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帰ってきた縦ロール

 貴族たちが帰って来る……翌日の早朝、学園はその話題で持ちきりだった。

 初日はヴェロニカの件もあって、あまり気にもしてなかったのだが、確かに教室内には幾つかの空席がある。

 昨夜シズカも、生徒が半分くらいしかいなかったとぼやいていたな。貴族の多い普通科は影響が大きいんだろう。


 彼らが何故この学園を離れ、それぞれの大陸や島などに帰省していたかというと、それは例の帝国で発生した暁事変による影響なのだ。

 ここからすれば、すぐ山の裏側にあたる帝国に、未曾有の危機が降り掛かろうとしているとの情報はどこよりも早くこのデジマールにもたらされ、もしもの事態を想定した貴族達は我先にと自国に逃げていったらしい。


 よくよく聞けば、身分の違いからくる差別意識に加えて、彼ら同士の派閥争いや国家間のしがらみもあり、常に学園のトラブルの種となっている迷惑な連中だ。

 そんな彼らが一斉に戻って来るとあって、生徒のみならず先生達までが朝から何やらピリピリムードになっていた。

 ちなみに、王国の貴族の大半はシルヴィア王女が絶対に大丈夫と公言していたのを信じて大半は寮に残った。寮長のレジーナも王国の貴族の令嬢だ。

 逆に、帝国の貴族達は暁事変終結後に、国内の復興を手伝う為に帰国しておりまだ戻ってはいない。


「シズカ、くれぐれもトラブルを起こすなよ。いいな」

「あらワタクシなら心配いりませんわ。でも、どうしても不安なら、授業参観して下さってもいいのですよ!いや、むしろして欲しいですわ!」


 不安要素いっぱいのシズカだが、普通科を選んだのは今後の旅に役立ちそうなコネクション作りと言っていたので、わざわざ目的の妨げになるようなトラブルは起こさないだろう。

 アイリとツバキは昨日の授業の大半を寝て過ごしたらしい。よくわからない話をだらだらと話すのを聞いてたら眠くなったと言っていたが、そんな事を続けていたらそのうち怒られそうだ。まあ、学校の授業を初めて受けるんだ、仕方ないのかも知れないな……。


 シズカ達と別れて教室に向かうと、ヴェロニカの姿は今日は見当たらなかった。その代わり、昨日はいなかった数人の生徒がいて教室に入った俺を一斉に睨みつけている。

 先生が入ってくると、やっとその視線から解放された……と思ったのだが。


「ちょっとそこの貴方!」


 あれ、もう授業が始まっているんだが……。窓際付近に座っていたはずの見事な金髪縦ロールの女性が一人、つかつかと俺の隣に歩いてきて、そう言って俺を見下ろしている。

 金髪縦ロールで貴族、それに見事な巨乳……。シズカがいたら泣いて喜びそうなシチュエーションだ。


「貴方、新入生ですわよね。教室に入って真っ先に私に挨拶に来ないなんて、いったいどういうおつもりかしら?」


 おい、先生。……いやいや、また見てないふりか。それにしても、ずいぶん王道な直球投げつけてくるキャラだな。これは普通に投げ返していいんだろうか。


「それは失礼したね。俺はシンリ、よろしく」


 そう言って俺は、握手でもするかなと思い手を差し出した。


 パンッ!

「下賤な者が馴れ馴れしい!この私に触れようなどとは、百年早くってよ!」


 これは、ダメな方のテンプレだ……。差し出した手ははね退けられ、気分を害した様子の縦ロールはまたつかつかと自分の席に帰っていく。

 その後の授業中も縦ロールからは恨みの籠った視線を送られ続けて、昼食を迎えた。


「お兄様、縦ロールですわ、縦ロール!」

「なんだ、そっちもか?」


 食堂で待ち合わせたシズカ達と合流すると、シズカが嬉しそうに報告をする。どうやら普通科には何人もの様々な縦ロールがいたらしい。

 クラスの中では、か弱い妹系キャラを演じて(・・・)いるというシズカは、俺とは逆のテンプレ、『何か困ったことがあれば私にご相談なさい』をゲットしてきたらしい。

 なんだ、この妙な敗北感……。




「ああ、それはきっとロウラン国の貴族、ヴァネッサ・ベアトリーチェさんね。悪い人じゃないんだけど、ちょっと扱いが難しいのよ」


 寮に帰ると寮長のレジーナが、俺のクラスの縦ロールの事を教えてくれた。このナインスティア大陸の東にあるクローバー群島の四首国の一つロウラン国。彼女はそこの評議会議員でもある名門、ベアトリーチェ家の長女なんだとか。

 貴族には魔法至上主義の考え方が根強くあり、魔法科に通えるほどの才に恵まれた彼女の下には多くの貴族達が集い、学園最大派閥のベアトリーチェ派を作り上げているのだ。

 そんな派閥の長である自分に挨拶がないのは何事か、といったところか……面倒な。




「おはようあなた。授業にする?それとも子作りする?もしくは子作りする?」


 翌日、一日休んで回復したのか、教室に入ってきた途端、早速ヴェロニカが俺の膝の上に座ってきた。ってか、朝からその選択肢は止めなさい。

 相変わらず感情のない平坦な口調だが、なんだろう……初日より機嫌がいいように見えるんだが、気のせいかな。


『会えない間に高まった少年のリビドーが熱くたぎり、人前だと言うのに容赦なく少女の体を求めて……』


 おいおい、変態幽霊執事のゲルンストも朝から絶好調だな。


「なあヴェロニカ、俺にはゲルンストが立派な紳士に見えてるんだが、どうしてなんだ?」

「子作りにはムードが大切。だから頑張る」


 彼女の説明では、どうやら俺には嫌われたくないので多少無理をしてでも、俺にはゲルンストの外見をこの状態に維持し続けるように頑張っているらしい。それを他の者にもと言ってみたが、今の魔力量だと一人相手で精一杯なのだと。おかしいな、彼女の内包魔力はもっとあるはずなんだが……。

 さらに質問をしようとしたが、先生が姿を見せ授業が始まったので、とりあえず授業に集中することに……。


「なんかあったの?」

「何がだいヴェロニカ?」


「だって、すごく睨まれてるから」

「あははは……」


 授業に集中したいのだが、例の縦ロールの親玉ヴァネッサの視線がものすごく痛い。


「何でヴェロニカさんがあんなに懐いて……私が話しかけても、返事さえしてくれなかったのに……あの男めぇ」


 いや、あのねヴァネッサ。呟くならもう少し小さな声で話そうか。全部まる聞こえだから……。

 しかし、あのヴァネッサがヴェロニカに興味を持っていたのには驚いたな。


『ひょっとして百合な人?』


 黙れ変態幽霊執事、思ってもそれを口に出すんじゃない。

 確かにヴェロニカは、余計な先入観を持たなければはっきり言って美少女だ。しかし、ヴェロニカの縦ロール姿は勘弁してほしいがな……。


「皆さん、次の時間は訓練場での実技になります。今から十五分後に訓練場に集合して下さいね」


 余計な事ばかり考えているうちに、三時間目までの授業が終わってしまった。いかんな、まともに授業を一度も聞いてない気がする。これではアイリ達に何も言えん……。

 昼前最後の授業は、魔法実技らしい。移動していく生徒達に続き、学園の奥へと進んで行くと、室内が六角形になった大きな体育館のような施設に到着した。ちなみに床はなく、地面は普通に土である。


{シンリ、気づいた?}

(ああ、ここの何かが魔力に干渉しようとしたな)


 室内に入った瞬間、妙な違和感が体を襲う。その感覚に慣れているのか、生徒達は特に動揺する様子もない。

 後で先生に聞いたのだが、訓練場の施設を保護する結界がその維持の為に僅かずつ入場者から魔力を自動で吸収するらしい。

 まあ、入場料ってところか。


{私が完全に防いだから、シンリからは奪えないけどね}


 ミスティが言う通り、ここのシステム程度では彼女の加護を退けて俺の魔力を奪うことなど、もちろん出来はしない。

 しかし、本当にこの学園の作りには驚かされることが多いものだ。

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