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追跡行に向けて

『先ほども言いましたが、彼らの船はこのような航路を進み……ここを目指しています』


 そう言ってゲルンストはドクロマークから星のマークの国土のやや右寄りの場所へと長い線を引いてみせる。あそこがさっき話に出た『神聖港ザーレ』という事だろう。


『そこで我々は、こう進みます』


 次に彼は、ドクロマークから真っ直ぐ上に線を引く。そこはあのリボンが描かれた国だ。


『ここは我らの国メリッサ。軍事国家などと呼ばれていますが……いい国なんですよ』

「なるほど……そういう事か」

『シンリさんには、もうお解りいただけたようですね』


 二本の線。後に書かれたメリッサを目指す線は、最初に書かれた線の半分ほどの長さ。

 海を行く手立てに乏しいのであれば、最短距離で海を渡る。渡ってしまえばこっちのもんだ。陸上移動なら様々な手が使えるからな。


『表向きの目的を我らの国への来訪ということにして、私達と一緒にいれば入国も関所も難なく通過出来る。という訳ですよ』

「すまないが、今回はその案に乗せてもらおう。出航はいつになる?」

『明日の昼過ぎまでには……』


 その後、落ち込むシズカ達を寮に返し。俺は各所への根回しをするべく行動を始めた。

 まずは、寮母のジョーに頼んで寝かせてもらっているダレウスだな。

 彼は深刻な魔力枯渇症になりかけていたのだが、ミスティの結界が発動したことで難を逃れた。しかし、俺がお仕置きの意味も込めて何の回復もさせなかったので、ずいぶん苦しそうに眠っている。

 俺は彼を屋敷へと運んで、セイラにその介抱を任せた。三日もあれば魔力も回復するだろうが、その間しっかりと苦しんで反省してほしいものだ。

 ……だが、この行動があんな結果を生み出してしまおうとは、この時の俺は知る由も無い。


 

 続いて城の『銀麗宮』にシルビアを尋ね事情を説明した。

 彼女は、それなら王国の軍船で『港町ハクダ』から向かえばいいと言ってくれたのだが、国家が表立って関わるのは後の大きな問題に発展しそうだ。

 神聖国とメリッサとの関係は緊張状態にあり、両国共に急激な軍の増強を推し進めている。いざという時は王国軍を動かしてもいいので、くれぐれも無理をしないでほしい。そう言って彼女は俺の頬に口づけをして見送ってくれた。

 まだ俺達の間に、そんなフラグが立っているはずはないので、きっと無事を祈ったおまじないの類なのだろうな……。


 

 次にマリエの両親、エバンス夫妻が新築された家で暮らしているシイバ村。その門の前まで行ったのだが、二人を不安にするだけだと思い、村には入らなかった。彼らの家の方角に向けて深々とお辞儀をし、きっと無事に助け出すことを心に誓い、次の目的地に転移する。


「な、なんだ?」

 プキュー!


 転移の瞬間、何かがその中に割り込み一緒に転移してしまった。

 目的地の学園内に到着してそれを見れば、そこには相変わらず不恰好な縫いぐるみのサマエルが、俺の足にしがみついている。俺の気が忙しく動いているのを気にして、無理についてきたのだろう。まったく、これじゃあ小さい姉さんそのものだ。だが。今さら送り返すのも面倒だったので、肩に乗せてそのまま連れていくことにした。


「アオイ、出ておいで」

『了解。不可視外装(インビジブルフォーム)標準外装(ベーシックフォーム)へ換装します。シンリ様』


 そう言うと瞬時に換装を済ませて彼女はその美しい姿を見せた。


「これから敵地に潜入する事になるんだから、一々俺の名前を言われるのは困るな。何かに変更出来ないか?」

『肯定。それでは旦那様(マスター)を推奨しますと当機は告げます。シンリ様』

責任者(マスター)か、まあそれならいいだろう」

『了解。変更が登録されたと当機は告げます。私の旦那様(マイマスター)

私の責任者(マイマスター)……まあ、間違ってはいないか」

 プキュ?


 その後、指輪型通信機でロロを呼び出し、事の次第としばらく休学する旨を伝える。

 彼女からも捕縛された者達の話として、ある集団との『利害の一致』による共同支援が行われていたという報告がもたらされている。相手の素性まで把握してはいないようであったが、まず間違いなく学園を混乱に陥れ、俺達の目がそちらに向いている間にマリエを攫うのが目的。つまりは例の神聖国の者による工作だったと考えれば全てのつじつまが合う。


「此度の件、シンリには心から感謝しておる。我らはここを動けんが、何か協力出来ることがあれば遠慮なく申すのじゃ。よいな」


 アオイの研究という観点からもついて来たくてしょうがないのだろう。だが、生涯をこの施設の管理に捧げ、『ネザーランデ』の名を引き継いだ彼女はここを離れられない。残念そうな表情を見せるロロの頭を優しく撫でて、俺は寮へと転移した。






「こんな所にいたのか……」

「お兄様……」


 寮の屋根上に気配を感じてそこに向かうと、シズカが一人佇んでいた。


「安心しろ。これで終わりにする!」

「それはどういう……」


 今回の件を、未だ自らの責任と悔いているのだろう。その表情は暗いままだ。


「言葉通りの意味さ。終わらせるんだ」

「お兄様……まさか……」


 俺は彼女を元気付けようと言葉をかけたつもりだった。

 だが、正直なところ俺ももうあの国にはうんざりしている。そんな苛立ちや本音が、どうやら言葉の端々にチラついているようで、その真意を最悪の方向へと受け取ったシズカの顔色がさらに青ざめる……。


「仏の顔も……ってな。だからさ、もういい(・・)だろう」


 その言葉を聞き、小刻みに身体を震わせるシズカ。だが先ほどまでと違って、その表情には落胆の色は見えない。

 妖しく輝きを放つ紅い右目が爛々と輝き、その身に本来持つ残虐性が口元に笑みを呼び起こす。


「そうですわね。彼等は我ら『黒装六華ブラッディシックスブラック』に宣戦布告をしたのです。それがいったいどういう事か……その身をもって理解していただきましょう!」


 ……今のシズカを見たら、あのダレウスでさえ戦わずして逃げるだろうな。俺はそんな事を考えながら、神聖国のある北東の方角を見据えていた。


 深夜……日付が変わり、街に灯されていたランタンが次々と消えていく……。

 学園生活やフェスタ、それに武闘会。色々あったが、どれも本当に楽しかった。

 新しく関わりを持った者や知り合えた沢山の人々。それに新しい仲間も加わっている。


 ……初めて会った時、学園長であるロロが言ってくれたように、俺達はきっと楽しめていたんだ、何もかもを……。



「それをぶち壊した奴らは……絶対に許さない!」



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