SS 白き餅をつく黒き仲間達。
あけましておめでとうございます!
今年もどうぞよろしくお願い致しますm(__)m
本編には関係のない他愛のない話でございます。ご興味のない方は飛ばしてお読みください。
「やっぱり炊き立てのご飯は最高だなシズカ!」
「はいお兄様!この香りがたまりませんわ!」
俺達の持つ日本の記憶の中で何と言ってもその存在を忘れられないのが毎日の主食であった御飯。この世界の食事もあっちにかなり近いのであまり不自由は感じないのだが、こっちはパンが主流。食べもしない米の為に稲作を行っているところなど皆無だ。
それですっかり諦めていた俺達だったが、スクナピコナの居る神域アワシマでは米食が主流で稲作が行われているのを知り、そこで久々のご飯を堪能。勿論頼んでお米も沢山貰ってきているので、こうして時々は懐かしき味と香りを楽しんでいる。
おかずは野菜の葉に塩を振って漬けた漬物と、根菜っぽい物を使った煮物。それに焼いた魚だ。
「御飯ももちろんですが、やっぱりコレコレ!これを彼等が作っていたのはまさにホームラン級の大当たりでしたわね!」
「ああ、まさか醤油が手に入るなんて夢にも思わなかったよ」
先ほどのおかずに全て共通して使っている調味料はこの醤油。神域アワシマで出された食事にこれが使われていると知った時は本当に感動したものだ。
ちなみに最初は物珍しさから喜んで食べていた仲間達だったがあくまでこれは俺達二人だけが欲する魂の食べ物。やや飽きてきた仲間達は一人ずつ減り、今やこの御飯会に来るのは二人だけ。たまにツバキも来るが、あんなに随所に和の要素があるのに彼女もやはりパンやインド料理のナンに似た小麦粉を捏ねて薄く焼いたものが主食だったらしい。
「いっそライスバーガーみたいに固めて焼いた御飯に肉を挟んでみればアイリ辺りも喜んで食べるのでは?」
「いや、別に無理して食べてもらう必要はない。皆には皆の主食があるんだから」
俺達が美味しいと思うものを食べてみてほしいとは思うが味覚や環境は人それぞれ、無理に強要するつもりは毛頭ない。
「確かにそうですわね。皆美味しいとは感じてくれているようですし……。お餅にでも出来ればおやつ感覚で食べれるんでしょうが……」
「……餅か。……それだよシズカ!それはいいかも知れない。皆が楽しめて、尚且つ美味しいものが食べられる……うん」
念の為スクナピコナに確認すると、やはり彼等はもち米も作っていてもうすぐ村中で餅つきが行われるとの事だった。
翌日、俺はシズカに全員を集めてもらうと皆で神域アワシマに転移した。
ちなみに以前は鳥居状の転移門に弾かれたガブリエラであったが俺と転移する分には大丈夫なようで一緒に神域に入る事が出来た。これも俺が彼等にとっての絶対的な主人たるオオナムチになったかららしい。
到着するとスマッシュ達住人総出で俺達が餅つきをする準備をしてくれていた。大きな二つの竈には火にかけられた湯のたぎる大きな釜があり、その上には四角いせいろが五段ほど積み重ねられ中でもち米が蒸されている。
「準備は万端ですオオナムチ様!まずは我らがついてみますので参考にされてください」
そう言うと三人の男性達が手に手に杵を持って前に出た。彼等の前にあるのは頑丈な木の台に乗せられた石製の臼。そこに二人の女達がせいろを一段外して運んで来てすっかり蒸し上がっているお米を臼に入れた。辺りには湯気がもうもうと立ち同時にいい香りが広がっている。
「よろしかったら召し上がりませんか?」
先ほどせいろを運んでいた女性達が小皿の上に少量の御飯を乗せて近付き俺達にそう言って差し出してきた。餅つきの経験のある俺や俺の記憶を元にしているシズカはすぐにそれが何かわかるので、待ってましたとばかりに飛びつき食べ始める。仲間達はそんな俺達の様子をやや呆れた目で見ていたのだが、俺達があまりに美味しそうに食べるのでつられて一口食べてみると……。
「こ、これは本当にあの御飯と同じ物なんですかっ?」
もしゃもしゃもしゃもしゃ。
「なんともいい香り。それにこのもちもちとした食感はどうじゃ、これはクセになりそうじゃのう」
「美味しい……なの!」
「これだけじゃ足りないじゃんよ!おかわりおかわりぃ!」
「ふむ。これは使ったお米自体が全くの別物なのでは?そうでなくてはこれほどの……」
仲間達もかなり気に入ったようだが、これはいわゆる『おこわ』。もち米をせいろで蒸したものにごく少量の塩が振ってあるだけのいたってシンプルなものだ。だが、蒸すのに使ったせいろの木と底に敷いた簀子の竹によって絶妙な香りが与えられ一口食べればそのもちもちとした食感と引き出された甘さが口いっぱいに広がり、エレノアの言うようにクセになること請け合いである。
「皆さん、おこわを取りすぎてはお餅がつけなくなりますわ。後ほどもらって差し上げますから、取り合えず餅つきを御覧なさい」
シズカの一言で全員が見た先では臼の周りを男達が三方から囲み、中のおこわを杵で捏ねながら位置を変えてゆっくり回っている。するとその中の一人が手に持った杵を水が入った大きな桶に入れ、手を濡らすと捏ねられたおこわをまとめるように丸めていく。
「シンリ様、あれで出来上がりですか?」
「いいや、これからが餅つきだ。アイリもよく見ててごらん」
残った二名が杵の先に水を付けて臼の両側に立つと、丸めていた男性が臼の側に座る。
「ほいさっ!」
「よいさっ!」
餅つきが始まり二人は交互に掛け声をかけ合い杵を振り下ろし始めた。臼の中でおこわだった物がそれぞれの方向に引かれるように動き、真ん中の男性がそれに絶妙なタイミングで水を振ったり位置を戻したりして調整する。ある程度餅らしくなると今度はつき手が一人になり、一つきする毎に男性が手を入れ餅の状態を巧みに調整しながら整えていく。互いの息の合った動きに全員が見惚れていると一臼目のお餅が見事につき上がった。
「これは鏡餅にしますので差し上げられませんが、次からはつきたてを召し上がれるように準備をしております。皆様方、頑張ってくださいね!」
それを聞いて早速見よう見まねの餅つきが始まった。臼には既におこわが乗せられており、まずは捏ねの作業だ。
「あなた方、何故三人で杵を振りかぶってらっしゃるの?」
最初に志願したのはアイリ、ツバキ、ガブリエラの三人。臼の三方に立ち、皆手に持つ杵を上段に振りかぶっている。
まあ、さっきはおこわに夢中だったのであまり見てなかったのかも知れない。早速、シズカから捏ね方がレクチャーされると再び三人は位置に付いた。
習ったように捏ねながら臼の周りを回りだした三人。……いや、しかし回転が早過ぎないか。童話に出てくる虎さんよろしく、徐々に早くなる三人の姿は本当にバターになりそうなほど溶け合い。やがて常人の視力で捉える限界を超え、消える。
「ちょっとちょっと、ストップストーーップ!」
慌てて止めたシズカであったが、時すでに遅し。臼の中はすっかり空で、おこわは全て周囲に飛び散っていた。
……この体育会系メンバーを組ませたのが間違いだったかも知れない。
「よし、始めよう。皆はちゃんと見ておくように」
次はメンバーを入れ替え俺とシズカそれにナーサの三人で組む事にした。俺や俺の経験を知っているシズカなら問題なくつき上がる筈だ。まずは順調に捏ねが始まり、だんだん捏ね上がって……。
「お兄様……これ、もうほとんどつき上がっておりますわ……」
加減はしたつもりだが、確かに俺やシズカの力で捏ねればそれはもう電気餅つき機にいれたも同然。みるみる潰れていくお米があっと言う間にお餅になってもなんら不思議はない。まあ、ナーサに一度は杵を振らせよう。そう思った俺は、そのほぼつき上がっている餅を整えながらナーサにつかせたがもう出来上がっているのでいたずらに冷やしてしまっただけだった。
次の組は、シズカにツバキそしてエレノア。
「いたたっ!何ですの?」
その三人で捏ねているのだがツバキが何度も前にいるシズカにぶつかっているようだ。
「これのせい」
ツバキが後ろを指差すと、杵を持つ両腕に押し上げられいつも以上に隆起したエレノアの大きすぎる双丘が前にいるツバキの後頭部をぐいぐいと押し込んでいる。
「ほほほ、すまんのう。ワザとではないのじゃぞ」
「……ぎるてぃ」
ピシッ!
エレノアがそう言って胸を両腕で抱え上げた瞬間、何事か呟いたシズカの杵の圧力に負け、石の臼は真っ二つに割れた……。
「んんー美味しいです!」
「美味美味!」
「これは美味いものじゃのう。これではいくらでも食べれそうじゃ。ほほほほ」
「ほんとに美味しい……なの」
「くうぅっ、これも止まらないじゃんよ!」
「流石です主君!はむはむ……」
臼の替えはいくらでもありすぐに取り換えてくれたのだが、このままでは埒が明かないのと壊した詫びを兼ね、現在はシズカが転移を併用した高速の動きで三人にわかれて次々と餅をつき上げている。三人のシズカで行っているので息が合わない筈はなく。あれから既にもう三臼目。手の空いた仲間達はつきたてのお餅に舌鼓を打っているところだ。
準備してくれたのは大根おろしに醤油をかけて絡めた餅、俺が持参した『甘麦屋』でもらった餡に絡めた餅、それに醤油をつけて海苔で巻いた餅の三種類。
ただでさえ餅の食感自体が初めてなのに、つきたてで温かく味付けも新鮮なものばかり。すっかり彼女達も手が止まらないようだ。
「お兄様ぁー皆さんばっかりずるいですわぁっ!」
あれからすっかり餅つきマシーンと化していたシズカが戻りそう言って俺に抱き着いてきた。俺が手に持っていた餡が付いた餅をシズカの口に運んでやると嬉しそうに口を開けてそれを食べ、さらには餡が付いた俺の指まで口に含んでうっとりとした表情で舐め回した。こういう時の彼女の表情はある意味エレノア以上に妖しく艶かしい。
空いた手で優しく彼女の頭を撫でながら沢山餅をついてくれた事を褒めると、指を咥えたまま気持ちよさそうに俯くシズカ。
「皆が喜んでくれたようで何よりですわ」
「そうだな。皆のあんな嬉しそうな顔を見るのは本当にいいものだ」
「シズカ、これからもよろしくな」
「ワタクシの生涯の使命はお兄様を幸せにする事。いつまでもお傍に控え尽くさせていただきますわ」
真っ直ぐに俺を見つめる潤んだ赤と金の瞳。俺は彼女の艶やかな唇に軽く口づけをすると、立ち上がり他の仲間達のもとへと歩いて行く。
「さあ、次は俺がつこう。誰か一緒についてくれないか?」
俺の声に応え全員が手を挙げる。思わず顔を見合わせた彼女達は誰が一緒につくのか、自分のアピール合戦を賑やかに始めた。その結果が出るのを呆れた笑顔で見守っている俺の顔を、シズカは座ったまま幸せそうな表情でいつまでも見つめていた……。




