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生還者

「シンリ殿!おお、無事だったか!」


 洞窟を出た俺達は意外な人物からの出迎えを受けた。

 魅惑的な身体に赤い軽鎧を付け、上から真紅のローブを着込んだ戦闘準備万端のエレナ。そして水色の全身鎧を着込んで大剣を肩に担いでいるミリアの両名と、よく朝の混雑時以外にホールで見かける数人の冒険者達だ。


「シンリさん、ごめんなさい!私……」


 そう言って泣きながら俺に飛びついてきたのは、受付嬢のカタリナだ。彼女に俺達がギルドを出発した後の成り行きを聞いたが、いやいや彼女は全く悪くないじゃないか。それどころかむしろ被害者だ。そんな怖い目に遭っておきながら、俺達のクエストの情報が漏れた事を気にかけ支店長であるエレナに報告。それを受けてエレナは装備を整えミリアと共に俺達の助太刀をするべく出発。個人的な助力が出来ない立場もあって、事が露見した時の事を考えて支店長室の机の上に二人分の辞職願を置いて来たというから驚きだ。他の冒険者達は、そんな二人の様子が面白そうだとか、アンヘイルが気に食わないとかの理由で来ただけらしいが……。


「大変だったね。すみませんカタリナさん」

「私はいいんです。それより彼らは……」


 俺に抱きついたまま辺りを見回すカタリナの前にアイリが近づき、手に持った布をめくって見せるとそこには二十七枚のギルドカードがあった。幾つかに血が付いている事から、その意味するところは場の全員に伝わり静まり返る……。


「まさか……シンリさん達が」

「いや、物騒な考えは止めてください。後ほどカードを調べてもらえば分かりますが、彼らは洞窟の奥に深入りし過ぎたようです」


 この洞窟の奥には得体の知れない何かがいるというのは、いわば常識だ。俺の言葉だけで、誰もが彼らを襲った事態を容易に想像出来た。


「エレナ、カードはそんなに深くない場所で回収した。たまに中から出て来る個体がいるのかもしれない。立ち入り禁止にすることも考えたほうがいいかもな」

「ううむ。これだけの人数を全滅させるような魔物が住んでいるのなら、悪戯に刺激をするのも良くないかもな。戻ったら早速協議してみよう」


 配下になったラウル達には出来れば静かな暮らしをさせてやりたい。もう少し全体的に強くならなければ冥府の森に移住させても、他の魔物達の餌になるのがいいところだ。

 餌といえばそうそう、高級食材でもあるミノタウラウノスの死体は残らず俺の魔眼に収納済みである。


「しかし、洞窟の奥からの初めての生還者になるとは流石は私のご主人様だな。ちょっと洞窟内部の話を聞きたいので、どうだろう今夜あたり私の寝所に来てはもらえないだろうか?」

「行きませんからね!」


 腕に絡んでくるエレナをそう言って振りほどき俺達はセイナン市への帰路につく。


「まったく、奥ゆかしいな私のご主人様は!とりあえず一度試してみてはいかがかな?きっと病みつきになるぞ!」

「結構です。っていうかご主人様って呼ぶの止めてください!」


「なぜだ。私は君の性奴隷じゃないか!」

「そんな覚えはありませんから」


 そんな俺達二人の掛け合いを見て、一緒にセイナン市を目指す全員が大いに笑っている。

 俺は、こうして誰かが心配して行動してくれた事に感謝し、冥府の森以外にもそんな存在が出来た事に、なんだか心が温かくなるのを感じつつセイナン市へと帰って行った。






 翌朝ギルドに行くと、いつもの喧騒の中に見覚えのある顔を見つけた。あれは鍛治職人ザレクの娘、プレタだ。


「あ、シンリさん。シンリさーん!」


 俺の姿を見つけると、小さな身体を目一杯伸ばし手を振りながら人垣を掻き分けてこちらにかけてくる。ちなみに遠目には幼女だが、プレタは俺より年上だ……。


「おはようプレタ。こんな所に来るなんてどうしたの?」

「はい、父さんがシンリさんを呼んできてほしいと言うので、探しに来たんです!」


「ああ、ごめんね。そう言えばプレタには宿を教えてなかったね」

「いえ、こちらが勝手に押し掛けたんですから。ところでシンリさん、今日お時間ありませんか?」


 俺は三人の顔を見る。誰も特に異論は無さそうだ。


「大丈夫だよ。じゃ一緒に行こうか」

「はい」


 そうして俺達はギルドを離れ、ザレクの工房へと向かった。


「おお、シンリさん。わざわざ済まないね」


 工房に着くと、いつものように胡座をかいて座り、煙管を咥えたザレクがいた。どうも今日はご機嫌な様子だな。


「いや~シンリさんにゃ本っ当に世話んなった!おかげで納品も目処が立ってね。シンリさんが武具を頼みてぇって言ってたのを思い出したワケさ」

「もうですか?それにしても随分早くないですか?」


「そこはオレの腕って言いたいところだが、今回はこのバカたれが眼の色変えて取り組みやがって。ま、腕はまだまだだが役立ってくれやした」

「そうだったんですね。こちらとしては助かります。アイリ!」

「は、はい!」


「槍を…昨日壊れただろ」

「シンリ様。……は、はい」


昨日壊れてしまったことを未だに引きずっているのだろう。割れた穂先と柄を大切そうに持つアイリの表情は暗い。


「えっと……嬢ちゃん?」

「ああ、すみません。こ、この槍をお願いします!どうか直してください!」


アイリからそれらを受け取ったザレクは、職人らしい厳しい顔をしながら、あちこち触って見回した。


「この槍か、変わった柄が使ってあんな。こりゃ見た事無い木材だ。だが、死んでるな。こりゃ直すのは無理だ」

「……そう、ですか」


「ま、そう落ち込みなさんな、こりゃ元は剣だね。それをいい塩梅に仕立ててやがる。剣としての寿命を過ぎてからこんな立派な槍として、大切に使ってもらえたんだ。こいつは幸せだったに違えねえ」


ザレクは『伸縮樹』で作った柄に随分興味を持ったようだ。熱心に撫でたり叩いたりして確認している。


「しかしこの柄は本当に面白いねえ。しかもいい感じに魔力が錬られてやがって……なあ嬢ちゃん、拵える得物は、今回も槍にしてえんだが。どうだい?」

「はい。私も出来れば槍が欲しいと思っていました!」


「よっしゃ、決まりだ!この柄預からしてもらうぜ。いいな?」

「はい!」


 そう二人でやり取りするとザレクはもうすっかり、一人の世界に入って行った。


「あの、シンリさんすみません。ああなると父さんはもう……」

「そ、そうみたいだね」


 プレタが、槍の柄片手にぶつぶつ呟くザレクを見ながら申し訳なさそうに詫びてくる。


「そうだプレタ。この辺りで馬車を作ったり売ったりしてるトコ知らない?」

「馬車ですか?いえ私では……そうだリッペさん。地区長のリッペさんなら、街の事は何でもご存知のはずです!」


 そう言うとプレタは、俺達を職人区地区長のリッペさんのお宅に案内してくれた。





ここまでが改稿完成分となりますので、以降の文章にやや辻褄の合わない部分や未修正箇所がございます。初めてお読みになる方には読み辛いかと存じますが、何卒ご理解のほどお願い致します。

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