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六華無双 シズカ編1

「おらぁっ!押せ押せぇっ!我らの防御力を賊共に見せつけてやれぇっ!」


『黄光重装兵団』団長ニコラス・ランパード将軍の屋敷前には、すっぽり身体を隠せるほどの大きな盾を構えた一団が密集陣形をとり、自分達の十倍近い数の敵兵からの攻撃に耐えていた。


「いいか、援軍が来るまで何としても持ち堪えるんだ!栄光ある『黄光』の本拠に賊など一兵たりとも侵入を許すな!」


 ニコラスの命により屋敷の留守を任されたゴンズの檄が陣内に響く。彼等は三重の防御陣を敷き、前列の者が倒れると後列からすぐに一人が前に出てその穴を塞いでいた。

 先行き不安な消耗戦ではあるが、部隊の大半が遠征に向かっている今、残る少数の彼等ではひたすら援軍を待って耐え続けるほか道がないのだ。


「ぐわぁぁっ!」


 突然轟く叫び声と破砕音。見ると最も防御が厚い筈の中央が敵側の攻撃により二陣まで押し込まれている。


「はっ、貴様らはドンズにモンズ!この裏切り者どもがぁぁっ!」


 いち早く、突入して来た敵の正体を見抜き怒りを顕にするゴンズ。それもその筈、髪型や衣装の違いはあれども彼等の顔はゴンズと全く同じ。そう、彼等は三つ子なのである。


 長男ゴンズ次男ドンズ三男モンズの三つ子達はかつてとある地域を荒らし回っていた有名な兄弟山賊であった。彼等は産まれた時から他所の赤子の倍以上ある恵まれた体躯を持ち、これまた三人揃って『怪力』のスキルを授かった。山村の村ではその有り余る力を向ける先は乏しく、いつしかその力は街道を通る旅人へと向けられていく。


 兄弟の悪名が遠くの村まで知れ渡り始めたそんなある日、ニコラス将軍が部下数名と共にたまたま任務でその街道を通りかかった。いつものように金品を巻き上げようと襲いかかった彼等であったが、ニコラスにあっさりと返り討ちに遭い捕らわれてしまう。本来ならばそこで処刑されるところであったが、その力を惜しんだニコラスによって軍に引き抜かれその命を救われたのだ。


「ぎひひっ、久しぶりだな兄者!」

「だ、だな。兄者なんだな!」


 突進した陣内から一旦離れ、再び距離を置いたところで二人もゴンズに話しかける。


「大恩あるニコラス様を裏切り、あまつさえ養っていただいたこの屋敷に攻め込もうとは……どこまで馬鹿な事を!」


 崩された中央部分の兵を押し分けゴンズが陣の外に出る。その後ろでは倒れた兵士と後方の兵士が入れ替わり三重の陣が再び整えられつつあった。


「ぎひっ、そこに居たってオレ達は兄者の付属品扱いだ!だがここでは違う、今のオレは『緑光十二聖』序列八位!それにこいつも九位だ!」

「ち、違うんだな。きゅきゅ、九位はオデなんだな」


「そんなまやかしの地位に騙されおって……」


 そうゴンズが嘆くのと同時に三人は身体を低くして同じ姿勢をとった。これは彼等特有の力比べ。昔から意見が違えるとこうして決着をつけてきたのだ。戦場には場違いな光景だが彼等的にはコレ抜きでは始まらないらしい。

 ちょうど相撲の立ち合いのように片手を地面に軽く着け態勢は低くさらに低く、そしてゴンズがもう一方の手を地面に着けた瞬間、それが合図のように三人は動いた。

 まるで撃ち出された砲弾さながらに突進した三人が中央で激しく激突する。一瞬拮抗したかにも見えたが、やはり二体一ではあまりにもゴンズに分が悪い。押し負けて自陣の方へ吹き飛ばされた彼であったが部下が機転を働かせ、第一陣数名がかりで何とか受け止められていた。


「ぎひっぎひっ!兄者に勝った!兄者に勝った!」

「あ、兄者は、よよよ弱いんだな」


 ニコラスについてきてからの数年で兄弟の実力には明確な差が生まれている。自分に厳しく日々鍛錬を欠かさぬゴンズ。何事も要領良く立ち回り楽をしようとするドンズ。そんなドンズに言われるがままのモンズ。そんな二人がゴンズに大きく差をつけられるのは当然と言えば当然だった。

 しかし二人同時に相手にするのでは勝手が違う。人数が対等ならと部下達を見回すが残存している兵士の中に彼等三人に力で並び立てる者など一人も見当たらない。


「あら、お困りのようですわね」

「だ、誰だっ!」


 突然すぐ傍から聞こえた女の声に驚いたゴンズが振り返り、身体をも回して辺りを見るも声の主の姿は見えない。


「……以前同じ事をした方には死んでいただきましたのに……。貴方はどうやら黄色側……命拾いされましたわね」

「はっ!こ、子供だとぉぉ?」


 ゴンズの身長は二メートル近い。彼の胸より低い位置にあるシズカの頭が普通に振り返って視界に入らないのは仕方の無い事だ。やっとシズカの存在に気付いたゴンズであったが再び地雷を踏んだようで、味方と認識されるよう精いっぱいの作り笑顔を見せるシズカのこめかみがひくひくと動いている。


「お兄様に『黄色』と一般市民には危害を加えてはならないとキツく注意を受けておりますので、今の言葉は忘れましょう……ですが!これ以上余計な事を仰るのならワタクシうっかり(・・・・)敵と間違えてしまいますわよ!」


 笑顔とは裏腹にシズカから発せられる気はまるで凶悪な魔獣のようだ。すっかり委縮したゴンズはふるふると小さく頷き、それを確認したシズカの気が治まると大きく息を吐き胸を撫でおろした。


「それにしても……おま、いや貴女はいったい?」

「ワタクシは黒装六華ブラッディシックスブラックが一人『荊姫』シズカと申します。我らがリーダー『黒衣』シンリ様の命により帝都を脅かす賊を切り刻みにまいりました」


 ワザと二つ名まで言い、サラッとシンリの名前まで売ろうとするシズカ。その辺りは相変わらず彼女はちゃっかりしている。しかし言葉の最後にどうも先ほどの怒りが溢れ出ているように感じるのだが……。


「そこの同じ顔のは除外してさしあげます。他は……全ていただきますわね」


 そう言って微笑むシズカはいつの間にか自分の身長より大きな『鋏』を抱きしめていた。これは物陰に置いてきていたのを転移して取って戻っただけなのだが、その場の者達にはいきなりソレが出現したように見えた事だろう。

 その大きな『鋏』の刃の部分を上にして立て、持ち手の部分に自らの足を絡ませるシズカ。長いスカートがめくれそこから彼女の白くて美しい足が覗くと多くの者がごくりと唾を飲み込んだ。

 そんな様子を見てさらに妖艶な微笑みを湛える彼女は刃の峰側に舌を這わすと、そこにそっとキスをした。



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