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対戦者決定?

「そんな!オレは既に敗れた身。その強さに憧れ弟子入りを懇願したオレに師匠の力を測れと言うのか?」


 ギルシュテイン邸に、苛立ちを含んだそんなジャンヌの声が響く。

 昼食後にここに訪れた皇帝陛下の使いの者が、なんとシンリの御前試合の相手としてジャンヌを指名してきたからだ。昨夜聞いた情報では『黄光重装兵団』を率いる『ニコラス・ランパード』将軍が有力だろうと目されているという話だった。八百長や後の人間関係に遺恨を残さない為にも、あまりに近しい者からの人選は普通に考えても有り得ない。


 ちなみにジャンヌが対戦したガルデンは面識のある相手ではあったが、特に親しい関係ではなかった。

 何より、あの当時のガルデン将軍が敗れる等、想像出来た人間は帝都に誰もいなかっただろう。


「でもジャンヌちゃん、非公式でもシンリ様がジャンヌちゃんに勝った話は伝わっている筈。将軍達の面子を考慮しての人選なら、考えられない選択肢じゃないんじゃない?」

「将軍達が逃げたという訳か……。ふ、ふん。師匠の強さなら当然だろうが、しかしオレ程度では……」


 勅命ではないので断る事も可能なのだが、彼女は中枢の事情もある程度理解している。しかも試合は明後日。他の者を探すにも時間が無い。そんな背景が彼女をより苛立たせていた。


「ところでワタクシの相手はどなたですの?」


 苦悩するジャンヌの姿をさも楽しそうに眺めていたシズカが口を挟む。明後日の御前試合は、俺だけでなくシズカにとってもS級昇進がかかっているので他人事ではないのだ。


「シズカ殿の相手に関しての情報は未だに……。女性同士だし、もしかしたらオレかも、なんて考えていたんですが、まさか師匠の相手に指名されるとは……」


 通常であれば名誉である筈の指名を、己の未熟から素直に喜べない自分自身に対して強い苛立ちを覚えるジャンヌ。彼女は受けると分かれば僅かな時間も惜しいと言い、アイリ、ツバキ、ガブリエラに手合わせを申し込むと中庭に出て行った。自信喪失に繋がらなければいいのだが。




 同じ頃、シンリとジャンヌの対戦決定を聞き、違う意味で頭を抱える者がここにも一人。


「はぁ、またあの馬鹿兄貴の策略だな。どうせシンリ君に倒された直後のジャンヌに、恨みを晴らそうと刺客を送るつもりなんだろうな。あの変態の考えそうな下衆な策だよ」

「ガウェイン様、いくら恨みがあると言ってもそこまでするでしょうか?」


 自室で椅子に座るガウェインの背後には、惚れ惚れするほど良い姿勢で立つキサラギの姿があった。彼女もまた『黒光影団』から要人警護の任務を与えられた一人である。


「するんだよ、あのド変態は!しかもシンリ君の同行者の対戦相手があのガイウスだと?彼等との因果関係を考慮すれば、それは絶対に有り得ない!確実にあの変態兄弟が考えた小細工だと断言できる!」

「……ガウェイン様もご兄弟です。あまり過激な発言は控えた方がいいと思われますが?」


「止してくれ!あんな男色趣味の変態達と兄弟と思われる事こそ俺への侮辱だよ」


 そう言い放つと、彼は一息ついて傍のテーブルに置かれたグラスに水を注ぎ、それを飲み干した。


「すまないキサラギ。ところで……やはり頭領の『ミツクニ』は、いい返事をくれないのかな?」

「申し訳ありません。我らが命じられたのは要人の護衛まで。変更は認めないとの事でした」


「国家の危機かも知れないというのに、相変わらず融通の利かない奴だ。……と、すまない。キサラギは護衛をしながら部分的に協力してくれていたね」

「いえ、ですがガウェイン様の護衛が第一。近付く羽虫の捕獲程度しかお役に立てません」


 椅子から立ち上がり、窓辺で遠くを見やるガウェイン。


「身内の事とはいえ、分断された今のシュトラウス家に信をおける者が何人いる事やら……。これでは家内で秘密裏に対応など出来まい。シュトラウス家を護ると言っても、今の俺はあまりにも無力……」


 本人が望まなくてもやはり血の繋がった兄弟。彼等の考えが何となく理解出来てしまうが故にガウェインは苦しんでいる。このまま進めば帝都全土を巻き込む程の行いをするであろう事は確実だと、確信めいたものが彼にはあった。

 だが、その証拠や確かな根拠がなければ『国家』は動かせない。そのジレンマは、まるで真綿で首を絞めるように彼の心をじわじわと痛めつける。


「いっそ、奴等がすぐにでも行動を起こしてくれたら……。いや、多数の犠牲者が出るに違いない事態を望んでは奴等と同じ屑に成り下がる。だが、しかし……」


 再び彼が見上げた窓の外はもう夕日に染まりつつあった。


「彼なら…シンリ君達なら、こんな時どう対処するだろうか?……」

「ガウェイン様?」


「いや何でもない……」




「……ぐすっ、師匠おぉぉぉ!」


 日が沈むまでアイリ達との手合わせをしていたジャンヌが、やはりというか予想通りというか、半泣き状態で戻ってきた。向上心の高いウチの体育会系メンバー達に正に完膚なきまでに叩きのめされてきたらしい。それでも必死で涙を堪えて頑張っていたらしいが、ガブリエラに言われた「あと五十年も修行すればそこそこになるだろう」との一言で、遂に涙腺が決壊したようだ。

 彼女はフォローのつもりだろうが、人間の持つ時間は天使族のそれ程、長くはないからなあ。


「あら、たった五十年でそこそこになるなんて、人間としては十分規格外な方でしたのね」

「……人間として?」


「あ、ああ。人並み外れた強さだって言ったんだよシズカは……」

「はあ……」


 そうだな、ここにも時間の経過に影響を受けない者が居たな。

 ともあれジャンヌが棄権するとか言い出すのは避けたい。試合当日までは手合わせ禁止にしよう。


 ちなみに昨夜二名の監視者らしき者がモミジの手によって捕獲されている。彼等は尋問を行う為に政府の役人に引き渡されたが、二人共『緑色』の布を腕に巻いていたので例の組織からである事は間違いないだろう。それだけでもう尋問の必要もない気がするが、こんな時まで自分達の組織のアピールをする事に一体どんな意味があるのだろうか。


 そして今夜の俺のベッドにはユーステティアまでが加わり、更に狭くなっていた事を付け加えておこう。




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