勝負?Re
「で、どーして貴女方が、ワタクシ達と一緒にお食事してますの?」
そう、今俺達は宿の食堂で、アンナ特製の牛尽くしに舌鼓を打っているのだが、何故かその席にシャルロッテ達が同席している。
「ボクはまだ諦めていないんだ。モグモグ…んっグ…キミ達はボクのパーティに入る運命なんだから!」
「主様、敵?排除了承?」
「ツバキ殺っておしま「ダメだから!」……」
「ツバキも、いいから沢山食べなよ」
コク!
「ボクは遠慮なんてしてないよ!」
「貴女は「お嬢様は、遠慮してください!」なさい!」
「あのさ、まあ、肉は山程あるからいいんだけど、シャルロッテここに来た目的忘れてない?」
「だから、キミ達がボクのパーティに…」
「それは、断っただろ!」
「ううう……ヨハン」
「申し訳ありませんシンリ様。お嬢様はどうにも思い込みが激しく」
「確かに……」
「さて、勝手ながら、シンリ様方を、信用してお話しさせていただきます」
ヨハン曰く。シャルロッテは、王都在住の某貴族の令嬢で、ヨハンは教育係兼執事、アンガスは護衛。
シャルロッテの母親が、ある時【呪い】状態になり周囲にも害が出始めた。治療の為、多くの呪い師や治療術師等が呼ばれたが治せない。
そんな時、[時音のおばば]なる人物の予言で、シャルロッテがセイナン市である冒険者と出会い、王都の東の迷宮[遊戦帝の住処]にて、【呪い】を解く術を得ると言われたらしい。
話の途中ふとアイリを見ると、アイリと目があった。
(まあ、話題が話題だから気になるよね)
「それがどうなって俺達の事だと?俺達が出会ったのは、シイバ村でしょう?」
「それは、そうなんだけど……」
実は予言の内容に、出会う冒険者の特徴についての情報もあり黒き衣纏う男と付き従う女達だという。シイバ村での挨拶の際も、予言通りの冒険者が目の前に現れ、混乱してあんな態度を取ってしまった……と。
「正直、我々も迷いました。特徴が一致したとはいえ、聞けば前日仮証を作ったばかりの駆け出し冒険者。迷宮の出入りに、ランクとパーティの基準があるのはその危険度故です。そんな所へ連れて行くなど」
ヨハンが心痛な面持ちで、そう語る。
「ボク達だって、今日まで遊んでた訳じゃないんだ!あれから、毎日毎日ギルドの前や市の出入り口を見張って、条件に合う冒険者達を探した。でもキミ達だけだったんだよ条件が全て当てはまるのは……。それにどんな手を使ったか知らないけど、もうCランクなんだって?なら実力的にも、ボク達の足を引っ張る事は無いだろう!」
「だから貴女は何故そんなに上から目線なんですの?ワタクシ達はいずれ自力で迷宮に挑戦出来ますわ。正直、足手まといを連れてまで今行きたい訳じゃありませんの!」
「た、確かに、キミの言う事はもっともだ。だがボク達を足手まといと言うのは納得行かない!」
「あら、正直に言い過ぎましたかしら?」
シズカに言い込められ顔を真っ赤にして俯くシャルロッテ。しかし、すっくと立ち上がりシズカを指差すと言い放った。
「そこまで言うなら勝負だ!!」
翌日、俺達とシャルロッテ一行は、ギルド地下にある模擬闘技場に来ていた。
「昇格審査以外でここを使いたいと言い出す人なんて、久しぶりです」
俺の隣で、そう呟くカタリナ。
「すみません。事が事だし、エレナさんにここの話を聞いていたのを思い出しまして」
「まあ、ご使用になるのは構いませんが。では終わりましたら、施錠して鍵を受付にお願いしますね」
カタリナが退室した後、俺達は闘技場内で対峙していた。ここは丁度テニスコート一面分ほどのスペースで、特殊な結界が張ってあり場内で魔法などを使っても外に影響が出ない作りになっている。
「さて、時間も惜しいし、代表者同士で闘うって事でどうだろう?」
「ボク達は、それで構わないよ!」
「じゃあ、此方からは……アイリ、頼めるかい?」
「はい!シンリ様!」
「ボク達からは、もちろんこのアンガスが相手をするよ!」
「……お嬢、自分……不器用っスから」
(アンガスが初めて喋った!?)
「大丈夫!相手がケガをしたならそれは好都合。勝って連れて行けるのは三人だからね。思い切りやっていいよアンガス!」
アイリとアンガスが対峙しヨハンが審判。その三人を中央に残して、皆壁際に下がった。
アンガスはここの誰よりも大きく筋肉質でかなりのパワーファイターに見える。武器は棍棒だろうか。長さ1mほどで、一方に向かって徐々に太さが増している木製の武器だ。
ヨハンが、高々と挙げた片手を振り下ろし開始の合図をする。
「はじめ!」
「おいおい」
「あらあらですわね」
「選択不適」
俺達三人は呆れ顔で、アンガスが杖を手に詠唱を始めたのを眺めていた。
困り顔のアイリが、こちらを見ているので軽く頷く。
次の瞬間、アイリはアンガスの背後から首筋に短剣を当てていた。
「は?はは、勝者アイリさんです」
ヨハンが苦笑いしながら勝者を告げる。
「そんな……アンガスが……負けた」
「って、貴女おバカなんですの?一対一の対人戦に詠唱破棄も出来ない魔法使い出してどうするんですの?全く、こんな施設まで借りてまで恥を掻きたいなんて、どんだけMなのかしら?貴女がリーダーでは、国軍を率いても迷宮攻略なんて無理ですわ!無理!」
「な、な、何だよ!アンガスの魔法は凄いんだ!それを詠唱途中に攻撃するなんてひどいよ。キミ達のリーダーこそ、とんだ卑怯者だ!」
シズカの言葉に、キレたシャルロッテが大声で言い放つ。
……俺は、既に行動に移っていた。




