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再会

「…………以上が、『緑』が出来た経緯と奴等が増長している原因さね」


 一通りの説明を終えたバービーは、溜め息混じりにそう言うと再びお茶を手に取った。


「おかげで今のギルドは、貴族の推薦状片手にやって来る雑魚のギルドカードに『A』って書くだけの機関に成り下がっちまってね。下に居たのはそれにすらお呼びがかからない者達だよ」


「お兄様、その軍事顧問のガルデンという男。シュトラウス家といったら?」

「ああ、シルビア達の話にも一致する。あのガイウスの長兄で間違いないだろう」




 その頃ギルド付近の路地では、愛馬に跨り部下の報告を受けるガウェイン・シュトラウスの姿があった。


「馬車は先程出発いたしました」

「護衛は足りているか?」


「はっ!我が『赤光騎士団』の精鋭二十名が護衛にあたっております!」

「わかった。俺もすぐ後を追う、お前達も護衛の任に戻れ」


 走り去っていく部下の騎馬姿を見送りながら、彼は既に小さくなったギルドの建物を振り返る。


「あれが冒険者シンリとその仲間『黒装六華ブラッディシックスブラック』か……。確かに只者じゃないなキサラギ?」

「正直これほどとは思いませんでした。まるで底の見えない深淵なる黒い穴を覗き込んでいるようで、その実力は計り知れません」


 彼の他に人影は無い。しかしその女性、キサラギの声はすぐ近くから聞こえていた。


「それ程ならば、あのジャンヌが心酔するのも無理もないか。にしても『黒』とはね、親近感を覚えるんじゃないかい?」

「我ら『黒光影団』は皇帝陛下の影。この身は皇帝陛下とこの帝国の繁栄の為だけに存在します。特定の者にそのような感情を抱く事は御座いません」


「相変わらず固いねキサラギは……。そうそう、この件ジャンヌにも教えてやってもらえるかな?きっと心待ちにしているだろうからね」

「了解しました」


 そう言い残して彼の側にあった人の気配が消えた。


「さて、彼という『一滴』がこの帝都にもたらすのはどんな『波紋』なんだろうねえ」


 そう呟くと彼は愛馬『サンジェルマン』と共に部下の後を追って立ち去った。




 あれから更にバービーと様々な話をした俺達は、今ギルドの扉を閉め雑草だらけの庭先に出て来ていた。

 すると激しい蹄の音を轟かせながら、一頭の馬がこちらに近付いて来ている事に気付く。


「師匠ぉぉー!」


 思いっきり引いた手綱で愛馬の前足を持ち上げながら門の前に馬を止めたのは、青い全身鎧を着込み白いマントを羽織ったジャンヌだった。


「師匠、帝都に到着なされたのなら何故真っ先に私にご連絡をくださらないのです?」


 馬から飛び降り、そう言って俺の前に駆け寄って膝を付くジャンヌ。


「俺達はさっき着いたばかりだ。まずはギルドに挨拶をと思ってな。というかその堅苦しいのは止めてくれ」

「失礼しました。では師匠、これより我が屋敷においで下さい。ユーステティアもそこで師匠を待っております!」


 立ち上がり勝手に話を進めるジャンヌ。相変わらず強引で、良くも悪くもまっすぐな性格だ。


「って話だけど、皆どうする?」

「まあお兄様、ワタクシ達も泊まる場所を探す必要はあった訳ですが……」


 そう言いながらシズカは目を逸らす。俺の仲間達は、誤認であったとしても俺を取り調べる立場にあった彼女をあまり好意的には思っていないのだ。


「それならば皆様、当家にご滞在下さい。沢山の客間に、大きな浴場もあります。食事も料理長に腕を振るわせましょう」

「お兄様、早速まいりましょう!」


 予想通りだが切り替えが早いなシズカ。まあ、タダで宿が手に入ったと思えばいいか。


「わかった。すまないが、ジャンヌの言葉に甘えさせてもらおう」

「はい!では私の後に続いてください」


 そう言って馬に乗って走り出したジャンヌの後を、俺達は馬車でついて行った。

 ジャンヌの屋敷は[第一区]にあるらしく途中閉じられた門の前で一旦止められたが、ジャンヌが門番に声をかけると難なく通る事が出来る。


「あ、あり得ませんわ……」


 シズカが驚くのも無理はない。ジャンヌに続き[第一区]を随分走らされた俺達は皇城『グランツ』の造られた山のすぐ麓、すなわち最も中枢に近い場所に建つ大きな屋敷に到着していたからだ。余程の重臣で無ければ、こんな場所に居を構える等あり得ない事だ。


「ジャンヌ、貴女何でこんな場所に住んていますの?」

「話してませんでしたか?私の父は、この国の将軍の一人ですので」


 さらっと言いやがったが、それは俺も初耳だ。というか、そんな危険なフラグ臭漂う場所に泊まるのか俺達は……。


 馬車とスーさんを使用人に預けて、俺達はジャンヌに続いて中に入る。まるで自動ドアの様に全ての扉が使用人によって開かれた。本当にあったんだこんな世界……。


「シンリ様、お久しぶりでございます!」


 中庭が望める広い応接間に来るとそこにはユーステティアが待っていた。もちろん旧知とはいえ貴族の内情を見てしまう事は出来ないので当然目隠しをしているのだが、それでも俺の魔力のようなものを感じたらしい。俺を探して伸ばした手を握ってあげると、しばらく俺に抱き着いて再会に浸っていた。


 客間の準備が整うまでここで待っていてほしいとの事だったので、俺達もその応接間で待たせてもらう事にする。正直、何もかもが豪華すぎて落ち着かない。


「シンリ様はご自分の家だと思ってくつろがれていいのですよ」


 俺の隣を勝手に定位置にしているユーステティアだが。いやいや、ここはお前の家じゃないだろう。

 そんな事を考えていると扉が開かれ、白銀の全身鎧を身に纏い、それを覆うように濃紺のマントを付けた男性が、二人の使用人を連れて入ってきた。


「御父様!おかえりなさいませ」

「ふむ」


 そう言いながらジャンヌは男性に駆け寄り軽く会釈した。俺達も全員立ち上がり彼がこちらに視線を向けたのに合わせて会釈する。彼がこちらに歩いて来たので、俺もその前に歩み出た。


「はじめまして将軍閣下。冒険者のシンリと申します。この者達は我がパーティの仲間達。どうぞよろしくお願い致します」

「貴殿がジャンヌの師匠か……若いな。皇帝陛下より『青光騎士団』を任されておるエドワード・ギルシュテインだ。歓迎するぞ強き戦士よ」


 挨拶を済ませると彼は奥へ入っていった。

 奥の扉が閉まる直前、手合わせするのが楽しみだと聞こえたが聞かなかった事にしておこう。





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