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幼女の危機

 帝都に続く街道に戻った俺達は、馬車とスーさんを準備し出発した。


 相変わらずスーさんの速度は凄まじく、野営を挟んだその翌日には帝都の手前の都市『サガント市』に到着する。ここもやはり大きな外壁に囲われた街で、城門の所でカードを提示しその中に入った俺達は、折角なので少し市内を見て回る事にした。


「待ちやがれっ!」


 そんな俺達に聞こえてきたのは男達の怒鳴り声、しかしそれは俺達に向けられたものではない。声がした方向の建物の間から見えたのは、一本先の路地を走る子供とそれを追う数人の男達の姿。彼等が口々に怒鳴りながらその子供を追い回しているようだ。


「揉め事は御免だが見過ごせない。皆はここで待っててくれ」


 俺はそう言い残すと馬車を離れて彼等の後を追いかける。しかし気になるのは周囲の反応だ。子供が何をしたにせよガラの悪い連中に追われているのに全く誰も関わろうとしない。それどころか街の人達の表情には彼等に対する恐怖の色さえ見て取れる。

 路地の突き当りにその子供が追い詰められたところで男達に追い着いた俺は、彼等を飛び越え子供の前に着地した。

 濃い赤のぶかぶかのローブを着てフードを被った子供の顔は全く見えないが、彼等への恐れからその身体は小刻みに震えている。


「何があったか知らないが、少々大人げないんじゃないか?」


 そう言って俺はその男達を涼し気に見つめる。人数は三人。全員が何かしらの『緑色』の装備や衣装を身に纏っている冒険者風の者達だ。そういえば以前、迷宮前で会った奴等も緑色だったな。確か『緑機衆』とか言っていたが、これは帝国の流行りなのだろうか。


「けっ余所者が!痛い目を見ないうちに消え失せな!」

「俺達、『緑』に刃向かうとここじゃあ生きていられなくなるぜ!」


 ふむ、彼等が纏う緑色には何か意味があるらしいが、取り敢えず関われば面倒なのは間違いなさそうだ。


「少し眠ってもらおうか」


 そう言いながら俺が威圧を放つと三人共すぐに気を失ってその場に倒れた。『緑機衆』の者はこの程度は耐えてみせていたが彼等がすごいのか、こいつらの程度が低いのか。


「もう安心だよ。大丈夫かい?」


 俺は後ろで小さくなっていた子供の前に跪くと優しく言葉をかけて手を差し出した。


「ひっぐ……たいぎである。ほめてつかわす」


 涙を拭いながら俺の手を握り身体を起こす子供。なんとも変わった言葉使いをする子供だな。


 立ち上がった子供が深く被ったフードを外すと、カールした美しい金髪とサファイヤのような青い瞳が見える。プリシラに負けず劣らぬ人形みたいに綺麗な子供だ。

 俺は埃で汚れたその赤いローブを叩き汚れを落としてあげる。しかしその手が子供の胸の辺りに触れると、いきなり手を叩かれた。


「おなごのむねにきやすくふれるでない。ふらちものめ!」


 どうやら女の子だったみたいだ。オニキスより年下に見える子供に不埒者扱いされるなんてショックだ。


「女の子だって知らなかったんだ、ごめんね」

「よい。そちはいのちのおんじんゆえ、ゆるしてつかわす」


「ありがとう。歩けるかい?」

「ん!」


 俺に向かって両手を伸ばす幼女。抱っこしてほしいという事だろうか。俺も両手を伸ばしてしゃがみ込むと彼女は両手を俺の首に回してしがみついた。抱きかかえると、何かが気になったのか俺の胸元を触りだす。


「これが当たって痛かったのかな?」


 そう言って俺はスクナピコナに貰った勾玉の付いた首飾りを取り出してみせた。この首飾りを貰った時は身体が小さかったので元に戻った時に首が締まらないか心配だったのだが、首飾も身体と一緒に大きくなっている。真ん中の一番大きな勾玉は丁度五cmくらいだろうか。不思議な事にこの首飾りはどうやっても外す事は出来ないのだ。


 首飾りを見た幼女の顔がみるみる紅潮していくのがわかる。暫く首飾りと俺の顔をボーっと眺めていた彼女だったが、それを俺が見ている事に気付くと咄嗟に目を逸らした。


「俺はシンリ。キミの名前は?」


 何だか微妙な空気を変えようと彼女に名前を尋ねてみる。追われていた事情も聞いておかないといけないだろう。


「わらわは……パプリカ……」


 うん、ウソ確定。散々キョロキョロして名乗った名前は、たった今通り過ぎたお店の名前だ。話し方といい、何か余程の事情があるのか……。


「パプリカ……は何故追いかけられていたの?」

「あやつらがろうぜきをはたらいておったゆえ、せいばいしてくれたまで」


 名前はともかく嘘をつく悪い子には見えない。恐らく彼等が第三者に乱暴していたところに出くわし、文句でも言ったのだろう。


「パプリカは人助けをしたんだね。偉いぞ」

「ふん!みどりのものはきにくわぬゆえ、とうぜんのことをしたまでよ!」


 誇らし気な自称パプリカの頭を撫でてあげると、また紅潮し耳まで真っ赤になって俯いた。


「ところでパプリカのお家は?送っていくよ」

「それはありがたい。では帝都ヤマトまでつれていってもらおう」


 目的地は同じなので問題無いのだが、そもそもどうやって帝都から離れたこの街に来たのだろうか。


「パプリカはどうやってここへ?親は一緒じゃなかったの?」

「りょうしんはすでにおらぬ。ここへはかくれていたばしゃがかってにきたにすぎぬ」


 悪い事を思い出させただろうか。はっきりと答えるパプリカの姿にかえって胸が痛くなった。しかし隠れた馬車が勝手に動いて隣の街までって、まるで小説みたいじゃないか。彼女の言動から、恐らく位の高い貴族の令嬢に違いない。誘拐の疑いをかけられるのだけは勘弁してほしいものだが。まあ放ってもおけまい。


「わかった。帝都まで送るよパプリカ」

「ふむ。たのんだぞシンリ」


 こうして帝都行きの一行に、幼女が一人加わる事となった。





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