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巫女王の使者

 ベアリバー村の温泉で、そのあまりの気持ち良さに二泊もしてしまった俺達だったが、村を出て半日ほどで山の上にある国境の関所に到着した。


 両国が友好関係にある為、左程物々しい警戒はされてないものの、簡単な受付はあるらしい。


「身分証の無い者は、こちらに記入を。冒険者の方はカードを確認させてください」


 警備の兵士の指示に従い、迷宮前にあったような小さな小屋でカードを出すと係りの者が次々と石板に翳し確認する。


「ありがとうございます。サーガ帝国へようこそ」


 テンプレが来ますわよ、とワクワクしながら待ち構えるシズカの期待を見事に裏切り、何の質問すらされずに俺達はあっさり関所を通過し帝国の領土に入った。


「ああっ、このシズカ一生の不覚ですわ!」


 関所を越えたところで頭を抱えて落ち込むシズカ。聞けば彼女のプランでは国境越えは全員が横一列に並び、同時に一歩を踏み出す予定だったとか。どこかで聞いたな、確かワゴン車で旅する番組だったか。


 まあシズカの件はともかく、ここからの道程は殆どが下りだ。無理な走りで馬車を壊さないよう注意しないとな。

 しかし走り出すと、大して馬車が前傾にならない事に気がついた。下を注意して見てみると、下り坂の勾配で馬車本体が前傾にならぬ様、スーさんの足が宙に浮いている。そういえばエレノアがそんな話をしていたな、宙を駆ける馬だったか。


 夕方になったので街道脇の小さな森の側に馬車を停め、今夜はそこで野営する事にした。

 焚き火をして木の枝に刺したソーセージやチーズを焼いて食べる。


「熱っ、あ、待ちなさい!」


 焼けたばかりのソーセージをシズカが食べようと口に運ぶが、あまりの熱さに驚き落としてしまった。落ちたソーセージはコロコロと地面を転がるとポッカリ開いた小さな穴に落ちてしまう。


「熱っ!アチィーあちあちあちぃー!」

「……はぁ?」


 転がったソーセージに手を伸ばした姿勢で固まるシズカ。同様にその『声』を聞いた全員が固まっている。

 辺りが静まりかえる中、穴の中からは更に話し声が聞こえてくる。


「あちぃけど何だコレ、めちゃくちゃ美味そうな匂い」

「バカ!上に人間が居るんだぞ。大声を出すな、気付かれたらどうする?」

「しまった。ってかコレ美味ぇーっ!」

「だから大声を出すな、ってか美味ぇーっ!」


[壁移動]スキルでそっと地中に潜って見ると、ウサギや野ネズミなどが通る様な穴が有り、そこには身長二十cmほどの小さな人が二人いる。俺は極力驚かさないように彼等に話しかけてみた。


「はじめまして。よかったら一緒に食事をしませんか?」

「ハウッ!!」


 まるでリスのように頬をいっぱい膨らませてソーセージを食べていた二人は、地中から突然現れた俺の『頭』に驚いて喉を詰まらせる。俺はもがく二人を地上に運ぶと小さなスプーンに水を入れ彼等に差し出した。胸やお腹を叩きながら水を飲んだ二人が落ち着くのを待って、改めて声を掛ける。


「驚かせてすまない。俺はシンリ、君達は『小人族』って事でいいのかな?」


 見れば見るほど不思議な者達だが、何より俺とシズカを驚かせているのはその容姿。髪は美豆良に結い、衣は筒袖でゆったりとした褌を履き、倭文布の帯と足結を施し、皮履を履いている。首や手には勾玉を使った装飾品を付け、腰には頭槌の付いた大刀を差していた。

 分かり易く言えば、歴史の教科書で見る古墳時代の衣装そのものだ。


「先程のスキルといい、その雰囲気といい其方かなりの腕前と見た。失礼ながらお手合わせ願おう!」


 挨拶をした俺に向かって小人の一人がそう言うと、抜刀していきなり斬りかかってきた。

 咄嗟にその初撃を躱すが何らかのスキルだろうか、彼は空中で着地し体勢を変えると再び俺に斬撃を浴びせる。再び躱した俺の周りを飛び回るように着地を繰り返しながら、彼の猛攻が続いた。速さだけならジャンヌ並みかも知れない。


 手にした大刀の特性が未知数な為、『聖霊装身(バプテスマモード)』を手だけに展開させ、その一撃を受けてみる。彼は強い。はっきり言ってガイウスの一撃より遥かに重い。

 しかし、ワザと受けたその一撃以外彼の攻撃は掠りもしない。その状況を十分理解した彼は、地面に着地し暫く息を整えると俺の足下に正座した。


「シンリ殿と申されましたか。私はスマッシュ。完敗です、貴殿ほどの強者は初めて見ました。失礼の段、どうかお許しください」

「いえいえ、スマッシュさん。正直俺も驚きました」


 ある意味その和風な姿に合わないその名前にも驚いたが、彼の強さは本物だ。すると端で相変わらずソーセージをかじっていたスマッシュの連れも慌ててその隣に正座する。


「私はエナジーと申します。一族最強の戦士スマッシュ様が手玉に取られるなんて初めて見ました!シンジ様はお強いですね」

「エナジー、シンジではない。シンリ殿だ」


 お供のエナジーは、何だか緊張感が無いな。天然か。


「さてシンリ殿、貴殿のその強さを見込んでお頼みしたい事が御座います!」


 真剣な顔で俺を見上げるスマッシュ。その真摯な眼差しに俺はその前に座って話を聞く体勢を整えた。


「シンリ殿に是非、我らが巫女王『スクナピコナ』様をお救い願いたいのです!」


 スマッシュの話によれば、彼等の王である巫女王スクナピコナが住まう神殿に、ある日どこからか大蛇(オロチ)が侵入し配下と共に神殿を占拠してしまった。オロチは閉じ込めた巫女王の神気をじわじわと吸い取り、その力を増していく。当然、一族最強であるスマッシュ達が巫女王救出の為に立ち向かったのだが、返り討ちに遭い救出は失敗した。

 そこで巫女王のお告げに従い救出を手伝ってくれる強者をここに探しに来たのだと。


「時は一刻を争います。こうしている内にもスクナピコナ様のお力は奪われ続けているのです!どうかシンリ殿、貴方が唯一の希望なのです!」

「お願い致しますチンミ様!どうか巫女王様を!」


 うんエナジー、シリアスな雰囲気返せ、誰が珍味だ。

 しかし俺達も帝都に向かう身、あまり時間を掛ける訳にはいかないか…。


「お兄様、まさかお断りになるだなんて仰いませんわよね?」


 迷う心を見透かしたようにシズカが俺に問いかける。


「しかしS級の試験に遅れるかも知れないぞ?」

「まだ一週間以上ありますわ。それにもし間に合わなくてもオロチ退治の方が面白そうじゃありません?」


 確かに、そんな物に拘る必要なんてないな。


「わかった、今すぐ向かおう。巫女王救出に協力するよ」

「おお、シンリ殿。感謝致します!ではエナジー、開門せよ」

「がってん!」


 エナジーが立ち上がり両手を伸ばすと高さ一mほどの鳥居が出現した。


「皆様には些か狭いかと思いますが、これが里の者では最大ですのでご容赦を。では参りましょう」


 そう言ってスマッシュが鳥居をくぐると僅かに空間に歪みを見せ、彼の姿が向こうに消える。


「転移に近い能力らしいな。では皆いくぞ」


 俺は、馬車を【魔眼】に収納すると仲間の先頭に立って、その鳥居をくぐった……。


 


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