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ギルドカード

「色々あって、お待たせしてしまったみたいですみません」


 秘書のミリアがそう言いながら俺たち全員にお茶を配っていく。このお茶は先日エレナの精霊談義に付き合わされた時にも飲んだのだが、絶妙な渋みと香りが心地よく、少量加えられたハチミツがとても合っていて本当に美味しい。これには、茶葉だけでなく淹れ方などにもミリア独自のこだわりがあるらしいが、こんな美味しいお茶を飲むための話ならじっくり聞いてみたいものだ。


 俺達が早速出されたお茶に口をつけていると、次に金属製の名刺サイズのプレートが配られた。


「まずは名前に間違いがないかご確認下さい。呪文は…………」

「えっと、我求めるは旅の記憶……おおっ」


 習った通りに詠唱すると、カードの表面が光り次いで文字が浮かび上がった。

 そこには俺達それぞれの名前と冒険者ランクだろうか、Eと書かれている。


「あれ、Eって?」

「それについては後ほどエレナの方から説明があります。まずはカードについての説明をしますね…………」


 そう言ってミリアはギルドカードの機能や注意事項などを説明してくれた。

 まず身分証としての機能は、まあ仮冒険者証で経験した通り。またカードの内容は必ず本人の詠唱でなければ浮かび上がらない。ただ各地のギルドには依頼達成確認用に読み取りの魔道具が置いてあるらしい。

 あとは、倒した対象のみならず戦闘行為に及んだ相手との情報もある程度残る事があるので軽率な事はしないように。

 特殊な金属で出来ていてかなり頑丈に出来ており、本人が魔物との戦闘で死亡している場合でもカードが無事に残る事が多い為、見つけた時には近くのギルドまで持ちかえってほしい、などなど。


「これで皆さんも正式な冒険者です。その責任と義務をしっかりと自覚し、節度ある行動を心がけながら日々精進なさってくださいね」


 まるでミリアは学校の先生みたいだ。だが確かに迂闊な行動は自らの首を絞めることに繋がる。これからは色々気をつけないといけないな。


「さて、ここからは私の話だ。まずランクが上がっていたのは気づいてるね?」

「はい」


「まずはゼフの護衛任務だ。これは推奨Dランク相当の任務。一日あたり銀貨五枚だから三日で十五枚のところ、ゼフから他の冒険者と同額の報酬を渡してほしいと頼まれていてな。全日程八日分なので金貨にして四枚の報酬が出る」


 正直、師匠からかなりの額の王国金貨や各地の通貨を譲り受けたので、俺達が金銭的に苦労をする事はほとんどないだろう。だがまあ、ゼフなりの恩返しなんだろうから有難くもらっておくか。


「次にゼフ一行が盗賊に襲われた際の救援任務。これはハンス独自による判断でしかも書類も何もない。事実関係の確認が出来ない案件だがハンス個人から金貨一枚が出されている」


 自腹を切ったのか……。報酬が出たのはいいが、何となくハンスが気の毒だ。


「さて本題はここからだ。村を襲ったのはあの『奥様の気まぐれ団』。それも四災悪の一人、赤の災悪カライーカのオマケ付きだ。正直よく君らが無事で済んだものだと思ったが、シンリ殿にはミスティ様がついておられるのだからな!」


 何気にひどい言われようだ。まるでミスティの力でなんとか勝ったみたいじゃないか……。


「報酬はカライーカ討伐が金貨五十枚。それ以外に討伐したのが六十三人。こっちはそれぞれの身元が判別出来ない者も多い為、残念だが全員雑兵扱いだ。全部で金貨十八枚と銀貨九枚になる」


 ギルドカードを所持していれば、賞金首になっているような者は登録されているのでその記載も残る為、より正確な報酬が算出出来るらしい。ハンスと村人で遺体を片付けていたのでそんな確認までは不可能だったのだろう。判別出来ないって部分はシズカに倒された連中だな……。


「警護と救援は三人分になる。つまりは今回の報酬は金貨八十三枚と銀貨九枚。まあ新人の初報酬にしては破格の金額だよ」


 そうエレナが言うと、ミリアが少し重そうに報酬が入った幾つかの袋を俺達の前に置いた。


「赤の災悪カライーカの討伐。私はこれを高く評価し君達をDランクまで引き上げるよう提案したんだが……」

「ですが今回は一切の記載が存在しません。ハンスさんの証言で討伐された事自体は真実だとしましょう。しかし、果たしてそれがシンリさん達単独であったのか、ハンスさんや多くの村民の協力があってのものなのか、それらが明確でない以上本来ならば報酬自体も全額出すわけにはいかないのです。確かに書類にはシンリさん単独にてこれを討伐と書かれていますが、駆け出しの新人の単独討伐など信憑性を疑われても仕方がないと思います」


 ミリアはやや言葉を選びながらそう説明してくれた。確かに、何の証拠もない。下手をすれば討伐自体の信憑性が疑われて然るべきなのに、そこに報酬や昇格まで普通に行ってしまうのはリスクが高過ぎる。公正をモットーとするべきギルドにとって今回の処置自体が異例中の異例なんだろう。


「ミリアさん、それはギルドとして当然の判断だと思います。一つランクを上げていただいただけでも本当に有難いですよ」

「シンリさん……そう言っていただけると」


 俺の言葉にほんのりと頬を染めたミリアは、お茶のおかわりを淹れてくると言ってカートを押しながら退室していった。


「さてと……私がシンリ殿の性奴隷になった件だが」

「いや、マジックバッグの話ですよね?」


 だから、余計なキーワードを出すんじゃない。シズカ、決して俺がそう望んだわけではない。お前だってずっと俺達のやり取りを見ていたじゃないか……。


「私はシンリ殿が望むなら喜んでこの身を差し出すぞ!私はこれでも女性としてはそれなりの魅力があると自負するのだがな。胸だってそれなりに……」

「もうその件はいいですから!」


 俺に向かって熱い眼差しを送り、尚且つ前かがみになって胸元を強調してくるエレナ。他の二人の視線が痛いのでそろそろ止めさせなければ……。


「知ってますかエレナさん。水精霊は嫉妬深いんですよ?」

「うっ、た、確かに。古い文献では契約者を愛するあまり、その心変わりを恐れた精霊が契約者を殺してしまうなんて話もあった……」


 さすがに精霊方向に話しを持っていくと効果はてきめんだな。


{っていうか、あの例え話はウンディーネの逸話じゃない!一緒にするなって言ったのに}

(まあ、ここは我慢してくれよミスティ)


「おお、そうか。エレナさん、ミスティも今早くマジックバッグの件を進めるように俺に言っていますよ」

{もうっ、私がいつ言ったのよ!}


「ミスティ様のお言いつけとあらば是非もない。早速工房に手紙を書くので少し待っていてくれるかな」


 やはりミスティの名前の効果は絶大だ。エレナはペンを取り何やら手紙を書き始めた。

 そこに丁度よくミリアがお茶のおかわりを持って現れ、俺達はそれを飲みながらしばらく待つことになる。


「よし、これを持っていくといい。決して悪いようにはならんはずだ」

「ありがとうご……えっ?」


 そう言ってエレナは手紙を俺に手渡し、受け取ろうとする俺の手を両手でしっかりと握りしめた。


「シンリ殿、貴方がしてくれた事は私にとって何物にも代え難い奇跡だ。ギルドでは立場もあるが、この私の身も心も全てはシンリ殿のもの。必要な時にはいつでもこの身を使ってくれて構わない。いや、むしろ使われたい!」

「遠慮しますから!」


 いやいや、そこでなんでそんなに残念そうな顔をするんだ、この人は……。


「ああ、くれぐれもミスティの件は内密にお願いします。俺は地道にやっていきたいんです。なるべく目立つことは避けたいんですよ」

「もちろんだとも!しかしなあ……その面子だし、嫌でも目立つと思うんだがな」


 エレナは、俺以外の二人をちらりと見ながらそう言った。

 俺は、その言葉が何かのフラグにならないことを祈りつつ、支店長室を後にした。

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