団欒
随分と賑やかな昼食。
リビングだけでは狭いので庭にもテーブルと椅子を出し、バイキング形式で各自好きな料理を取り分けて食べてもらえるようにした。
その結果、男連中と子供達は庭で、俺と残りはリビングで食事をしている。
ヴェロニカが庭組のツバキ、テスラ、オニキスらとテーブルを共にしているのはいい傾向だ。彼女にはもっと多くの者と交流し自分の世界を広げてもらいたいからな。
「どこ見てらっしゃるのお兄様、はい次ですわよ。あーん」
「シンリさん、これお母さんが作ったんだよ。あーん」
「こういった作法はわかりませんが、これも経験。さあシンリさん、あーんです」
……まあ、シズカがそうしたがるのはいつものことだし、マリエもまあよしとしよう。
「いや、なんでシルビアさんまで?」
「心外です。シンリさんは、私にこうされるのはお嫌いですか?まさか!私のことを嫌って……」
「い、いや、そんなことはありませんよ!い、いただきますね。あーん……」
「うふふ、シンリさんかわいい」
「…………」
シルビアさん、こんな感じだったっけ……。まあ、確かにギルドや用事以外で彼女とこんな時間を過ごすこと自体が殆ど無かったからな。これが自然体な彼女の姿かもしれない。
「……なんて事をお兄様が考えていそうで、何だかシルビアさんが可哀想に思えてきますわ」
「何の話だ、シズカ?」
「……唐変木」
「……?」
ちなみに、今日の昼食会には第二会場がある。そこは屋敷に完成した地下室。
シルビアが来てキッチンで手伝いを申し出たのは完全に想定外だったが、地下室を作っているのはダレウスから聞いて彼女も知っていたので、作業員への差し入れという事にしてある。その作業員がまさかのケットシーである事は、もちろん秘密だ。
もう一つ付け加えるなら、正式には第二会場は地下室には無い。地下室に入って扉を閉めてそこから転移した先、迷宮下部の街ニャッシュビルに第二会場を作っているのだ。目立ち過ぎるガブリエラや、チロルと仲良しのナーサも今日はそっちに行っている。
多少親しくなったからといって、ニャッシュビルの存在を仲間以外の者に話すわけにはいかないので、ここのメンバーは連れていけない。俺は地下室を見に行くふりをしてしばらくそっちにも顔を出し、再び何食わぬ顔で屋敷に戻った。
昼食が済むと、マリエの一家はシイバ村に送って行った。夜、俺が迎えに行くまでは家でゆっくり過ごしてもらおうとの配慮からだが、実はマリエからシルビアが実は王女であると聞かされてしまったエバンス夫妻が緊張で食事さえ出来ない状態になってしまったのが原因である。やれやれ、色々と予想外の影響を出してくれる王女様だ……。
テスラは夜まで居ていいとの許可を得ているのでいいが、食後すっかりお昼寝中である。
「ジャクソンにアシュリー、今から帝都に向かうがお前らはどうする?」
「今からって……本当簡単に言ってくれるよなあ大将は……」
「本当に我らの常識ではとても測れない御方だ。しかし家には先日戻ったばかり、そうそう帰っていては父に笑われましょう。今回は遠慮させてくださいシンリ様」
帝都に向かう前に男二人に同行するか聞いてみたのだが、確かに先日まで学園を休んで国に戻っていたんだったな。俺はツバキとアイリを伴って、帝都へと転移した。
「でもシンリ様。なんだか関所も城門も通らないなんて、ちょっと悪いことしてる気がしますね」
「う……確かに」
言われてみればそうだ。楽なので転移に頼りっきりだが、これはれっきとした犯罪行為。王国や帝国ならまだしも、他国で使うには考えものだ……。
その後、アイリはギルドに向かってバービーを、ツバキは影人の隠れ里に向かってカエデをそれぞれ呼びに行った。
「久しぶりだな」
「師匠!いつ帝都へ」
そして俺はというと、一人でジャンヌの屋敷を訪ねている。
すでに将軍職にある彼女を帝都から離れさせることは、もちろん出来ないので、招待に来たのではない。
ろくに話もせずに帝都を去ったのと、世話になった彼女の父である故エドワード前将軍の墓前にも挨拶をしておきたかったのだ。
屋敷の一角にある霊廟への挨拶を済ませ、今となっては懐かしいあの中庭の見えるリビングで二人で話した。
「頑張っているみたいじゃないか。帝都出身の生徒からいい噂ばかり聞かされているよ」
「いえ、先人達からすればまだまだ未熟者。未だ修行の日々ですよ」
それからしばらく、あれ以降の話を聞いた。帝都に潜んでいた残党は、拘束された者の密告が相次ぎ次々と捕縛されたのだが、そこで明らかになった彼らの隠された拠点の数は当初の想定を大きく上回っていたらしい。そこで現在は、帝都住民一人一人の素性の確認と共に、帝都内での住居の購入、賃貸に関して新たな法令を発布し再発防止に努めているようだ。
その他にも問題は山積みだが、復帰された皇帝陛下の下で家臣は以前よりもしっかりと団結して事に当たっているらしい。なんだか、まだまだ大変そうだ……。
てっきり、手合わせしてくれと言ってくるものだとばかり思って覚悟してきたのだが、さすがにまだそんな余裕はないらしい。彼女らしからぬ落ち着いた話しぶりは、まあ自覚と貫禄が出てきたのだと思うべきなんだろうな。
ジャンヌの屋敷を出た俺は、ツバキ達と合流した後、一緒に甘麦屋であんパンを購入して屋敷へと戻った。
「げっ、ババア!」
「誰がババアだってんだいこのクソ坊主が!」
屋敷に戻ると、バービーの顔を見たダレウスは飲んでいた茶を吹いて驚いていた。なんでも、若い頃にやんちゃをしてこっぴどく彼女にボコられたことがあるらしい。おそらくはまだ金剛を十分に使いこなせていない頃の話だろうが、アイリからあの時の戦いの様子は聞いているけど、このバービーも只者じゃあないな。
カエデは、早速キッチン組に合流して馴染んでいた。さすがは大人の女性だ。すっかり、追いかけっこを始めた二人の年配とは比べるべくもない……。
夕方になり、さらにエレナとミリアが合流した。
始まった夕食会は貴族の晩餐ほどの豪華なものではないけれど、俺や仲間達のやや常識外れな力を知り、それでもなお普通に接してくれる者達とのとても温かく楽しい宴となった。
後半になるとお酒が入ってすっかり出来上がった大人組と、おやつにあんパンを食べながら話やゲームに興じる子供組に別れ、俺はその両方に忙しく顔を出す羽目になる。
「どうだいヴェロニカ、楽しめてる?」
宴も終盤になり、俺はツバキ達の隣で美味しそうにあんパンを食べているヴェロニカの隣に座った。
「うん。それに……シンリがどれだけみんなから愛されているのかがよくわかった」
「確かにそうだね。でも……」
その特異な能力や環境のせいで、自ら他人との距離を開けてきたヴェロニカ。俺達だって、もちろんこんな風に普通に接してくれる人ばかりではない。この力を見せれば、化け物呼ばわりする者も多いだろうし、中には私利私欲で利用しようとする輩だって現れるだろう。
「それでも、世の中にはこんな俺達のことを受け入れてくれる人だっている。それを俺はヴェロニカ、君にも知って欲しかったんだ」
「うん。少なくとも、今日会った人は誰一人私を特別扱いしなかった。ごく自然に受け入れ、当たり前のように話しかけてくれた……」
そう言いながら、宴に参加した者を見回すヴェロニカの顔には、僅かだがはっきりとした微笑みの表情が浮かんでいた……。




