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魔動人形起動?

「……リ!……ンリ!おい、どうしたシンリ!シンリよ!」


 呼び声と腹の辺りに感じるポコポコとした衝撃にゆっくり目を開くと、眼下では小柄なロロがじっと見上げながら両手で俺の腹を叩いている。焦って涙目になった表情はまさしく幼女そのものだ。実は、かなりの年上だけど……。


「すまん。どれくらい経った?」

「ぐずん……一分も経ってはおらぬ。じゃがヌシが突然固まったように動かなくなったので、ほんの少し驚いただけじゃ」


 ふむ。『夢』の中では一時間近くの時間経過を感じたのに、こちらではほとんど時間の経過がない。それに昨夜と違って、今の俺にははっきりとさっきの光景が思い出せる……。


「ロロ、少し離れていろ。どうにかなるのかも知れん」

「なんじゃと!しかし気をつけろよ……第二のアオイ湾を作るわけにはいかんのだからな」


 そう言って彼女は離れ、制御台の裏へと避難した。

 確かにこの学園都市がある入海は、当時の戦時中に使用された魔動兵器によって出来たクレーターだとか聞いたな。しかし、その攻撃を耐え抜いたほどの強度を誇るこの施設を、完全に破壊するための自爆装置だ。作動すれば被害はそんな規模では済むまい……。


「さて……」


 俺は自分の左胸に手を当て、心臓の鼓動を感じ取る。


「トクン、トクン……。うん、確かに同じだな」


 蒼いクリスタルの棺が見せる、仄かな光の明滅。そのリズムは俺の鼓動と完全に一致した。


「それに彼女の最後の言葉……。彼女は確かに俺のことを……」


 俺が一歩近付く度に、その光はより強くなっていく。そして目の前に立った俺がその表面に手を触れると……。


 ピシッ……カキンッ!

 プシュゥゥゥゥーゥゥ……。

「そんな簡単にっ!……う、嘘じゃろ……」


 蒼いクリスタルの中心に一本の筋が入り、そこから棺の蓋は左右に割れてあっさりと開いたのだ。

 その中からはひんやりとした白い冷気が流れるように出て、徐々にクリスタル越しでない『眠り姫』の本当の姿が顕になっていく……。





「だから、ワタクシ達は学園の救援に駆けつけたと何度も言っているじゃありませんの!」

「そんな必要はない。それに今日は入場者が多すぎるので、これ以上の入場は誰であっても断っておるのだ!わかったらお引き取り願おう」


 その頃、学園の門前ではシズカとツバキが、警備の『結界衆』と言い争っていた。

 力ずくでの突破は可能。だが、先ほど俺からは『穏便に』と釘を刺されているためにきちんと一言断って入ろうとしたのだが……。


「隠す必要はないんですのよ!ワタクシ達は内部からの要請で……」

「シズカ様……」

「何よツバキ、今は……あら」


 学園正門前には彼女達同様、学園内に入れなかった多くの来場者の姿。その中で騒ぎを起こせば当然人目を引くことになる。ツバキに促されて後ろを振り返ったシズカ達は、やっと自分達の後ろに人垣が出来てしまっていることに気づいたのだ。


「じょ、上出来ですわ。学園の警備態勢は万全のようですわね!これなら安心安心、おほほほほ……」


 そう言って作り笑いを浮かべながら、彼女はその場を立ち去っていく。

 そして数分後、そんな二人の姿は学園内、それも闘技場のすぐ外にあった。


「転移が使えるならそう仰って下さればいいのに……お兄様ったら」

「……状況を確認してくる」


 周囲の状況を確認しに行くため、ツバキの姿は建物の影の中へと沈んで消える。


「……アイリ」


 中にいるアイリが気になるのだろうが、ミスティの負担が増えるので中には入らないようにと俺が指示をだしているのだ。シズカはしばらく闘技場を心配そうに見上げた後、彼女も周囲の警戒にあたるべくその場を離れて行った。






「この女性は……やはり」


 冷気が完全に消えると、その女性の顔や姿がはっきりと見えるようになった。

 腰の辺りまで伸びた長いブルーの髪、透き通るほどに白い肌。その身には何も身に付けておらず直視するのがやや気まずい感じがしたが、見る限りでは普通の人間女性と何ら違いはないようだ。

 しかも、見覚えのあるその顔は、確かにあの夢の中の女性のもの。彼女こそ、ロロに聞いたあの悲劇の魔動人形(マナドール)で間違いない……。


「ふむ。……一向に目覚める様子はないのう」


 身の危険より、研究者としての興味が体を突き動かしているのだろう。制御台の裏から這い出したロロがいつの間にか俺の背後に隠れ、そこから熱心に『眠り姫』の様子を観察している。


「ふむふむ……。バスト八十七ウエスト五十三ヒップ八十五と見た……」

「いや、そんな生々しい数値言うの止めろロロ」


 何を観察してるんだこのロリっ子研究者は……まあ、確かにあれはDくらい。おっと、いかんいかん。


「いや、Fじゃな!」

「読まれた!」

「ん、何がじゃ?」

「いや、何でもない……」


 冗談はこれくらいにして、何とかこの『眠り姫』を起動させなければこの施設もろとも国が消滅する。ミスティの保護下にある観客達も、もってあと十五分といったところか……。


 俺は『眠り姫』に近づくと彼女の後頭部に手を滑り込ませ、その頭を少し持ち上げる。もちろん体温は感じられないが、柔らかで吸い付くような肌触りとサラサラとした髪の感触は、とても人工物だとは思えない。まさに生きた人間女性そのものだ。


 ゆっくりと体内の魔力を高める。ロロの話では、かつて今回逆流した分の倍にも相当する魔力を強制的に注入する実験が強硬された記述があるが、彼女には何の反応もなし。さらには拒絶され逆流した魔力の暴走によって多くの犠牲者が出たという。


「半端な魔力では意味がない……。もっと、もっとだ」


 高まる魔力の波動が施設の壁をバリバリと震わせる。今はミスティのフォローが望めないので、慎重に己の内側のみに魔力を集中しなければ、波動だけで施設を崩壊させかねない。

 外は海だ。施設にかかる水圧も相当なもののはず……。


 周囲のそんな状況も考慮しながら、俺は魔力を高め続けた。それが俺の想定した量を少し超えた辺りで、いよいよ魔眼を発動する。


「彼女を縛る眠りの鎖を断ち切れ【色欲眼(アスモデウス)】!」


 魔眼発動と共に、俺は彼女に口づけをした。冷んやりとしているが、とても柔らかな唇の感触。その行為に少しの罪悪感を感じながら、そこに自らの舌を強く押し込み彼女の舌先に絡める。

 無論、彼女の反応はない。だが確かな繋がりのようなものを感じ取った俺は、迷わず魔力を流し込んだ。


 ……それはまるで、赤子が母の乳房を吸うが如し。

 彼女の舌先に動きはない。だが、俺が送り込む魔力はするすると、まるで砂が水を吸うような勢いで彼女の中へと入っていく。その身を壊さぬようにとの俺の配慮など、まるで不要といった様子でその勢いは激しさを増し、一分とかからぬうちに用意した魔力を全て吸い尽くしていった。


 くそ、これでは足りなかったのか……。


 そう思って唇を放すと、突然彼女の内部から何かが動く音が……聞こえた。


 ピポッ!

 カチ、カチャカチャ……。

 ブウィィィー…………ィィィィィーン……。


 えっ、パソコンの起動音?……まさかな。


「ハァハァ、シンリよ……。め、目覚めるのか『眠り姫』が……」


 俺にとっては、あまりにも簡単に事が進んでいるのだが、その研究に半生を賭けたともいえるロロにとっては事象の一つ一つが奇跡そのもの。

 汗ばんだ額と上気した肌、そして乱れた呼吸。それら全てが彼女の興奮が今、生涯で最高潮に達していることを示している。これでは『眠り姫』の目覚めと同時にロロが倒れて眠りについてしまうかも知れない。

 そんな心配をしつつ状況を注視していると、突然その『声』が室内に響いた。


『眠り姫』の口が動いた様子はない。だが確かに、その無機質な『声』は彼女の内部から発せられたものだ。

 しかしそれは些細な事。何より問題なのはその内容である……。


『起動するには認証コードが必要です。コードを入力しますか』


「……は?」


 瞬間、俺とロロの頭の中は真っ白になり、二人はその場でフリーズした。

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