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彼女のお願いRe

 俺は、シャルロッテの頭上に振り下ろされるシズカのハンマーの柄を引いて軌道を変え、抜いた剣でシャルロッテの背後に迫る、影から伸びる長刀を受け止めた。


「お兄様!」

「主様!」


 怒りに我を忘れた二人が、俺に気付く。シャルロッテの左側には、シズカのハンマーによって地面に放射線上の大きな亀裂が広がっており、背後では剣と刀が鬩ぎ合っている。


「ヒィッ!」

「お嬢様!」

「お嬢……」


 やっと思考が追い付いた三人が慌てふためく。シャルロッテ当人はその場にペタリと座り込んでしまった。


「貴様如きが、お兄様を卑怯者呼ばわりするな、この雑魚が!」

「主様を愚弄した罪、万死確定!」


 シズカとツバキが、虫を殺すような目でシャルロッテを見てる。アイリも抜刀しており、うんうんと頷いていた。


「ヒイッ……ん、はっ!……うぅー……」

 そんな三人に気圧され、座り込んだままシャルロッテは失禁してしまった。



{ただ今、着替えと清掃中です。しばらくお待ちください}



 しばらく闘技場で待つと、シャルロッテ達が戻ってきた。散々裏で泣き腫らしてきたらしい、目が真っ赤だ。


「昨日並びに本日も、お嬢様が数々のご無礼を働き誠に申し訳ございません」


 開口一番、ヨハンが深々と頭を下げて詫びてきた。何か言って突っかかりそうなシズカ達を、手で制する。


「昨日事情は伺ってますのでお気持ちも理解できます。ですが、最早世間知らずで済まされる範疇を超えていたようなので」

「本当に私のご教育が至らないばっかりに……すみません」


「それと見ていただいた通り。俺達とそちらでは戦闘力に於いて差が有り過ぎます。配下になれと言うのは論外。出来れば、迷宮に同行されるのもお断りしたいくらいです」


 シズカ達の心情も考え、少しきつい言い方をしてみた。どちらにせよこの面子ではいずれ何処かで早死にするだろう。諦めてくれれば、いいのだが。


「うっく……お、お願い。おばばの……おばばの予言は絶対外れないの!」


 根性だけは大したモノだ。シャルロッテがまだ粘りをみせる。


「お嬢様……」


「お願い……お願いします!お母様を、お母様を助けてください!もう貴方達しか居ないの。私はどうなってもいいから。お願いですからお母様をお助けください!」


 シャルロッテは汚れた床に額を擦り付けて、必死に何度も頭を下げた。瞳から溢れる大粒の涙が、この気の強い少女の仮面を剥がすように零れて床を濡らしている。


「どうかシンリ様お願いします!お母様を助けてください!!」


 気が付けば、今し方まで殺気に溢れていたシズカ達が、少しウルウルしながら俺をじっと見つめてる。

(まったく、いいコばっかりだよ)


「頭を上げてくれないかシャルロッテ。それじゃ話辛くてしょうがない」

「え?」


「だから立ってくれないか?いくつか条件付きでいいなら、俺達は迷宮へ行ってもいい」

「ほんとに?」


「そんな問答を続けたいなら、話は終わりだ」


 俺がそう言うと、シャルロッテはシャキっと立ち上がった。


「す、すみません。お、お願いしますシンリ様!」

「はは、めげないコだね」


「それで、シンリ様方の、条件と言うのは?」


 感極まってまた泣き出してしまったシャルロッテを他所に、ヨハンが尋ねてきた。


「ああ、まず迷宮への同行は認めない!」

「そんな?シンリ様それでは……」


「まあ落ち着いて聞いてよ。王都に来るのは構わない。だけどヨハン達は王都に滞在して、俺達を待っていてほしい。理由はさっき言ったよね?最終的に、セイナン市で出会って話を聞いた俺達が、その術とやらを持って帰ればいいんでしょ?それなら、予言も外れてない事にならないかな」

「た、確かに」


「それから、俺達は今、武器の修理と馬車の手配を頼んでいる。これが揃わなきゃ出発はしない」

「正論ですね。他には?」


「他?別に……」

「金や、お嬢様を奴隷にしたいとか無いんですか?」


「無いってか、絶対いらない!」

「そこまで……」


「まあ、いずれ行く所にちょっと早めに行くだけだよ。特に問題は無い。もちろん、俺達のペースで行かせてもらうけどね」


 そうして、出発の日取りが決まれば連絡をするとの約束をしてシャルロッテ達と別れた。帰りに、俺をシンリ様。女性陣を〇〇お姉さまと呼び出したシャルロッテにやや引きながら……。



「さて、迷宮挑戦に必要なのはCランク以上の冒険者半数を含む6人のパーティってことだけど?」


「現在のところ、妹メイドにケモミミ美少女、忍びっ娘。キャラ的にはまあいい感じですわね」

「いや、シズカ。キャラ的なのは気にしなくていいから」


「主様!発言許可を?」

「もちろん、どうしたんだいツバキ?」


「王都では、迷宮に挑む者も多くまた欠員して戻るパーティも多い。彼らは奴隷を買い、欠員の代わりにしていました」

「奴隷か。確かに俺達の秘密を絶対遵守してもらうにはいいかもだけど。みんなはどうなのかな?」


「うふ……キタ……異世界……奴隷……ふふふ」

(だめだ、シズカがどっかイってる)

「私は、シンリ様にお任せします!」

「ツバキは、大丈夫?」

コクコク。


「奴隷ねえ……」


 どうにも記憶の中の、現代日本の倫理観って奴が邪魔して抵抗があるんだが……考えてみるかな。


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