シャルロッテRe
職人区の外れにあるリッペの家は、予想に反して意外と小さかった。家は丸く屋根は尖っていて……どこかでこんな建物を見たような……。
そう、リッペ邸は屋根部分が赤く外壁がベージュの違いこそあれ、あの[フェアリー鞄工房]と同じスライム型だった。
「リッペさーん!」
プレタは、慣れたもので、勝手にドアを開けて入って行く。
「おやプレタ。今日はどうしたんだい?」
中からリッペの声がした。そしてプレタが勝手に俺達を手招きしてる。
中に入ると、やっぱり外観とは別物だった。広くそして二階まであるようだ。
「おや、シンリ様は、[魔導住宅]を見るのは、初めてでは無いのですね」
室内を冷静に見回す俺達に、リッペが話しかけてきた。
「お久しぶりですリッペさん。はい、マジックバッグの工房で一度」
「おお、フェアリー鞄工房に行かれた事があるのですね。と、失礼しました。シンリ様皆様お久しぶりでございます。先日はありがとうございました」
そう言って深々と礼をするリッペ。
「いえこちらこそ。ギルドに便宜を図っていただきまして、ありがとうございました」
「いやいや、して本日はどのようなご用でしょう?」
「シンリさん達、馬車が欲しいんだって。だからリッペさんなら何か知らないかと思って案内して来たんだよ」
「馬車ですか…ふむ」
プレタが用件を言うと、難しいのだろうか。考えこんでしまうリッペ。だが、暫くして……。
「シンリ様、少々伝手がございます。馬車の件、私にお任せいただきたいのですが?」
「本当ですか!」
「はい。ですがどうしても日数がかかります。構いませんか?」
「もちろん。よろしくお願いします!」
「解りました。お任せください」
リッペは、とてもいい笑顔でそう言った。
その後、仕事に戻るプレタと別れて、俺達は一度宿に帰った。
宿に帰った俺達は、アンナに牛の魔物の肉が手に入ったので食べ方を教えてほしいと頼んでみた。俺の転生前の知識では、牛肉は二~三週間の熟成期間を置く必要があった筈だったからだ。
だがアンナの説明では、野生動物は確かに熟成させて食べる種類もあるそうだが、魔物の肉の場合は大丈夫らしい。
「では解体してお持ちしますので良かったら使ってください」
「あら、ありがとね。楽しみにしとくよ!」
目の前に出すにはあまりに大き過ぎる為、後程届ける約束をし宿を出る。
「さて時間もあるし、ギルドでも行ってみる?」
「そうですわね。イベントはギルドにアリ!ですわ」
そうしてギルドに向う途中、突然声をかけられた。
「ちょっとキミ達!」
「……俺達の事ですか?」
「他の誰がいるって、言うんだよ!」
「はあ」
(一体誰だろう?こんな知り合い居たっけ?)
目の前にいるのは、女性一人男性二人の冒険者風の人達。話しかけてきてるのはその女性だ。
「まさかと思うけど、ボク達の事覚えてないとか言うんじゃ?」
「すみません。そのまさかなんですが」
「くっ……ゼフさんの商隊の護衛を一緒にしたじゃないか!」
「ああ、あの時の!その節はどうも……」
(そう言われれば、確かにいた気がするな)
「なんだい。そのどうでもいいような反応は!」
(お兄様、ワタクシが、その通りだと言ってもよろしくて?)
「(まあまあ)それで俺達に、どんなご用ですか?」
「ふん、まあいいよ。ボクはシャルロッテ。こっちは仲間のヨハンとアンガス、全員Dランクだ!」
「はあ…」
「そして、喜びたまえ!キミ達三人は、栄えあるボク達のパーティメンバーに選ばれたんだ!」
「「「「は?」」」」
「ふん、感激で声が出ないか?そうだろう、そうだろう!たかが駆け出しの冒険者が、このボクが作るパーティに参加出来るなんて、こんな幸運はまず無いだろうからね!」
「いや、えっと……」
「なんだ、パーティ名かい?よく聞いてくれた。パーティ名は[シャルロッテ騎士隊]だ。素晴らしいだろう!それにだ。パーティを結成すれば、パーティ限定依頼を受ける事も出来るし、何より各地の迷宮への出入りが可能になるんだ!どうだ冒険者ならワクワクして来るだろう!」
「お断りします。第一俺達、四人ですし……」
「な、何だって!ボクのパーティに入れるんだよ?そうだ、一人は他所に移ってもらえばいい!」
「全く、失礼な方ですわね!」
「おい、シズカ!」
「いいえお兄様、言わせていただきますわ。そこのボクっ娘!はっきり言いますが、ワタクシ達は現在Cランク。実力的には楽々Aランク以上ですわ。それが何故、貴女方のような残念な方のパーティに、大事な仲間を切り捨ててまで入らなきゃいけないんですの?」
「そ、そんな…キミ達はこの間まで木製の仮冒険者証を持ってて……」
「それこそワタクシ達の実力って事ですわ!」
「シズカもういい。シャルロッテさん、お誘いは嬉しいのですが俺はこの大事な仲間を誰一人外す気はありません。ですので今回は……」
「なんでよ。駆け出しのクセに!」
「もう止めましょう。お嬢様!」
俺達の返事に気分を害したシャルロッテの暴言は、ヨハンという仲間の男に遮られた。
「なんで、なんでよ!だって、おばばが言ってたじゃない」
「しかし、非はこちらにあり、彼らの言い分はもっともな話です」
「そんな、だってお母様は……お母様の『呪い』は?おがあざまは、うわあぁぁーん」
ヨハンに諭されたシャルロッテは、盛大に泣き出してしまった。




