかし、現にこうしてお兄様が連れてらっしゃるでは無いですか?」


「シズカにも解らないとは、やはり流石だな。よしこの辺ならいいだろう」


 市内の外れにある廃棄された倉庫に着くと、俺はそう言って中に入る。


「ミスティこの倉庫に結界を頼む」

{ふふふ、任せて}


 俺の求めに応え、ミスティの張った結界が倉庫をすっぽり包み込んだ。これでこの倉庫内は誰にも見られず、魔力が漏れる事も無い。


「そろそろ姿を見せてくれてもいいんじゃないのかな?……ハイエルフ(・・・・・)よ!」

「え?お、お兄様。今、何と?」


『全ての水の源泉たる、至高なる最上位精霊(ハイエレメンタル)を供に連れ、この妾の擬態すらいとも容易く見抜くとは、そちこそ何者なのじゃろうのう?ほほほ』

「「「!!」」」


 そのよく通る女性の声が、目の前の醜悪な()から発せられた事に、3人が驚愕する。


『それにこの、隷属の首輪と申したか?これまで幾度も付けられ命じられたが…初めてじゃこれ程抗えぬのは。これも、そちの魔力故なのじゃろうのう』


「では、それらしく命じてみるかな?擬態を解き本当の姿を見せてくれ!」


『よかろう謎多き者よ。妾が真なる姿、存分に堪能するが良い!』


 そう言った途端、魔力の奔流が男奴隷を包み、目が開けられぬほどの閃光に包まれた。


 光の中から現れたのは神々しいほどに美しい女性。燃えているような真紅の長髪からエルフ種の象徴たる尖った耳が覗き、褐色の肌に左右対称の整った顔立ち、まるでルビーの如き赤い瞳。肩の露出した、黒い着物のような衣を纏っている。


「な、お兄様?こ、これは!」

「き、綺麗」

 ……コクコクコク!


「我が名は、エレノア ファンデンヴァルド。エレノアと呼ぶ事を許そう、謎多き者よ!」


「俺はシンリ。こっちは仲間のシズカ、アイリ、ツバキだよ。よろしくエレノア」

「ほうほうシンリとやら、仲間もまた謎多き者達よの。ほほほ」


「まあね。ではエレノア、隷属の首輪を外そうか?」

「シンリは、妾を奴隷にしたいのでは無いのかや?」


「もちろん、仲間になってくれるなら心強いし嬉しいよ。だけど、奴隷として無理矢理エレノアを縛る気は無い」

「ほうほう。では何故わざわざ妾を買うたのじゃ?」


「エレノアほどの者が、あんな姿で奴隷商にいるなんて何かトラブルに違いないと思ったからね。ま、人助けかな」


「おっほっほっほ!齢五百近うなって、人の子に助けらりょうとは愉快愉快!シンリ。いや我が君よ。首輪はこのままでよい。長うてもたかだか八十年余、かく謎多き人の子に仕えてみるのも一興じゃての。ほほほ」


「本当にいいのですか?」

「もちろんじゃ。よろしく頼むぞ我が君よ」

「よろしく、エレノア!」


「さて、来りゃれ[ベンヌ]!」


 エレノアがそう言うと、赤と金の羽を持つ大きな鷲が現れた。


{あら珍しい。聖獣とはね……}

(聖獣?)

{まあ、字の如くだけどね。あれは原初の火、死と再生を司る聖獣。彼女、炎使いなのね}


 ミスティと話していると、その大鷲が変化し赤と金の杖に変わる。その杖はふわりとエレノアの前に降り立つと、その手に収まった。


「さて我が君。済まぬが妾の我が儘を一つ聞いてたも?」

「ええ、出来る事だったら」


「なに、難しい事では無い。この街のギルドとやらに案内を願いたいのじゃ」

「それなら、今から行こう」


 こうして、本日二度目のギルド訪問となった訳だが……。


「ごごごごごごごごごご…ご先祖様ぁぁぁぁっ!?」


「皆、驚き過ぎじゃ。見てみい、よう似ておろう!」


 エレノアを案内しギルドに着くと、エレナに会いたいと言うのでこれまた二度目の支店長室に来ていた。そこでエレノアから、エレナの数代前の血縁者である事がさらっと告げられ、全員言葉を失っている。


「確かに、名前も似ていますわね」

「赤い髪も一緒です」

コクコク!


「エルフは長命だと言うけど、こんなこともあるんだね」

{エレナの精霊視は、エレノアからの隔世遺伝よ。ふふ}


「そ、それでご先祖様」

「エレノアで構わぬぞ」


「で、ではエレノア様は、何故私如きに会いに来てくださったんでしょう?」

「ふむ。里の長老共がそなたが精霊を求めて旅立ったと言うておっての。なれば、この妾が直々に指導してやろうと思うて里を出て追うたのじゃが、そなたは羽虫の如く、あちら此方と飛び回りよる故、中々追いつけなんだ」


「えっ?」

「各地の精霊も寂しがっておったぞよ、そなたが応えてくれぬとの。ほほほ」


「!!」

「……して今は、我が君の奴隷をしておるのじゃ!おほほほ」


 うん。色々飛んだが、里を出て各地の精霊に聞きながらエレナを探して(を名目に旅を楽しんでいた)いたら、目的地まで乗せてくれると言う馬車があり、擬態で乗ったら奴隷商の馬車で、隷属の首輪を付けられ、擬態では本来の力が出せず、暴れると魔力を封じる枷を付けられ、そのせいか擬態も解けず、逃げるに逃げられなかった。それでも首輪に抵抗するので、いくつもの首輪を付け、同じ命令を同時に出す等、かなりの扱いを受けたらしい。奴隷商も手を焼いたんだろう。かなり安かったもんな。


「そうじゃエレナよ。そちは精霊と契約する気はあるかの?」

「え?それはどういう」


「なに簡単な事じゃ。旅の途中そちと契約しても良いと言う精霊達がおったのでな、そちが未だ精霊を求めるのならば、今ここに呼び出してやってもよい」


 突然の夢のような提案に俯いたエレナだが、しばらくすると、俺の方をじっと見て……。


「ありがとうございますエレノア様。ですが私の目的はシンリ殿によって果たされました。しかも今は一線を退いた身、過分な力を振るう事もないでしょう」


 そうはっきりと言うエレナ。ここまでなら立派だったのだが……。


「しかし私を差し置いて、シンリ殿の奴隷になった件は承服しかねます!!」

「ほほほ、焼き餅かえ?そちでは妾程の魅力を有するにあと四百年は足りぬのう!ほほほ」


 あと四百年って、俺生きてるんだろうか?そんな不毛な対決を見ながら日が暮れた。


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