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薬草採りに行こう

「お出かけかい?ツバキちゃんだっけ、何かわからない事があったら母ちゃんだと思って何でも聞いとくれ!頑張るんだよ!」


 今朝、アンナには同郷の知人の娘さんが俺を頼って訪ねて来たと説明した。人数が増えたから追加を払うと言ったのだが、蜂蜜の礼だと断られている。

 彼女にも十歳になるテスラという娘がいるので、ツバキの事も気にかけてくれているようだ。


「よかったねツバキ」

 コクコク。


 頭を撫でながら声をかける。ツバキもまんざらではなさそうだ。


 俺達は手始めににフェアリー鞄工房を訪ねた。予定通りならマジックバッグが完成している頃だ。


「おお!同志シンリ殿、お待ちしておりましたぞ!」


 店に入ると、やはり高いテンションの二人が出迎えてくれた。二人は完成したマジックバッグを見せながら色々と熱く語り始める。

 まずアイリのリュック型。これは『ワープフロッグ』という、ダンジョン内にのみ生息するレアな蛙型の魔物の革を使っており、小型のリュックの形状でありながら容量は特大。だいたい平屋一軒分ぐらいは楽に入る。

 そして俺のショルダーなんだが……はっきり言って見た目はデカいがまぐちだ。

 なんでも、百年ほど前に偶然この世界に転移して来たのが見つかった超貴重な伝説級の素材『異界くじらの革』を惜しげも無く使い、がまぐちの口金も希少な魔法金属でなどなど……。


 とまあ、彼らによる熱い説明はまだまだ続いてるのだが、容量はギルドの建物がすっぽり入ってしまうくらいはあるそうで、これは彼らの製作した鞄の中でも最高記録らしい。


「ありがとう。で、お幾らになるんでしょう?」

「もちろん、差し上げます!」


「は?」


「同志、いえ()からお金などいただけません!」

「しかし……」


「シンリ殿のおかげで、久しぶりに職人として全てを打ち込める素晴らしい仕事が出来ました!魂を込めたその作品が同志シンリ殿と、そ、その……ミスティ様のお役に立てれば、こんなご褒美は他にありません!」

「……はあ、わかりました。では、一生大切に使わせてもらいますね」


 使ってもらうのがご褒美とまで言われれば、これ以上の問答は失礼だろう。

 せめてものお礼にと思い、最後にミスティから直接思念で二人に礼を言ってもらうと、二人は腰が砕けたようにその場に倒れ込んでしまった……。


 その後ザレクの工房にも寄ったのだが、王都の注文の期日が近い事もあり、とても話しかけられる雰囲気じゃなかったので日を改める事にした。


 バッグも手に入った事だし、俺達のパーティにツバキも加わった。早速彼女のギルドカードを作ってもらうべく全員でギルドに向かう。やはり朝の混雑が過ぎ去ったギルドは閑散としているな。俺はツバキを伴って受付に向かい、係の女性に手続きをお願いした。


「主様!」


 待つ事十五分あまり、出来たばかりのカードを掲げながらツバキが嬉しそうに駆け寄ってくる。

 いやいや、何だこの可愛い生き物。そのまま俺に抱きついて笑顔で顔をこすりつけているツバキの可愛らしい仕草に、周りの職員や冒険者まで手を止めてぼんやり見つめながら癒されているようだ。


「ツバキ、恐ろしいコ!」


 いやシズカ、そんなんじゃないから……。


「これでツバキも晴れて冒険者の仲間入りだ。早速何か初任務に出掛けてみようか?」

 コク!


「お兄様、そういう事ならコレに決まりですわ!」


 手続きをしている間、シズカとアイリはずっと掲示板の前にいて何やらわいわいと騒いでいた。その中から、気になった依頼をいくつか選んできたようで、シズカの手には数枚の依頼書が握られている。


 まあいい。何となく選びそうな依頼は想像出来るが俺達が危機に陥るほどの依頼があるとは考え難い。


「えっと、この依頼を受けたいんですが」

「かしこまりました。えっと、皆さんのギルドカードは……」


 先ほどツバキのカードを作ってくれた受付に行き、同じ受付嬢に依頼書を渡すとパーティ全員のカードを一緒に提出するよう言われた。慌ててみんなを呼び、カードを集める。


「すみません。受付してもらうの初めてなもので……」

「うふふふ。もう冗談ばっかり!それでどうやってCランクになるんですか」


 うん、ごめんね。なっちゃったんですよ、いつの間にか……。


「あの……本当にこちらの依頼で、よろしいんですか?どれも新人向けですが……」


 シズカめ……やはりか。


「ああ、今日はさっきの新人に慣れてもらうのが目的ですから」

「そうだったんですね。あと、これらの銀一は依頼書持って来なくて大丈夫ですよ。常時受付なので依頼品を持ってくるだけで完了になりますから」


 後で知ったのだが、今回シズカが選んだ依頼はほとんどが素材の採集で、どれも一単位あたり銀貨一枚になるので、通称銀一と呼ばれるもの。駆け出しの新人冒険者が最低限の生活をしていく為に、素材さえ入手してくればいつでも換金してくれる ありがたーいクエストなのだ。


「さあ、はりきって行きましょうお兄様!」


 受付を済ませ、ギルドを後にする。

 シズカ、ギルド前で絡まれるテンプレはもう体験しただろう。町の人が怖がっているから、ハンマー担いで凄むのは止めなさい。


 ともあれ俺達は、やっと……。

 もう一度言わせてくれ。やっと!ギルドで受けた冒険者らしいクエストを体験するべく、町の外へと出発した。


「それでシズカ、最初は何するんだ?」

「よくぞ聞いて下さいました。もちろん最初はこの……薬草採りですわ!ですわですわ……」

「おお!」

 コク!


 いや、アイリもツバキも乗っからなくていいから。

「まあいい。シズカ、その薬草はどれなんだ?」


 とりあえず野原まで来てみた俺達は、そこで薬草採りを始める事にした。まあ何事も経験だし、やってみようか。


「……アイリ?」

「え、いや……シズカさん私ですか?私は山菜はわかりますが薬草は詳しくないですよ。第一この辺りの草花は山とは全く違いますし」

「ツバキ……?」

 フルフル。


 シズカにいきなり話を振られ首を横にふるツバキ。アイリも知らないんじゃ話にならんな……。


「ミスティ……教えてくれるか?」

{たぶんこれね。この葉っぱがハート型のやつ。この地の妖精達がみんなで指差してくれているから}

「ありがとうミスティ」


 ミスティに聞いてみると付近の妖精を使って、すぐに答えを教えてくれた。


「わかったぞシズカ。このハート型の葉っぱのやつらしい」


「さすがはお兄様!そうと決まれば競争ですわよ!」

「負けませんよぉ!」

 コク!


 全力で散っていく仲間達。こんなテンションで薬草採りなんかにとりかかる冒険者は、この世界でもきっと俺達だけに違いない……。

 薬草採りの報酬の単位は十本を一束として銀貨一枚。まあ、誰が一番に十本集めるかを競って四人で四束。銀貨四枚分の短期労働って感じか……。


「って、思うのが普通じゃないかお前達?」


 呆れ顔の俺の目の前には、三人が競いながら集めた二百束近い薬草の山が積み上がっている。


「ちょっと採り過ぎちゃいましたわね!てへ」


 てへ、じゃないよ。しかも誰も姿が見えないほど遠くまで行っていたが、どんだけ広い範囲で刈り尽くしてきたのやら……。まあ、採集したものは仕方がない。とりあえずバッグにしまっておくか。

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