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マジックバッグ

 一階に下りると、階段下の掲示板を見る数人の冒険者の姿があった。

 貼り出されている依頼の内容も気になったのだが、依頼を受けるにはやはりマジックバッグが必要だ。俺達はそこを素通りしてギルドの外へと出た。


「おい、待ちなぁ!」

「…………」


 ベタだ。ベタすぎる。俺達はまさかどテンプレな小説の主人公なんじゃないだろうな……。

 ギルドで初任務の報酬受け取りととランクアップした矢先、ギルドを出た途端に絡まれるって、こんなのあまりにもベタすぎるだろ。見てみろよシズカのあの嬉しそうな顔を……。


「ほう、新人にしちゃ羽振りがいいじゃないか」


 そう言ってリーダー格の頭の悪そうな男が、アイリに持たせている報酬の金貨が入った袋を見る。


「まあ今回は指導料ってことにしてやるよ。その金と女二人置いていけば命だけは助けてやる。この優しい『疾風』のアラン様に感謝するんだなあ!」

「ひゃっはっは。どっちもたまんねえ!いい女だ!」


 俺達はいつの間にか六人の男達に囲まれていて、ギルドに入る扉の前にも一人おりそいつが道を塞いでいるので中に戻る事も出来ない。

 しかし二つ名持ちか。二つ名とは冒険者のランクがA級になるとギルドから付けてもらえるらしい高ランクの証。まあ一種のステータスシンボルだな。


「逃げられる、なんて考えは捨てる事だ。オレ達『疾風旅団』って言やあ、ここじゃあちったあ知られた名なんだぜ」

「ひゃっはっは。これからもこの町で生きていきたいんだったら、ここは素直に言う事を聞いとくんだな」


 そう言いながらアランとその仲間達がじりじりとその包囲を狭め始める。

 俺は剣を抜く気はないが、シズカとアイリはすでに武器を構えて臨戦態勢だ……だが。


「天下の往来で何やってんだいアンタらは!」


 突然響いた大声に周囲の者も含めた全員が、その声のした方を見る。そこには肩に小麦粉の入った大きな袋を担ぎ、空いた手に野菜などが入ったこれまた大きな袋をぶら下げた『麦の香亭』の女将アンナロッテの姿があった。


「……アンナさん」

「ありゃ、アンタ達泊まりのお客じゃないか。ふうん、なるほどねえ」


 俺達に気づき辺りを見回したアンナは、どうやら今の状況を理解したようだ。


「ウチの大事な客に手え出そうなんざ、いい度胸してるじゃないか!」

「うるせえ!なんだこのでっけえババアっ?邪魔だから引っ込んでろ!」

「そうだそうだ、怪我したくなきゃさっさと見ないふりして行っちまいな!」


「ほう、この私にそこまで喧嘩ふっかけてくる奴なんざあ、随分と久し振りだねえ!」


 荷物を降ろし、首と手の関節をバキバキと鳴らすアンナ。彼女の周りには盗賊団の連中など足元にも及ばないほどの濃密な殺気が満ちていく。


「アンナ……。アンナって言ったのか。あわわわ……。や、止めようリーダー。こいつだきゃ、いやこの人だきゃあいけねえよ!」

「何ビビってやがる!こんなババアの一人や二人、デカいオークだと思えば何でもねえよ!」


 何かに気づいたらしい仲間の一人がアランに歩み寄り、必死で手を引くよう進言する。だが、頭に血が上ったアランがそれに応じる様子はない。


「止めよう!なあリーダー、もうこれ以上は……」

「馬鹿言ってんじゃねえ!オレ様を誰だと思っていやがる、『疾風旅団』リーダーにしてC級冒険者。いずれは『疾風』の二つ名が付く予定のアラン様だぞ!こんなデカいだけのババアに負けるわけがねえだろうが!」


 あまりにしつこい仲間の助言に、彼の胸ぐらを掴んで怒鳴りつけるアラン。ってかお前、二つ名は自称だったのか。ランクもC級なんて期待外れもいいとこだ。


「だからダメなんだ。無理なんだよ!C級ごときがあの『雷神』に勝てるわけがねえんだよ!」

「な……なんだと。こ、このババアが、あの伝説の『雷神』だって言うのか?」


「間違いねえよ!この人こそ元A級冒険者、破壊神『雷神』のアンナロッテだ!」

「……何いいぃぃぃぃっ!」


 そこからの行動はまさにパーティの名に恥じぬものだ。


「失礼しましたぁぁぁっ!」


 そう言って彼らはまさに疾風のごとくその場を去っていった。


「よいっしょっと。余計な事しちまったかい?」


 アンナが再び荷物を担ぎながら、やや悔しそうな顔のシズカを見て悪戯っぽく笑う。


「いえ。助かりました。せっかくの門出をあんな連中に汚されたくはないですから」

「へえ、門出って事は?」


「はい。俺達にも正式なギルドカードが出来ました」

「はっはっは。そりゃめでたいねえ。今夜は夕食食べるんだろ?」


「はい」

「じゃあ、とっておきを準備しとかなきゃねえ!今夜はご馳走だよ。楽しみにしてな!」


 そう言ってアンナは上機嫌で帰って行った。


「アンナって冒険者だったんですのね?」

「強そうですね。今のアイリじゃ勝てないかもです」


 帰っていくアンナの大きな背中を見送りながらシズカ達がそう呟く。そうだな、エレナは魔法攻撃が得意そうなので純粋な戦士としての技量は、このギルドに通っている現役の連中と比べても彼女が町で一番かも知れない。


「たぶん旦那さんのピエトロもそうだよ。今のジョブはパン職人と調理師だけど二人ともレベルとステータスが桁違いだからね。以前は相当の実力者だったんじゃないかな」

「アイリもまだまだ頑張ります!」


 ブランクもあるだろうし、対戦すれば恐らくアイリが勝つだろう。だが実力の近しい者の存在は彼女にいい刺激を与えたようだ。


「今夜はご馳走が待ってるらしい。早いとこ用事を終わらせよう!」


 そう言って俺達は足早に再びマジックバッグの工房を目指した。



「先ほどは、すみませんでした!」


 工房に着くと、心配していたのだが建物の扉は再び現れていて店内に入れた。中に入って前回同様に呼び続け細いエルフとヒゲのドワーフが出てきたので、向こうのペースにならぬようさっさとエレナからの手紙を渡したのだが……。


「まさか御身が神であったとは……。自分達の未熟を恥じ入るばかりでございます」

「いや、神とか止めてください。シンリでいいですから」


「かしこまりました同志シンリ殿!して……手紙にありますミ、ミスティ様は今も御身と?」

「はあ。まあ一緒にいますが」


「うおおおおおおっ!」


 その姿を見せたわけでもないのに、彼らは抱き上がって歓喜の雄叫びを上げた。

 実はこの二人もエレナが副会長を務める精霊愛好家団体の会員なのだ。あの手紙にはこの俺が彼らの言うところの精霊契約者。つまり神であるという事。そしてミスティの件と、出来うる限りの要望に応える旨が書かれていたらしい。

 いや、エレナ。ミスティの件は内密にしろって言っただろうに……。


「失礼しました。して同志シンリ殿はどんなバッグの製作をご希望ですかな?」

「アイリに小さめのリュック型と、俺には肩掛けのバッグを。容量はリュックが特大。僕のは、こちらで作れる限界値でお願いしたいのですが?」


「ふむふむ限界値とは……さすがは同志シンリ殿!その挑戦、確かに承りました。我が『フェアリー鞄工房』の持てる技術の粋を集めて必ずや最高の鞄を作ってみせましょう!」


 二人の気合の入れ方が半端無いのがかなり気になったのだが、三日後には完成すると言うので、その日は工房を後にしてアンナのご馳走が待つ宿へと帰った。




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