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決着の先に

 二人の間合いがじりじりと詰まる……。

 最初に動いたのはガルデウスだ。予備動作のほとんど無い鋭く、そして流れるような剣撃がガウェインを襲う。だが、まるでその攻撃がくるのがわかっていたようにそれを躱してみせるガウェイン。


(流石は兄さんだ。俺は幾度も剣を交えてきたから対応出来るが、攻撃に移る間の取り難いあの動きで今までどれだけの強者を屠ってきたことか……)


 回避からこちらも鋭い連撃を放つガウェインだったが、これはガルデウスに難なく剣で捌かれてしまった。


(まるで昔稽古をつけてもらった時のようだ。結局、兄さんから一本取る事は最後まで出来なかったな……)


 再び睨み合う両者。

 すると今度はどちらからともなく両者ほぼ同時に動き出すと激しく互いの剣が交錯し鬩ぎ合う。見たところ力と技ではガルデウスに分があり、それにガウェインが速度と鋭さで対応しているようだ。激しい打ち合いが続き二人は互いに息をつく間さえ無い。取り込んだ酸素の残量が互いに限界を迎えると、二人は再び弾かれるようにして距離を取り向かい合った。


(やはり強い……。それだけに残念だよ。あの日、ジャンヌちゃんとの御前試合でも相手を舐めてかからずに今のように本気で立ち合っていれば、負ける事などなかっただろうに……)


「多少はやるようだなガウェインとやら。しかし次で終わらせてもらおう」


 ガルデウスはそう言うと剣を正眼に構え微動だにしなくなった。すると先ほどまでの殺気や威圧感が全て消え、目の前に対峙している筈なのにその存在そのものまでもが希薄になりそして……消えた。


 喧騒と怒号そして悲鳴が鳴り響く戦場の中で、一人剣を構えたまま動かないガウェイン。はたから見れば滑稽かも知れないが、彼の表情からは並々ならぬ緊張感が伝わってくる。

 そんな彼が突然、右に大きく飛んだ……。


 ザンッ!


 それは彼が右に飛んだのとほぼ同時……。たった今まで彼の立っていた場所に、左上段からの鋭い袈裟斬りが襲いかかり、空振ったそれが草原の雑草を舞い上げた。


「あれを躱した……だと。あり得ん!まあいい、まぐれは二度は続かんぞ!」


 剣に続いて、剣を振り抜いた姿勢のガルデウスが徐々に姿を現す。回避された事に驚愕した様子の彼であったが、再び剣を構えるとまたしてもその姿が消える。


(やはり『霞渡り』で決めに来たか……。彼を『武』のガルデンと言わしめた必殺の剣……)


 この技はガルデンが自ら鍛錬の果てに会得した究極奥義『霞渡り』。自身の持つ気を最大限抑え周囲の草木や路傍の石が自然に放つそれと同化。同時に彼が決闘序盤で見せた『流水』という一切の予備動作がない動き出しで敵の視界の範囲から瞬時に外れる事で相手にガルデン自身が消えたような錯覚を起こさせる技だ。この技を発動されれば相手には彼の位置は認識不可能。そして死角からの斬撃で確実に敵を仕留める必中の奥義。

 並み居る強敵達をこの奥義を以て打ち破っていく彼を人々はいつしか武を極めし者、『武』のガルデンと呼び讃えるようになったのだ。


(本当に恐ろしい奥義だよ……しかし兄さんはあの日から歩みを止めてしまったんだね……)


 再びガウェインが突然今度は左に大きく飛びのいた。そして彼がいた場所に今度は右下からの逆袈裟の一撃が走り空を斬る。


「その技を何十回俺が見てきたと思ってるんだ兄さんっ!」


 空振った反動で大きく仰け反った姿勢でその姿を現したガルデウスの脇腹に、回避から即座に攻めに転じていたガウェインの一撃が突き刺さる。その一撃は深く深く内臓をも切り裂きそのまま背中へと抜けた。


 この技を誰より一番多く目にしてきたのはこのガウェインだ。ただついて行っていただけのガイウスと違い、彼はこの偉大な兄をいつか超えてやろうと必死でその姿を目に焼き付けていた。そんな彼が見つけたほんの僅かな癖。それに気付けたのはガウェインもまた剣士としての類稀な才能を秘めていたからに他ならない。ともあれその僅かな癖で彼はガルデウスが消える直前にどちらに動くのかを知る事が出来るのだ。


「こ、このオレが……ぐぼはっ!」


 両手を地面についたガルデウスは驚きの声と共に大量の血を吐いた。


「兄さんがあの日歩みを止めなければ……今そうしているのは俺だったかも知れない」


 ガウェインはそう言って止めを刺すべく既に致命傷を負っているガルデウスに近づき剣を上段に構えた。かつて尊敬していた兄を連行して晒し者にはさせたくないとの想いから彼はこの場で、自分のこの手で幕を下ろすのだと決めたのだ。


「……ふ、ふふ、ふははははは!人間風情が……やりおるわ!だが我は世に破滅をもたらす者『狂王』ガルデウス、これしきのことで滅ぶものか!」


 それは、ガルデウスがそう言い放つのと同時だった。彼の背中がぼこぼこと大きく波打ちその中から何本もの緑色の触手がうねうねと飛び出して、その中の一本が至近にいたガウェインに襲い掛かる。その先端は槍の切っ先のように鋭く尖り彼を刺し貫かんと迫ってくる。


(くっ、間に合わん……これまでか)


 回避や剣で受けるのにはあまりにもそれは近すぎた。ガウェインは自身の油断を悔い死を覚悟する……だが。


 ズブリュッ!


 肉を刺し貫く音。


 そして、飛び散る鮮血。


 …………。



 覚悟を決めて目を閉じていたガウェインが、徐に目を開ける。



「なっ……う、嘘だ……」



「もう、本当に危なっかしいんですからガウェイン様は……」



 目の前に両手を広げた姿勢でこちらを向いて立ち塞がっている黒い人影。その胸からはその人物を刺し貫いた緑の触手の鋭利な先端が飛び出し、流れ出た大量の血がその先から流れ落ちている。



「どうして……」


 

彼はその人物をよく知っていた。背筋をピンと伸ばした容姿も姿勢も美しいその女性(ひと)を……。


 彼女を刺し貫いていた触手がびくびくと動き出し、それが縮んでガルデウスのもとへと戻ると支えを失ったように彼女はガウェインの方へと倒れ込んだ。それをしっかりと抱き止めた彼の口から発せられる悲痛な叫びが戦場にこだまする。




「キミが何故だ……キサラギィィィィィィッ!」




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