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王都への帰還

「はいはい、皆さん静かにっ!ではシンリさん自己紹介してもらっていいかしら」


「えー……本日から皆さんと共に学ばさせていただく事になりましたシンリです。どうぞよろしくお願いします」


 目の前には沢山の木の机が並び、横には教師と教壇。背後には材質は違うがおそらく黒板と同じ使い方をするであろう大きな板。

 各所にこの世界独特の違いはあれど、ここは日本でも見慣れたいわゆる学校の教室。

そこで変わったデザインの制服を着せられた俺は、同じ制服姿のクラスメイト達に自己紹介をしているところだ。


 ……待て、どうしてこうなったっ!






 色々あってすっかり忘れられているが、俺達が帝都に来た目的は昇級試験と逆告訴が目的であった。昇級試験は無事に済み、逆告訴に関しては相手のガイウスが既に死去している為に話自体が無くなってしまっている。

 その逆告訴のとばっちりで真偽官自身の虚偽証言を暴く為の『御鏡の儀』が行われたのだが、その際ガイウス側に有利な発言をしていた真偽官が鏡の前に立つと、彼の姿はみるみる魔物のようになりひと暴れした後背中から生えた蝙蝠のような翼で飛び去ったという。

 その後の捜索で本物の真偽官は囚人に紛れ込ませて収監所に監禁されていたのが発見され無事に保護されたが、いつ頃から入れ替わっていたのかは現在調査中だ。この事件により真偽院は、これまでS級以上の冒険者などに依頼していた護衛の体制を根本から見直す事となり、案件のない期間の真偽官達は『銀の七騎士(シルバーナイト)』が常駐する真偽院本館にて生活。相応の待遇でかなり贅沢な暮らしが出来る反面、外出などの自由は一切ない半ば軟禁状態に置かれる事となってしまった。

 そんな背景があり直接会う事が難しくなったユーステティアからの手紙には、会いたい、遊びたい、お買い物に行きたいなどといった愚痴と共に真偽官になりすましていた魔物が去り際に残した言葉が書き綴られていた。


「『魔眼の主に伝えろ。七つ目はいつもお前を見ている。お前はいずれ必ずそれを求める事になるだろう』ですか……美少女達ときゃっきゃうふふしながらのんびり楽しむ異世界ライフって感じにはさせてもらえないのかしら。ねえ、お兄様?」


 手紙のその文面を声に出して読みながらシズカが可愛らしく口を尖らせる。なまじ俺の前世の記憶を共有している為に愛読していたラノベなどの影響でこんな発言が出るのだが、確かにここらでのんびり日常編的な日々が続いてくれても良さそうなものだ。

 だが、この手紙によればそうも言っていられないらしい。皇帝の病の発症にも関係していそうな『時音のおばば』も現在は消息不明だし、あちこちに彼等による罠が仕掛けられているのではないか、そんな事を考えだすと夜も眠れなくなりそうだ……ま、普通に寝るけどね。


 ともあれ俺達は挨拶回りや各種引き継ぎで忙しいジャンヌにこれ以上世話になるわけにもいかないと判断し、王都の屋敷に帰る事にした。

 ちなみにガウェインが俺達への報酬にと言っていたシュトラウス家の財産は養子に入って家名を守っていくと決めたオットーに全て譲っている。賠償や騎士団の立て直しなど、彼は今後何かと物入りだろうからな。


「まったく……結局タダ働きなんて男らしいんだか馬鹿なんだか……ま、だけどあたしゃアンタみたいの嫌いじゃないよ!」


 それを聞いたギルド長のバービーは呆れながらもそう言って随分嬉しそうに笑っていた。緑の連中に奪われていた元の立派な石造りの建物に戻った彼女であったが本部長室の内装が旧館と同じ畳敷きの小さな部屋だったのには驚かされた。


 帰ると言っても俺達の帰り道は転移で一瞬。見送ってくれたジャンヌと、ツバキとすっかり親しくなった同じ影人種のカエデの前で姿を消すと、次の瞬間には王都の屋敷の前である。

 そうそう、カエデはツバキを里に誘ってくれたらしいのだが、彼女は結局俺と共にいる事を選んだ。その辺りの話はいずれまた語ることにしよう。


「皆さん、おかえりなさい!」

「おかえりなさいお兄ちゃん!」

「おかえりなさいませシンリ様!」


 扉を開けると俺達に気付いてセイラとオニキスそしてラティが出迎えてくれた。その夜は久々のラティの絶品料理に舌鼓を打ちながら帝都での話題に花を咲かせ、そして全員で一緒に同じベッドで眠りについた。

 おっと、正確には全員ではないな……今皆が抱き合って眠るベッドの上にエレノアの姿はない。

 詳しくはこれもいずれ話す機会があるだろうが、彼女は俺から『神丸』を一つ受け取り、軍勢を引き連れて帰って行く龍姫ツィルニトラと一緒に彼女の国ネフラスガルドに向かっている。色々な問題もあるようなので戻るにはしばらくかかるだろう。彼女は普段の存在感が濃すぎただけにいないと随分寂しく感じるものだ……。


 それからの数日をのんびりと過ごした俺達の元へある日ギルドから呼び出しがあり、俺は一人でギルドに向かった。帰ってすぐ挨拶に顔は出しているので帝都関連とは考えにくい。何か問題でもあったのだろうか……。


「おうシンリ!呼び出してすまんな、まあ座ってくれ」


 本部長室に入るといつものように暑苦しいテンションのダレウスが迎えてくれる。彼の表情から察するにどうも深刻な話ではなさそうだ。

 椅子に座るとお茶を持って秘書のシルビアが入ってきた。各自にお茶を配ると珍しく彼女は俺の隣に自分のぶんのお茶を置き、そこに座った。


「シンリさん、本日はギルドの秘書官シルビアではなく、ホーリーヒル王国第一王女シルヴィア・クローダスとしてお呼びいたしました。王城ではなくこちらにお呼びしたのは目立たぬ為の配慮とご理解ください」


 真剣な彼女の表情とは対照的にニヤニヤしながら見ているダレウスがどうも怪しくて仕方がない。


「シンリさんはデジマール商国連合をご存じでしょうか?」

「まあ名前ぐらいは」


 確か西の方にある商人達が作った国だとか聞いた気がするな。だとすれば、そこまでの貴重品や要人の警護任務とかだろうか。


「デジマール商国連合はいわばこの世界に於ける商業の中心地。その特性から、いかなる国家や組織とも強い繋がりを持ち、世界全体の物流の核とも呼べる場所です。そして全周辺国家承認のもと、世界で唯一の永久中立と絶対不可侵を実現させた地域でもあります」


 平和な場所らしいとは聞いていたが、どの国からも一目置かれていて中立に不可侵を認めさせているとは、聞いていた以上に凄い国みたいだ。商人恐るべし。


「デジマールには各国家公認の特別な学園が作られていて、そこには世界じゅうから才能ある若者が集まって様々な教育を受けながら、その交流を深めています」


 ん、学園と言ったのか……。何だかこの先の発言には嫌な予感しかしないのだが……。


「まさか……」


「はい!実はシンリさんにその学園から短期留学のお誘いがきているんです!」


「……はぃぃ?」

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