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とある者達の攻防

「サンダースとスピンが死んだ。テオドアとアクセルも重傷だ」

「奴等の配下とは戦える。だがヤツは、オロチは強い!」


 一軒の木造の家の一室に数人の男達が集まり話をしている。彼等は一様に下を向き、その絶望感に満ちた表情が事の深刻さを物語る。そんな中、木戸を開けて一人の男が入って来た。明らかに他の者とは一線を画す雰囲気を持った彼の登場は、皆の顔を上げさせるに足るものだった。


「戻ったのかスマッシュ!」

「第一次攻撃に間に合わなくてすまない。結果は……聞くまでもないか。事は一刻を争う、早速第二次攻撃隊を編成しよう。今度は俺も出る!」


 スマッシュと呼ばれた男は、俯く暇など無いとばかりに彼等に指示をすると、彼自身も準備の為自宅に戻った。

 半刻ばかり過ぎた頃、集合場所になった広場には多くの精鋭達の姿があった。少し遅れてスマッシュもそこに姿を見せる。


「みんな聞いてくれ。まずは連絡を受けてからの帰還が遅れ、第一次攻撃に間に合わなかった事を詫びよう」

「そんな事はない。奴らの侵攻は突然だった。まさか人間の助力を得てオロチが結界を破ろうなどとは誰も想像さえしなかった事だ」


 侵攻の瞬間に立ち会った者達から、その悲惨な状況を伝え聞いたであろう全員が沈痛な面持ちを見せる。


「侵入された経緯を気にしても仕方が無い。問題は今オロチが神殿を占拠し、巫女王様の神気を奪い続けている事実。なんとしても奴が八つ首になるのだけは阻止せねばならない!」


 皆を奮い立たせる為、スマッシュは大きな声で檄を飛ばした。


「そうだ!巫女王様をお助けするんだ!」

「スマッシュがいれば負ける筈がねえ!」


 スマッシュの檄を受けて皆の士気が高まると、彼は部隊を幾つかに分ける。


「いいか、守備隊は居住区への配下の侵入を阻止。本隊はオロチ周辺の配下をとにかく引き付け、可能な限りその戦力を削ってくれ。突撃隊は俺と共に上空からオロチ本体を討つ!」


 部隊の配備と陣形が整うと、本隊はその洞窟の様な空間を奥へと進軍を開始した。大きく広い空間に出ると前方に多くの魔物達の姿が見える。


「本隊かかれっ!」


 スマッシュの号令を受け本隊が魔物の群れ目掛けて進軍する。陣形は鋒矢の陣。軍勢が矢じりの様な形をとるこれは敵の中央に打撃を加え尚且つ少しでもこちらの人員を多く見せる為の陣形だ。思惑通り敵の中央に侵攻、かなりの打撃を加えたところで敵の反撃が始まり、中央はじりじりと後退をさせられる。

 だがこれこそが彼等の策。中央を後退させつつ両翼は現状を維持、これにより敵をこちらに引き付けた形での防御に強い鶴翼の陣が完成した。鶴翼の陣に殺到する魔物達、これでオロチと魔物達の間に隙間が生じる。


「今だ、突撃隊いくぞ!」


 そう命じるが早いか真っ先に上空に飛び出すスマッシュ。それに突撃隊の精鋭達が次々続いた。


「スマッシュ危ないっ!」


 先頭を行くスマッシュに仲間の一人が身体をぶつける。すぐに体勢を整えたスマッシュが見たのは地上の蜘蛛型の魔物から伸びた糸に絡め取られて落下していく仲間の姿。


「ゲオルグッ、ゲオルグゥゥー!」

「俺に構うなスマッシュ!オロチを巫女王様をー……」


 魔物達の群れの中に姿が消えるゲオルグ。それを見たスマッシュは歯を食いしばり前方のオロチを睨みつけた。


「オロチイィィィィッ!!」


 その声と共に更に加速してオロチに迫るスマッシュ。だがオロチは避けるどころか気にする素振りさえ見せない。


 キイィィィン!


 スマッシュ必殺の一撃がオロチの硬い鱗によって弾かれた。見れば侵入時は黒だったと報告のあったオロチの身体は、今は灰色に変わっている。


「これは、巫女王様の神気なのか……」


『下がりなさいスマッシュ』


 攻撃が通じず呆然としていたスマッシュの頭に巫女王の声が響く。


『既に神気によってその身体を変えつつあるオロチに、我らの使う神気の技は通用しません』

「しかし、それでは巫女王様が。奴が八つ首になれば世界が滅ぶと……」


『落ち着きなさい、まだ希望はあります。セフリス山脈に現在、尋常ならざる力を持った人間がいます。彼に会い助けを乞う事が出来ればオロチを容易く屠ることが叶うでしょう』

「あのオロチを容易く……くそ!賭けるしかないのかその人間に!」


 スマッシュは同じようにオロチに斬りかかり呆然と立ち尽くす仲間達に撤退を指示すると、自身も本陣の後方へと戻った。


「この場は一時引く。撤退戦準備、三重の防衛線を維持し決して魔物共を居住区に入れるな!」


 魔物による追撃を凌ぎ切った彼等は再び一室に集まり、今後の方針を話し合った。


「……以上が巫女王様のお告げだ」

「そんな、人間を頼るなんて……」


 特殊な生態を持つ彼等にとって人間は『害』以外の何者でも無い。


「しかしいずれ我らが仕えるべき御方もまた人間だ。神気の流出を極力抑え込んでいるとはいえ巫女王様も長くは持つまい。他に世界を救う術は無いのだ」

「しかし信じられん。スマッシュでさえ倒せぬあのオロチを容易く殺す人間がいるなどと……」


「或いはその御方こそ、我らの待ち人やもしれぬ。俺は行くぞ!会って剣を交えねばその力量は測れんからな!」


 煮え切らぬ場の雰囲気に、構っておれぬとばかりにスマッシュは立ち上がる。


「エナジーを連れていく、人間をくぐらせられるのは奴くらいだ。あの無駄に巨大な[開門]にこんな使い道があったとはな。はは」


 エナジーと呼ばれた男が到着すると、彼の作り出した大きな鳥居の中に二人で消えて行く。


 後に残された者達は、地に座り祈るようにしてその姿を見送った。



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