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彼女達の決心

 ……時を遡り、出発前に俺の寝室で行われていた各自の意思確認の話し合いの場。


 自らの左手の薬指にはめられた指輪を見て、頬を染めながらにんまりと破顔する仲間達の中で、下を向く者が二人。 

 未だ悩んでいる様子のアイリとツバキだ。


「あとは二人だけだ。どうする?」


 俺は、急かすでもなく。問い詰めるでもなく。ただいつも通りの態度でそう聞いた。


「シンリ様に、私達は……私達は不要なのですか?」


 だが、アイリが重い口を開いて発した言葉は、完全に俺の予想外。見れば彼女の目の端からは涙が頬を伝い、同様に隣のツバキも涙を浮かべて俺をじっと見つめている。


「主様……私達が弱いから置いて行かれて……」

「…………ッ!」


 何ということだ……。マリエ救出行に連れて行かなかった理由は説明したはずだ。

 彼女達二人は先日行われた学園での武闘会において、ツバキはまさかの初戦で敗れ、その雪辱を誓ったアイリも相手を倒しきれなかった。

 その結果は彼女達にとっての大きな心の傷となっていたのだが、それが原因で救出行のメンバーから外されたと本人達は思い込み、さらにその傷口を広げてしまっていたらしい。


「そんなことはない!」


 俺はそう言って、二人に近づきその頭を抱き寄せた。


「俺の説明が足らなかった、すまない。だけど二人は大切な家族。必要でないなんて思ったことは一度もない」


 その言葉を受けて、二人はしっかりと俺に抱きついてきた。締め付ける力の強さが、彼女達の心情を物語っている。


「……でも、もうただの家族じゃ嫌です」

 コクコク。


 そう呟いてガバッと顔を上げた二人の顔はどちらも真っ赤になっている。だが、その真剣な瞳はしっかりと俺を見つめ返していた。


「シンリ様、私達とも婚約してください!」

 コクコクコク!


 ……ん?えっと……いつの間にそんな趣旨の話し合いになった。

 周りを見れば、他の仲間達もうんうんと満足そうにうなずいている。

 なんだこの、いつの間にか外堀埋まってました感は……。

 だが……まあいい。俺も彼女達と決して離れたくはないんだからな。


「わかった。二人とも、いや皆も……ずっと俺と一緒にいてくれ」


 そう言いながら、アイリとツバキの手にも指輪をはめた。

 しかし、以前シズカが言っていた通り。これは俺が、どうにかして重婚できる身分にならなきゃいけなくなったということか。やれやれ……。


「ちょっと待ってください!」


 やっと話がいい感じに纏まったところで、部屋の扉がいきなり開かれ、マリエがそう言って姿を見せた。

 彼女とその両親は、現在シルヴィア王女の住まいである王城の銀麗宮に保護され守られている。神聖国の聖母選定が終わるまで、そこで我慢してもらおうと思っていたんだが……。


「な、マリエ!あの厳重な警備をどうやって……」


 そう思ってよくよく見れば、廊下にチラリとエバンス夫妻の姿が……。なるほど、両親が同行するからと外出を認めさせたということか。


「私は……助けてもらってばかりです。戦闘も出来ないし、魔法だって皆さんとは比較にさえなりません……」

「マリエ……」


「だけど……だけど……シンリさんを好きな気持ちは、ここの誰にだって負けない!」


 その言葉に、場の全員がビクッと身を震わせた。

 俺達は恋愛感情以上の気持ちで繋がっているとお互いに思っているし、当然好意も持っている。だが、互いがそうであると分かり合えているがために、そう言った異性に対する明確な恋愛感情をはっきりと口に出す機会がほとんどなかった。

 そんな中で、自分以外の異性が俺に対してはっきりと好きだと告げ、さらに誰にも負けないとまで言い切ったのだ。心中穏やかでいられるわけがない。


「ふ、ふふふ……いい度胸ですわマリエ。お兄様、彼女にも指輪を!」

「シズカ……本気なのか」

「もちろん。それにナーサ、いや皆も聞いて。お兄様に一番最初に自らプロポーズしたのは、このマリエなのよ!」


「せ、先客がいたじゃんよ!」

「ま、負けた……なの」


 感嘆の声とどよめきが室内に広がる。

 確かに、冥府の森を出て最初に立ち寄ったシイバ村で彼女を助け、別れの前の晩に花の指輪を貰ってそう言われたな……。

 そんなことを思い出していた俺の表情から、それが事実であると理解した仲間達は、今度は彼女に羨望の眼差しを向ける。


「皆さん、こう見えて彼女は意外と行動派みたい。これは強敵になるわよ〜。それにお兄様、自分の婚約者であれば絶対に攫われるような目には遭わせないのではなくて」


 確かに、俺の中での優先順位筆頭は『家族』と呼んでいる者達。彼女達のためなら、どんな事でもするつもりだ。

 そんな……いわゆる俺の腕の中に、マリエも加えようとシズカは言っているのである。


「わかった。……マリエ、俺について来てくれるか」

「はい。私の心はずっと変わっていません。私……シンリさんのお嫁さんになります!」


 そんな言葉を交わした後、俺は彼女の左手の薬指に指輪をはめた。そして抱擁し……口づけを交わす。


 マリエの行動力が悪い方向に伝染したのだろう。その後は、なぜか全員とキスをする羽目になってしまった。

 その様子をマリエの母であるカトリーヌさんがドアの隙間から覗いて息を乱し、旦那のエバンスは娘がこんなに若くして嫁いでしまうことに、声を押し殺しながら涙を流し続けている。

 実はこの夜、マリエはシンリの婚約者になると同時にお姉ちゃん(・・・・・)になるのだが、それがわかるのはまだ先の話だ。






「ツバキ、農場に向かう者達を集めて来てくれないか」

 コク!


 俺が指示を出すと、ツバキの姿はすぐに足下の地面にスーッと沈み込んでいく。


「お疲れ様ですシンリさん。お水飲まれませんか?」

「そうだな。ありがとうマリエ」


 彼女から受け取った水筒にひと口だけ口を付け喉を潤す。蓋を閉じて返すと、赤い顔でしばらく水筒を見つめた後、腰に着けた金具にそれを戻していた。


 ツバキの忍び装束とは対照的に、マリエが纏う衣装の基本色は白。フード付きのハーフコートには、頭から腰まで真っ直ぐ伸びた太い黒のラインが背中に入っていて、フードの縁や袖口、そして裾などといった端部の各所に入った黒のラインがとてもバランスがいい。

 下は同様の膝まであるキュロットで、黒いショートブーツを履いている。

 これは、シズカ監修のもと蜘蛛女三姉妹(アラクネシスターズ)が作り上げたマリエ専用衣装で、高い魔法耐性を付与し、生地に最大限の防刃機能を与えながらも、とても軽くて着心地がいい。


 ちなみに、ニャッシュビルで作ってもらった特製の可動式猫耳を装着させているのは、人間に対して猜疑心と敵愾心を持つ難民の亜人種達に配慮してのことだ。


 ツバキはその珍しい黒髪と、誰の前でも気兼ねせず影に潜っていることから特殊な人種、すなわち仲間であると認識されているので問題はない。


黒の救世主(ブラックメサイヤ)様、お待たせいたしました」


 そう言いながら三号コロニーの住民達がぞろぞろと地上に出てきた。その数はおよそ三十名。

 二百名中三十名と考えれば少ないと思われるかも知れないが、年寄りや女子供、それに未だ働くには筋力や体力の足りない者もいるので、これでも寧ろよく集まったと言えるだろう。

 一号コロニーでの初回参加者が五名だったのと比べれば、如何に彼らの生活環境が安定してきたのかが伺えるというものだ。


 農場はそれぞれのコロニーからそう遠くない場所にあるのだが、最重要施設との位置付けから、神域アワシマの技術を用いた特に強力な結界を張って隠蔽してある。

 そのため、とうぶんは俺の転移以外では出入りが出来ない。


 俺は参加者が集まり、準備が出来ているのを確認すると、ツバキとマリエに手を振り、彼らと共に農場に向けて転移した。

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