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それぞれの夜

「ジャンヌは随分重装備だが、帝都ではいつもそうなのか?」


 食後俺達は、再び先程の応接間に集まりジャンヌ達から状況説明を受けている。


「普段は素早さ重視なので軽鎧ですよ。ただ………‥」


 ジャンヌの話によれば、彼女達が帝都に戻ってから数度の襲撃を受けているらしい。毒を塗った矢等に狙われる事もあり、その対策として露出面の少ない重装備を着ているのだ。ちなみにユーステティアも危険だからという理由で、戻ってからずっとジャンヌの家に身を寄せている。

 これまでの経緯からして俺達のせいで彼女達が狙われているのは間違いない。俺も何らかの手段で彼女達を護るとしよう。


「で、元凶であるあのお馬鹿さん(ガイウス)はどうしていますの?」


 シズカが苛立ちながらそう尋ねると、彼女達は奴の現状を説明してくれた。

 帝都に戻った後、兄であるガルデンの許に身を寄せたガイウスは、旧冒険者ギルド帝都本部の建物を使った『緑』の本部に入り浸り、まるでそこの支配者のように振舞っているらしい。

 非公式ではあるが彼等はその組織を『緑光聖戦士団』といい、自らを『緑光聖帝』と呼ばせているようだ。

 シズカにユーステティア、気持ちは解るがそんな吐きそうな顔をするのは止めなさい。


「ところでジャンヌ、天井裏の彼女(・・)は『敵』では無いんだろう?紹介してはくれないのか?」

「流石は師匠ですね。降りておいでモミジ」


 ジャンヌが指示すると、一人の小柄な女性が天井の戸板を一枚外して降りてきて彼女の横に跪く。


「彼女はモミジ。『黒光影団』からボク達の警護の為に遣わされた者です」


 ここ最近の物騒な事態に対して、皇帝より要人警護の任を受け『黒光影団』から数人が派遣され、将軍やその身内等の身辺を護衛しているらしい。想像以上に事態は深刻なのかも知れない。


「そういえばギルドのバービーの所に居たイチョウも?」

「はい。イチョウさんも我ら『黒光影団』より派遣され護衛にあたっております」


 答えてくれたのはモミジ。ツバキよりは少し年上だろうか、落ち着いた感じの女性だ。


「本来ならば師匠にも護衛を準備するべきなんだろうが……」

「それ、本気で言ってるのかしらジャンヌさん?」


「ふふ、そうだな。師匠とそしてシズカ殿達に護衛等不要であったな」

「もちろん。下手な護衛等、お兄様の足手纏いにしかなりませんわ」


 確かに、護衛という名目で誰かに常に見張られる等御免だ。俺達の身辺を探ろうとする者も出てくるだろう。そんな者達への対策も必要だな。

 話が済むと俺達は入浴を済ませ、各自に準備された客間に案内された。それぞれが個室で過ごすなんていつ以来だろう。と考えられたのはほんの数分だった。


「お兄様と今後の打ち合わせを……」

「シンリ様の護衛に……」

「主様、守護」

「妾は我が君に夜這いを……」

「ダンナ様。一緒がいい……なの」

「し、仕方ねえから一緒に寝てやってもいいじゃんよ」

「剣は常に主君の許にあるべきです」


 各自言い分は様々だが、そんな感じで俺の部屋に全員押し掛けてきている。

 流石貴族の屋敷だけあって、一人用としてはかなり広めのベッドだが、これだけの人数にはかなり狭いな。仕方ないのでその夜俺達は、それぞれが重なり合うようにしてそこで眠った。




 同じ夜、ガルデンの私邸。


 彼は大きな風呂に一人で浸かり、いつものように酒を飲んでいた。


「また飲んでいるのかい?ガルデン兄さん」


 そこに入ってきたのは弟のガイウス。もちろん裸である。


「おお!帰ったのかガイウス。さあこっちへ来い!」


 その姿を見たガルデンは嬉しそうに立ち上がると、そう言ってガイウスを手招きした。二人は並んで、というより寄り添ってと言った方が正しいほど密着して風呂に浸かる。


「今日も『緑光聖戦士団』への入団者が多く来たよ。流石兄さんが作った組織。どんどん膨れ上がっていくね」

「当たり前だ。だが俺の目的はもっと先にある。その為にも『緑』にはもっと大きくなってもらわねばいかん」


 ガイウスの肩に手を回し反対の手に持ったグラスの酒を上機嫌で飲み干すガルデン。


「まさか『黒』が皇帝以外の警護に動くとは思わなかったが、これまでの襲撃未遂でどいつもこいつも自分の屋敷に閉じ籠り、我が身を護るのに精一杯だ。これで本当に動き易くなったな」

「『黒』は要人に張り付いているだけだし、ここまで読んでるなんてやっぱりガルデン兄さんは凄いや」


 そう言いながらガイウスは近くに置かれた酒瓶を取り、空になったガルデンのグラスに酌をする。酌をするガイウスの姿をうっとりとしながら見つめるガルデン。


「はっはっは、お前の為なら何だって手に入れてやるぞガイウス!」

「ありがとう兄さん」


 更に機嫌を良くしたガルデンが酒を一気に飲み干したので、ガイウスは再び酌をしながら話を切り出した。


「ところで兄さん。例の魔剣泥棒とその一味が帝都に来てるんだ」

「おお、お前にひどい事をしたゴミ共だな、報告は聞いている。なんでもS級の試験を受けるらしいな」


「そうなんだ。そこで兄さんの『力』を見込んで頼みたい事があるんだけど…」

「俺とお前の間で、何を遠慮する事がある?言ってみろ、愛するお前が望むなら何だって叶えてやろう」


「兄さん、実は…………」


 そう言って自らの策を話すガイウスの姿を、ガルデンはやはりうっとりと見つめながら話を聞き、その願いを聞き届けたとばかりに力強く頷いた。

 その頼り甲斐のある兄の態度に歓喜したガイウスは自ら兄の胸にもたれかかる。


 そして湯気の向こうの二人の影は、長い間一つに重なり合っていた。




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