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シイバ村攻防戦

 カライーカと数人の配下が俺の魔法に巻き込まれて倒れたが、未だ数的な有利は揺るがず盗賊どもの士気は高い。

 なんとなくコツは掴めたので威圧で全員を気絶させる事も可能だが、この戦いを見ているだろうハンス達に後で説明するのも面倒だし、何より信じはしないだろう。


「シズカ、適当に相手をするとしよう。そうだな……半分くらいにすればいいかな」

「わかりましたわお兄様!」


 そう言って俺は剣を抜き、シズカはその大きなハンマーを振りかぶった。


「敵はたった二人だ!カライーカ様をどんな汚ねえ手で倒したのか知らんが、この人数相手に勝てるはずがねえ!やっちまえ!」

「ウオォォー!ぶち殺せぇ!」


 シズカは俺の剣閃に巻き込まれぬよう離れた場所まで駆けていく。それを見ていた俺の元に十人近い敵が一気に殺到し襲いかかった。


「……だが遅い。まるで止まってるようだ」


 俺の手元から、ヒュンヒュンと数度の風切り音が流れると彼等は全員血を吹き出してその場に崩れ落ちる。その後も、敵の中を悠然と歩く俺の周囲には同様の風切り音だけが響き、後ろには次々と屍が転がっていく。

 シズカを離れさせたのにはもう一つの理由がある。俺の剣とは違い、彼女の武器は大きなハンマーだ。彼女の力でそのハンマーを人に向けて振り下ろせば……。その凄惨な末路は説明する必要もないだろう。

 彼女が今戦っている場所は、門の中からは見えない死角。先ほど門の中から覗いて確認したその死角で、村の者達に見えぬように戦わせているのだ。


「でも、そろそろいいかな……」


 血だけでなく様々なモノが飛び散ったシズカの周りは、リアルなゾンビゲームのような有様だ。俺にしても最初の場所から延々と屍が横たわり、すでに近づいてくる敵など一人もいない。

 カライーカが倒された後、敵に指示を出していた男をシズカはワザと標的から外していた。男にシズカが近づくと彼は腰を抜かしたのかペタンと尻餅をついて倒れてしまう。


「私達はこの村のハンスという男に命令されてあなた方を倒しに来ました。ハンスは私達二人がかりでも倒せなかった相手……」

「そ、そんな冗談だろ」


「冗談ではありませんわ。それに彼は変身する事でその強さが増します。私達を倒した時、彼はその変身を後二回残していた……。この意味お分かりですわよね?」

「ヒイイィィッ!こ、こんな村二度と来るかぁぁ!」


 ……いやシズカ、いつから俺達は七つの玉を探す旅に出た。そんな設定勝手にパクるんじゃない!

 ともあれ盗賊達は、そのシズカの脅しが決定打となったようで。まさに蜘蛛の子を散らしたようにバラバラと退散していった。

 俺が倒したのがざっと三十人。シズカは……うん、損傷が酷くて人数がわからん。それでも三十人以上の盗賊が逃亡したので、彼等がこの体験とシズカのハッタリを広めればこの村が狙われる事はなくなるだろう。



「おいおいおいおいおい!お前らどんだけ強いんだよ、おい!もうこうなったら是が非でも俺の事はお兄ちゃんと呼んでもらうしか……」

「シンリお兄ちゃん!」


 鬱陶しいハンスの出迎えに一瞬げんなりさせられるところだったが、ちょうど目を覚ましたマリエが門を開けて入ってきた俺にいきなり抱きついてきた。


「お兄ちゃん……本当に、本当にありがとう!」


 返り血一つ浴びてないとはいえ、今人を殺めてきたばかりの俺に抱きついては……。と一瞬考えてしまったが彼女の心底嬉しそうな笑顔は、その全てを洗い流してくれるようなそんな輝きに満ちていた。強くなり過ぎた事に多少の不安を抱きかけていたが、その強さがこんな素敵な笑顔を守ったんだ。そう考えると、これからの旅でもなんとかやっていけそうな、そんな漠然とした確信が持てた気がした。


 すっかり俺から離れなくなったマリエを抱いて北門に戻ると、商隊の馬車からは馬が外され、その側には縄で縛られた三人の冒険者の姿があった。


「えっと……アイリ、これは?」

「はい。シンリ様の言いつけ通り誰も村から出させないように見張っていたら、出させろって暴れるので仕方なく縛っちゃいました!」


 やっぱりか、まあ俺もこれを想定してアイリをここに残していったんだけど……。


「ところで、昨日捕まえた盗賊達は?」

「それは私が説明しましょう」


「ゼフさん」

「実は隊の者が早朝に門を開けた状態で出発準備をしていたのですが、その時に走り去る人影を目撃しておりまして……。縄はこの通り、助けに侵入した者がいたのでしょう」


 ゼフがそう言って差し出した縄は、鋭利な刃物で切断したようにスッパリと切られていた。


「まあ、シンリさん達が護衛してくだされば何の不安もありません。出発は明日に延ばしましたので、今日はもうゆっくり休まれてください。明日また同じ時間にこちらにおいでくださいね」

「わかりました。では明日」

「またねゼフおじちゃん!やったぁ!また今夜もシンリお兄ちゃんと一緒だね!んふふん」


 大喜びのマリエとともに俺達三人はエバンスさんの家へと帰って行った。


「誰か、この縄ほどいてよおぉぉぉぉー!」


 誰もいなくなった北門前では、アイリに縄で縛られたままの冒険者のそんな虚しい声が響いていた……。





『四災悪』という戦力と頭領ジュリアの智謀によってその勢力を伸ばし続けている『奥様の気まぐれ団』は下部組織まで入れればその構成員は千どころではない。

 そんな彼等がたかだか数十人の損失くらいで、村への侵攻を諦めるはずもなく、散り散りに逃げた盗賊達は『冥府の森』のすぐ近くの合流地点に再び集まっていた。


「けっ、いつも偉そうに能書き垂れてやがったが。そうか、カライーカの奴殺られちまったのか!あっはっは」


 彼等が合流した場所にはすでに三百人余りの盗賊が集まっており、それらを率いる『青の災悪』ミヤコンブは先遣隊の壊滅とカライーカの訃報を聞いて随分ご機嫌な様子である。

 少数で村近郊での襲撃を行い、上手くいけば数人の人質を拉致。その上で名の知れている『四災悪』の一人が先遣隊に同行して恐喝し、あわよくば無傷で村を手に入れる。それでもダメならこの本隊で村の全てを焼き払ってでも村を力づくで奪う。それが彼等の頭領たるジュリアの立てた計画であった。

 もともと仲の悪かったカライーカとミヤコンブは普段から口論が絶えず、どちらが先遣隊で行くのかも随分もめた挙句、コイントスでカライーカが勝って赴いたのだ。先遣隊が行けば当然村は降伏する。美味しいところを独り占めされるはずだったのにそのカライーカが倒され死んだという。


「運は俺に味方したという事だな!」

「しかし、シンリとかいう冒険者。はっきり言ってバケモンみたいに強かったですぜ。それにもっと強い奴がいるって……」


「俺は今までそう言われて、俺以上のバケモンに出会った事はないぜ!そのシンリとかいう冒険者の小僧も俺の斧で真っ二つにしてやるよ!」


『それは聞き捨てならないわね……』


「な、女の声……?」


 上機嫌で自らの持つ大斧を掲げてその強さを誇示していた彼の耳に、突然見知らぬ女性の声が響く。その声はどうやらその場の全員に聞こえたようで、互いに顔を見合わせながら誰しもがキョロキョロと辺りを伺っていた。


『シンリちゃんの敵はこの森の敵よ!』


 その声が響くのと同時だった。

 急に辺りの気温が下がり、森から溢れ出るようにして濃い霧が彼等全員を包み込んでいく。

 そして森の中から小さな影が音もなく近寄ってくると、空気が変わり誰も身動き一つ出来ないようになってしまった。


「なんだ、あの小っちゃい魔物の仕業なのか……ぐっ」


 姿を見せたのは、まるでどこぞの教皇であるかの如き豪奢な衣装を身に纏っている小柄な骸骨。だがその目玉の無い眼窩からは、身じろぎひとつ許さない強烈な殺気が発せられている。

 そんな彼の後ろから十数体にも及ぶリッチーが姿を現し、動けぬ彼等の足元からはボコボコと地面を掘り返して彼等の数倍の数の骸骨の兵士が湧いて出る。さらに宙には半透明の骸骨顔の幽体が浮いていて、これも夥しい数が漂っているではないか。


「お、俺はどんな地獄に迷い込んでしまったんだ……」


 その言葉を最後に『青の災悪』ミヤコンブの姿は数体の骸骨の波に飲まれて消えた。しばらくは呻きや叫び声があちこちから聞こえたが、やがてそれらも止んで静かになり、霧がすっかり晴れた時には、そこには死体一つさえ残ってはいなかった……。


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