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奴隷Re

「奴隷ねぇ……」


 宿の食堂で食事をしながら話していると、アンナが興味深そうに話しかけてきた。


「どう思います?」

「そりゃあ奴隷を使うのは一般的な方法だからね。アタシ達だってよく利用したよ。迷宮に潜り出すと長期になる事が多いからね、参加出来ないパーティメンバーが出たり、ケガで離脱するメンバーもいる。そんな時の為に、購入した奴隷に訓練を積ませておいて、ギルドにも予備メンバーとして登録しておくのさ」


「なるほど」

「何より、奴隷なら報酬の分配で揉める事が無いのがいいさね。奴等は食事と寝床を得、アタシ達はいつでも人員を得る。まあ、待機中に鍛えてなきゃ、迷宮で自分が死ぬだけだからね。皆、必死さ」


「そう聞くと便利な気がしてきますね。奴隷は王都で買えるんですか?」

「本場は王都さね。でも確かこの街にも奴隷商があったはずだよ」


 そう言うと、アンナは奴隷商の場所を教えてくれた。


 その後宿を出た俺達は、預けたままの報酬金を受け取りにギルドに向かう。


「何!?奴隷?ついにシンリ殿が私のご主人様「しませんから!」はうっ……」


 ミリアに報酬金の準備を頼むと、俺達は当たり前(・・・・)のように支店長室に通されていた。


「私は身も心も捧げる準備が出来てると言うのに、相変わらずシンリ殿は奥ゆかしいな。私はA級冒険者で魔道士だ、戦闘で遅れは取らないぞ!もちろん夜も寝かせないぞ!」

「だからエレナは大事な役職があるでしょう!」


「いつだって、こんな面倒臭い立場なんて捨てて……」


「ダメですからね!」


 エレナの言葉は、お茶を持って入ってきたミリアにより却下される。


「相変わらず固いなミリアは」

「お二人は長い付き合いなんですか?なんだか息が合い過ぎな気がしますが?」

「ミリアは私のパーティメンバーでB級冒険者だよ。『氷壁のミリア』と呼ばれていてな。ちなみに氷は冷静な性格。壁はあの胸、ぶべらっ!」


 言いかけたエレナに、ミリアが投げたお茶のトレーが命中した。


「Bランクに二つ名はありません!そう呼ぶのはエレナだけです!」


 そう言い残して退室していくミリア。珍しく感情を露わにしたミリアはかなり魅力的だ。


「あはは、仲がいいんですね」

「いたたた。まあな、腐れ縁さ」


 その後、戻って来たミリアから報酬金を受け取りギルドを後にする。





 奴隷商は、北地区の外れにあった。

 外観はまるでサーカスのテントみたいだ。入り口らしい布地の戸を開けて中に入る。


「いらっしゃいませ、若き冒険者様」


 出迎えたのは背が高く目の細い、ごく普通の青年だ。しかし先入観が邪魔して、どうにも胡散臭く見える。


「当店の主でロッペンと申します。以後ご贔屓にお願いいたします」

「シンリだ。とりあえず見せてもらえるかな?」


「はい。では、こちらへどうぞ」

「わかった。みんなはどうする?」


 奴隷として売られた過去があるツバキはさっきから影の中から出てこないし、アイリも不安そうな顔をしていたので聞いてみると、シズカが皆の気持ちを代弁する。


「ワタクシ達は他に買い物がございますので。お兄様、後程この店の前で合流いたしましょう。行きますよ2人共!」


 こうして、一人になった俺はロッペンの案内で奥へと進む。布地をめくり奥に入ると、やや大きめのソファがあり、その前に鉄格子にて仕切られた空間があった。


「始めなさい!」


 ロッペンが告げると、格子の向こうに6人の女性が出てきて並ぶ。こんな感じでこれから順に出てくるのだろう。最初の全員が、俺と同じくらいか年下の女性達だ。


「お気に召した奴隷がおりましたら、後程個別に面談出来ますのでお申し付けください」

「成程。この中にはいないな」


「次を!」


 次も同じような年齢層の女性達が6人並ぶ。


「右から、2番目を」

「かしこまりました。次を!」


 こんな調子で一通りの奴隷を見て、中から3名ほど選んだのだが。


「この年齢層や、女性ばかり紹介したのは何故だ?」

「こちらは客商売です。お客様のニーズにお応えしたまでの事。男奴隷や家族者、年寄等はお望みでないかと」


 まあシズカ達を連れているのを見て、そういう嗜好の者だと見られただけだろうな。


「流石だな。ちなみに店に近づいた時から殺気と言うか、かなり強力な魔力を感じてるのだが?」


 そう。俺達が近寄る、いや俺達というより客が来る事に対して、ずっと威圧と魔力をぶつけて来てる者が居るのだ。


「あ、あれは……」

「その者も奴隷なのか?」


「……はい。ですが隷属の首輪をして尚反抗的で、教育が出来ておりません」

「(隷属の首輪を拒絶出来るほどの魔力か)出来ればそいつも見せてほしいのだが?」


「ふう、畏まりました。ではこちらにどうぞ……」


 本当に厄介な奴隷なのだろう。渋々了承したロッペンの額に汗が光る。

 幾つかの部屋を抜けた先に、布をすっぽりかけられた一人用の小さな檻が置かれている。ロッペンがその布を取ると、そこには醜悪な顔で体格のいい、如何にも扱いが難しそうな男の奴隷がいた。


「ロッペン、この者と二人きりで話がしたい。いいかな?」

「ええ、どうぞ!この厄介者を引き取って下さるのなら格安にてお譲りいたします」


 そう言ってロッペンがそそくさと退室する。


「さて。話を聞く気はあるのかな?」

「…………」


 檻に近付きその男にだけ聞こえるような声で尋ねるが、返事は無い。 


「俺には見えてる(・・・・)と言っても?」

「!!」


「悪いようにするつもりは無い。俺と来ないか?」

「…………」


「逃げたければ、俺が買ってから逃げればいいだろ?」

{あら、珍しい。まさに掘り出し物ね、シンリ}


 ミスティが俺に向けそう呟くと……重い男の口がやっと開いた。


「……わかった。連れて行け」


 俺はロッペンを呼び、この男を買うと告げる。その後、他の3人の女性奴隷の面接をしたのだが、皆迷宮入りに難色を示したので諦めた。

 ちなみに、この3名は潜在魔力で選んだだけだったので、ジョブは戦闘向きじゃなく、まあ当然の結果だったが。


 ロッペンが男の奴隷を連れて来て、代金を払った俺に隷属の首輪を渡す。これに魔力を注ぎ買った奴隷に付ける事で、俺専用の奴隷となるのだ。厄介な奴隷という事なので警戒されてるのだろう。手錠とそれを引く鎖もつけてくれた。


「これでこの男はシンリ様の奴隷となりました。ですがご説明した通り、扱い難い者である事をご理解され、首輪があったとしても十分に用心されますように」

「わかった」


「では、またのご利用お待ちしております」


 そうして店を出た俺から、かなりの距離をおいてシズカ達が立っている。全く近付いて来ようとしない。


 うん。予想通りの反応だ。こんな醜い男の奴隷買って来て、しかも鎖で引きながら出て来たんだからな。


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