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朝日の中で

 射し込む朝日の眩しさで心地よく目覚めた俺は、自らに絡んだ仲間達を起こさぬよう慣れた手つきで解いて除けると、一人部屋を出て応接間に向かう。

 するとそこには、放心した状態でソファに座るジャンヌの姿があった。


「おはようジャンヌ。まさか、眠ってないのか?」

「……あ、師匠。おはようございます」


 質問への答えはないが、彼女の目の下に出来た隈がそれを教えてくれている。

 このまま試合に臨ませては良い試合になる訳がない。俺は彼女の正面に座り話しかける。


「ジャンヌ……ジャンヌ!」

「……は、はい!」


「ジャンヌは俺を師匠だと言った。あの言葉に偽りは無いね?」

「もちろんです」


「だったら、キミにとって今日の試合は修行みたいなものだって考えられないか?」

「修行ですか……」


「そうだ。剣を交え、目の前で俺の技術や技を見る、いい機会じゃないのか?」

「……確かに、いや本当に素晴らしい体験です!」


「自称とは言え俺の弟子を名乗る以上、不甲斐ない試合をされては俺に恥をかかせる事になる。何より、そんな状態で俺と手合わせして、多くの技を見るまで立っていられるのか?」

「私はなんと未熟な……。ありがとうございます。師匠のおかげで目が覚めました!試合までに体調を整えたいので、これで失礼致します!」


 そう言い残して、彼女は元気よく走って自室に戻って行った。試合は昼からだ、今から休めば調子も戻るだろう。


「若いと思っていたが、なかなかどうして立派なお師匠さんじゃないか!」


 庭で朝稽古でもしながら俺達の様子を見ていたのだろう。そう言いながら応接間に入ってきたのはジャンヌの父エドワードだ。


「おはようございます。見ての通りの若造ですので、大したお役には立ちませんよ」

「ふん。少し付き合いたまえ」


 彼はそれだけ言うと、俺の返事を待たずに庭に出ていった。仕方ないので後に続くと俺に一本の木剣が投げられた。それを受け止めて前を見ると同様の木剣を構えたエドワードの姿がある。


「私にも一手御教授願おう」


 その一言と共に彼から放たれる威圧。ダレウスとは比べるべくもないが、一国を守護する者としての強い気迫が感じられた。


 徐に俺も剣を構える。もちろん敵意を向けられた訳ではないので、威圧はせずにゆったりと自然体でだ。

 だが、俺の構えを見て彼の表情がどんどん険しくなっていく。


「いかな過酷な修行の果てに辿り着かれた境地なのか……。シンリ殿の構えからは百人の軍を相手にする以上の重圧を感じますな」


 何も発しているつもりは無いのだが、彼はそれを読み取れるだけの技量を持っているのかも知れない。そうしている内にも二人の距離がじりじりと近づいていく。


「くっ、気圧されていては始まらん。参るっ!」


 意を決して先に動いたエドワードが渾身を込めた一撃を上段から振り下ろす。

 俺は正眼に構えた剣を僅かにずらし、剣の腹で軽く押す事でその剣筋を大きく逸らした。そしてそのまま俺の剣が彼の頭上に迫り、当たる寸前僅か数ミリのところで止まる。


 勝負は一瞬でついた。俺の横の地面を叩いて大きな窪みを作った彼の木剣は根元から折れてしまっている。流石は一国の将軍職を任される者だ。鋭い剣筋といい威力といい、木剣といえどもまともに受ければ、常人なら怪我だけでは済まないだろう。


「たぎるっ、たぎるなぁ!これはオレでもシンリ殿を師と仰ぎたくなるわ!」

「将軍も見事な打ち込みでした」


「世辞などいらん。シンリ殿ほどの高みなら競う者の無いこの世は、さぞや退屈であろうな!わっはっは」

「俺には、共に歩く仲間達がおりますから」


  その強さが常軌を逸し過ぎていた為に、天涯孤独であったと言われている俺の師匠アストレイア。ふと、修行中に初めて俺の一撃が彼女の頬を掠めた時の、彼女の心底嬉しそうな笑顔を思い出した。

 それに俺は、彼女が得る事が叶わなかった素晴らしい仲間達と出逢えている。

 その後エドワードは、試合が楽しみだと笑いながら屋敷に戻っていった。


 

 屋敷内に戻った俺は朝風呂に向かう。風呂を癒しの場として多用するのはやはり元日本人だからだろうな。


「お兄様、お願いがございます。少しよろしいでしょうか?」


 風呂に浸かって暫く経つと、扉の外から神妙な声でシズカが尋ねてきた。構わないと俺が言うと布を一枚巻いただけの姿の彼女が風呂に入ってくる。掛かり湯をした事でその布は肌にぴったりと張り付き、更には透けて色々見えてしまっていた。

 浴槽に入り俺のすぐ隣にきた彼女が、上目遣いでやや恥ずかし気に懇願する。


「お兄様、試合の為に魔力を分けていただきたいのですが……。それも出来れば少し多めに……」

「念の為に確認するが、殺してはダメだ。それは大丈夫だな?」


「もちろんですわ。あんな虫けらを潰すだけなら魔力を使う必要はありませんもの」

「じゃあ、まさかアレを人間相手に使う気なのか?」


「うふふ、バレてしまいましたか。だって軽いトラウマでも刻まなければ、ワタクシ達全員の気が収まりませんので」

「ふう。ま、そういう事なら可愛い妹の頼みを無下には出来ないな」


 始まりは軽めの口づけ。シズカの両手が俺の首に回されると、二人の唇は離れる事なく繋がり合った。

 どちらからともなく二人は立ち上がり、互いの肌を密着させる。俺の両手は彼女の腰に回され手の先には柔らかな感触が当たっていた。シズカの纏っていた布は既にずれ落ち二人の肌を隔てるものは何もない。控えめだが柔らかな膨らみもその先の敏感な部分でさえ、全てが俺の素肌に感じられる。


「……んっく。お、お兄様ぁぁぁ!」


 唇を外して仰け反ったシズカが、そんな声を漏らしながら幾度か身体をビクつかせる事で、そんな二人の時間は終わりを迎える。力無く湯船に座り込むシズカを手で支え、俺自身もその背後に座って後ろから優しく抱きしめた。


「これで足りるかな?」

「……ハアハア、お兄様ありがとうございます」


「なんなら『神仙酒』を使っても構わないよ?」

「それは勿体ないですわ。でしたら……もう少しだけ」


 そう言いながら振り向いたシズカと短い口づけを交わした後、俺達は風呂を出て準備の為に互いの部屋に戻って行った。


 昼前になるとギルドが準備した馬車が迎えに来たので、俺とシズカはそれで先に会場である『帝国国立闘技場』に向かう事になる。場所は[第二区]、仲間達はジャンヌと共に後から会場に来る事になっていた。



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