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魔眼のオオナムチ様?

 オロチ討伐の御礼と、次代のオオナムチ様歓迎の宴が催され、俺達はここ神域アワシマで一夜を過ごした。

 もちろんミスティ経由で、向こうで待っているガブリエラに俺達の無事は伝えてある。


 国興しを助ける民だというだけあって、彼等の知識、技術は確かなものだ。建築、農業、林業は勿論の事、特に目を引いたのは医術と薬学、それに酒造技術。師匠の持っていた回復薬を超えるほどの効果を持つ『超回復丸』。薬学の知識の延長線上で研究されたであろう『神仙酒』はその美味しさもさる事ながら、飲むと一定時間、どんな大魔法を使おうと魔力消費がゼロになる。もちろん、彼等を以てしてこの二品は量産はかなわず、その精製量は奇跡に頼るような僅かなものだ。

 だがそんな貴重なアイテムを彼等は御礼にと少し分けてくれた。


 彼等のそんな技術を目の当たりにして、俺はある疑問を抱いた。彼等の結界内にはガブリエラは入れない。彼女ほどの存在を弾く結界内に何故あのオロチは侵入出来たのか。俺が出会った時の五本首状態ならば可能だろうが、あれはここで神気を吸ってから成長したもの。首が一つの状態で何の助力も無しに自力で侵入出来たとは考え難い。


「なあスマッシュ、そもそも何故オロチの侵入を許した?とても自力で侵入出来るとは思えんのだが」

「じつは…………」


 彼が言うには、本来であればこのアワシマには[開門]のスキルを与えられた者の助力無くして入る事は出来ない。しかしあのオロチは、突如浮かび上がった未知の『陣』の中から現れたのだという。それを至近で見た者の話によれば『陣』の向こう側に沢山の黒いローブを纏った人間達が見えたらしい。


「これも『黒の使徒』絡みか……」

「オオナムチ様、『黒の使徒』とはいったい?」


 被害に遭った以上、彼等も無関係では無いだろう。俺は現在知る限りの情報をスマッシュに話して聞かせた。


「……世の破滅を望むとは、なんと恐ろしい集団か」


 実際この話をする事で彼等は外の人間に対して不信感を高めるに違いない。そんな事を思いながら俯くスマッシュを見ていたのだが、彼が口にしたのは意外な答えだった。


「わかりました!『黒の使徒』に関しても我らは情報を集めましょう。オオナムチ様に敵対しあまつさえ世を滅ぼさんとする輩等放ってはおけません」


 自らの技術や知識の向上の為、彼等は常に外の情報も取り込もうと各地に情報収集に飛び回っている。しかしそれは、決して人間に見つからないように慎重に行われており、今回のようにわざわざ人間と接触する目的で出かける事は皆無らしい。


「その勾玉をお持ちであれば我々といつでも交信出来ます。今後得た情報は速やかにオオナムチ様にご報告致しましょう」

「ありがとう。ところでそのオオナムチ様っての止めないか?普通にシンリでいいから」


「いえ、我らの存在自体に係わる事ですので。ではオオナムチシンリ様」

「それじゃ長いよ……。わかった、好きに呼んでくれ」


「ところでスマッシュ、俺と戦った時に君が見せた空間跳躍は何だい?君にそんなスキルは見当たらないんだが」

「あれは何も特殊な事では無いからでしょう。我らの身体であればあれくらい出来ねば外での移動が不便ですからね」


 彼の説明では神気、俺達で言うところの魔力を足を置く場所に発生させそれに接触、その神気が霧散してしまう前に次の足場に移るだけだと。つまりは水面で足が沈む前に次の一歩を出せと言うのと似たようなものか。まあ、聞くと実践するのとでは違うのだろうが。しかし覚えれば役立ちそうだ、今度練習してみよう。


 その後巫女王と再び会い、今後の事を話してアワシマを後にする。昼食をと言ってくれたのだが外で待たせているガブリエラが可哀想だ。食事と言えば、ここで俺はこの世界で初めての『お米』を食べる事になった。彼等アワシマの民は、稲作を行っており米が主食なのだ。記憶の中で毎日のように食べていたそれを、シズカなどは涙を流して食べていた。俺も正直、感動で目が潤んでいたが…。もちろん大量のお米を分けてもらったのは言うまでもないだろう。


 来た時同様、エナジーに開門してもらい鳥居をくぐると、出る時には身体は元の大きさに戻っていた。目の前でガブリエラが透明化を解き、俺の前に跪く。


「おかえりなさいませ我が主君。この度は何のお役にも立てず…」

「気にしないでいい。それより残して行って悪かった」


「主君……」

「痛っ!」

「キュキュゥ!」


 ちょっといい雰囲気になりかけたところに乱入したのは同じように鳥居に拒絶されたサマエルだ。ガブリエラはどうも神格としての違いから入れなかったみたいだが、サマエルはその存在が結界に拒絶されたように見えた。


「そうだな。サマエルもごめんな」

「キュゥゥ……」


 頭に飛びついたサマエルを胸に抱え直してそう言うと、俺の腕の中で大人しくなった。仲間達が全員くぐり終えると鳥居はスッと消えてなくなる。皆、自身の身体が元通りになって安心したようだ。

 俺はスーさんを召喚しようとするエレノアを制し、皆を呼び寄せる。


「帝都までここからだと二週間弱。だがスーさんなら一週間とかからないだろう。俺は一旦ニャッシュビルに行きギルドカードから今回の戦闘履歴を消したいと思うんだが?」


「そうですわねお兄様。お米の国は秘密にしないと!」

「チロルに会えますねシンリ様」

 コク。

「我が君はだんだん何でもありになっていくのう。ほほほ」

「チロルに、会いたい……なの」

「久しぶりじゃんよ」

「チロルの修行の成果、見せてもらいましょう」


 こうして俺達は、ギルドカードの内容消去の為に迷宮下層に存在するニャッシュビルの村に全員で転移した。




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